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敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 二年生編(春)
26/205

十四人の楽しい乙女(4)

 合宿二日目。私と花は、真田さんと佐羽コーチと朝女ステージで練習だ。


 起床時間は朝七時と、通学の必要がないのでいつもよりも一時間遅い。ちなみに私は週末も道場の朝練に足を延ばしているので、意外と朝は強いのだ。

 花はいつもどおり。昨晩話し込んだ氷空もケロリとしている。だが恋子ちゃんと左は低血圧か、昨日の練習が堪えたか。ボーっとしつつ、むにゃむにゃしてる。


 おはよーの声が飛び交う食堂では、量は多くないけどしっかり五品が並ぶ日本人の朝ご飯をいただいた。豆とひじきの和え物が、甘じょっぱくて好き。

 ご飯を食べているときも恋子ちゃんの目が半開きだったのは、らしいって思う。私や花より家は近いけど、彼女は毎朝の自転車通学に根性がいるタイプだから。


「すみません、お待たせしてしまったようで」

「おはようございます。小枝さん、日影さん。では行きましょうか」


 部屋で荷物を準備し、花と一緒に流星館のお嬢さまロードをルンルンと歩いていたら、すでに待たせてしまっていたみたい。真田さんと佐羽コーチが立っていた。


 第二体育館までの道のりでは、二人からドレソをはじめたきっかけや現状の課題など、この道の先輩らしいことを尋ねられた。最近、うちの新入部員たちとも話していた話題だから、記憶を掘り起こすことなくスラスラと返答できる。


 そんなこんなでたどり着いた第二では、もはや恒例の反応をいただけて。


「話には聞いていたけれど……これが朝女の第二体育館なのね」

「……申し訳ございません」

「……ません」

「あ、ううん。謝らないで。ちょっと驚いただけだから」


 第二の外観を初めて目にした佐羽コーチは、ひくついた目つきで廃墟をじろじろ眺めたが、すぐに取り直した。真田さんは昨日見ていたからか涼しい顔だ。

 私も驚きましたけどね。明日香も失礼(爆笑)してしまって。と添えつつ。


 四人で館内に入り、帰ってきたぞーとも思わない見慣れた更衣室で着替えてから、ドレスソードプラットフォームを起動した。


 本日の練習メニューは「まず二時間ひたすら打ち合おう」である。


 この練習では1vs1を行いつつ、五分ごとに片方の選手がローテーションする。

 最初に対面したのはみんなの様子見も兼ねて、私と花。最近は劣勢気味なのを実感していたとおり、試合だったら私が二度ほどフェイタルされる結果だった。


 しかし、本当の問題は五分後に交代した真田さんである。

 彼女はこれまた、強者の名に恥じぬ相手だった。


 真田さんはおなじみの流星館ドレスに、銀アーマーを両足に着けて、右手に一振りの普遍的な日本刀を持っていた。ただしその構えは独特で、決まったポーズがないのか、立ち姿がやけに自然体。力もあまり入っていないように見える。


 そうした姿勢から繰り出された日本刀は、まさに柳のごとし。

 攻めるでも守るでもなく、恋子ちゃんのように強力な一撃もなく、葉月のように鋭い一太刀もない。言ってしまえばどっちつかずな攻防のはずなのに、気づけば一本を取られている。でも、昨年の菖蒲先輩との1vs1もこんな感じだったのかも。


 一方的にコントロールされている、みたいな。そんな錯覚に陥る感じ。


(逃げようにも離れられないし、寄ろうにも近づけないし)


 真田さんの斬撃は、それ自体が技になるような剣筋には見えず、どちらかと言えば「演武」のように美しくも妖しい型のように映る。

 それなのに、ソードを交えるごとにフェイタルされる感覚がどんどん強くなる。事実、毎回「あっ」と思った次の瞬間に、私の体は斬られていた。


 なんだか私よりも合気道っぽいんじゃ? じゃなきゃマジックかトリックだ。


「むー、真田さんは魔法使いみたいですね」

「魔法使い? 光栄だけど言いすぎね」

「だって、気づいたら絶対斬られてるんですもん」

「あら、それなら魔法使いじゃなくて詐欺師じゃないかしら」


 日本刀を丁寧に持ちながら、真田さんはクスクスと小さく笑う。

 ただでさえ小顔なのに、顔の左右を覆う巻き髪でさらに極小顔に見えるものだから、あんまり出来すぎた可愛らしさに詐欺を疑いたくなっちゃった。おそらく私がそれらの所作をまねしたところで、怪しげに笑う小物詐欺師で精一杯だし。


 それから私と佐羽コーチ(はデフォルト直剣のみ)、花と佐羽コーチ、花と真田さん、そして私と真田さんと……順番にローテーションを繰り返した。

 当たり前のようにド直球に強い佐羽コーチの存在は「うちにもコーチがいればなあ」の羨望になったが、いずれにせよ二人との対面は新鮮な体験である。


 一時間やって。十五分で休憩と相談。そしてまた一時間やってと。

 そこそこ動いていない時間があるとはいえ、二時間も続けているとさすがに疲労する。真田さんと佐羽コーチはいつもやっているからと、この場では対面せずのため、私と花だけ戦闘回数が多い。役得な反面、敵に塩な話すぎるとも思うが。


 まあ、これが流星館なりの「合宿してくれたお礼」なのかもね。痛いけど。

 二セット目を終えた私たちは、ステージの外に出てから小休止を取った。


「ぜー、ぜー、疲れたー!」

「ゼェ……ゼェ、ありがとう、ございました」

「小枝さんも面白いけど、日影さんはたった一年でこれか。たしかに期待ね」

「コーチもそう思いますよね? 私、少し羨ましくなりましたもの」


 昨晩の夕食でも小耳に入ってきたけど、流星館側の日影花への評価はホンモノみたい。実際のところ、花の成長速度は私のそれとは比べようもない。

 ちょっと居心地が悪くなってきたが、真田さんの視線は私にも向けられた。


「それに、小枝さんは本当にシールドブロッカーなんですね。初めて見ました」

「一年前にこの場所で、悪い先輩にはめられたんです」


 思い出しても不満はないくらい、今がしっくりきちゃってるけど。

 続けて佐羽コーチが、ちょっと深刻そうに質問してくる。


「戦術自体は悪くないんだけどね……大丈夫かしら。ストレスじゃない?」

「ストレス? しいて言えば、体は痛いです」

「うーん、そうじゃなくて。ドレスソードやってるのに、って意味でかな」

「ふむ?」


 大先輩の言葉を解説すると「ドレソで華々しく相手を斬れないのってつまんなくない?」ってことみたい。ふむ。言わんとしていることは分かる。千恵が吹奏楽部に入って、縦笛しか吹けなかったら、そりゃストレスだろうし(?)。


 つまり、盾だけだとつまんないから辞めたくならない? って意味か。


「そういうことなら平気です。つまらなくもないですし」

「すごいわね。シルブロって昔、役割がつまらないって退部者続出だったのに」

「すごいですよね、小枝さん。私も流星館でもそこまで献身的にはできません」

「そうなんですよ。りっちゃんってすごく優しいんですよ」


 いやあ、献身とかじゃないし……。花もそうなんですよって、それなにが?

 べた褒めされてもさ。手を出さない武道が、私の本流なだけなんだけど……。


 攻撃すれば相手を倒せる。真理のような因果だけど、私にとっては美しくない。小枝合気道道場でもそれを誰もが徹底しているけど、私ほど曇りなく受け止めている人はそうはいない。合気道を体現する、選ばれし不真面目娘なんだから。


 あれ。逆説的に考えたら私って、疑似的とはいえ暴力で成り立っているドレスソードという競技において、誰よりもすてきな慈愛の女神さまなのでは?


「あのお、ついでにちょっと聞いてもいいでしょうか」

「どうぞどうぞ。それがコーチの仕事ですもの」

「朝女の私でも?」

「ドレソ選手のあなたたちだからよ」

「ひゅー。でまあシールドブロッカーってこれ、ポジションなんですか?」


 これまでずっと「私はシールドブロッカー、らしい?」と受け止めてきたけど、じゃあ花はなに? 恋子ちゃんはなんなの? 処刑人って役目?


 サッカーのサイドバック。バスケのポイントガード。そういうポジション的なものだってのは分かるけど、現代のドレソ界にはその用語がないんだよね。

 インターネットとか雑誌とかを見ても、「ドレソのシールドブロッカー」みたいな呼称が見当たらないの。先輩たちにもついぞ聞き忘れてた疑問だ。


 拙いながらもそう伝えると、佐羽コーチは丁寧に教えてくれた。


「公式で廃止、というより空気的に廃れたってのが適切かな。本来は攻撃手をブレードアタッカー、防御手をシールドブロッカーと呼んで、そのほかの細かなポジションを設定していた時期もあったんだけど、部活基準でシルブロを割り振っても痛いし、怖いし、つまらないからって退部者が続出したの。あと天剣衆の惨劇以降はね。もうみんな攻撃手だけでいいじゃんって、攻めの競技にシフトしたから」


 だからシールドブロッカーなんて呼び方、私も久々に聞いたわ。

 ってことらしい。


 となると私って、菖蒲先輩が変に物知りだったゆえのシルブロだったのか。

 疑問が解消されたのと同時に、いつだったか花に聞いたドレソと天剣衆の関係も思い出した。ドレソの変化って大体、天剣衆のせいなんだね。


「でも、小枝さんは脇差し? もあるのよね。あれで攻撃するのでしょう」


 今はステージ外にいるから着装していないけど、真田さんが私の備えているもうひとつのソードについて指摘する。


「はい。あれは忍者刀ですけど」

「忍者刀……それって笹倉さんの?」

「ええ。もともとの直剣も同じサイズにしていたので、譲ってもらって」

「そう、あの人の。いいわね。そういうの」


 彼女は目を細めて、親し気に微笑んでくれた。真田さんはたしか菖蒲先輩のことを評価してくれていたらしいから、本当にそう思っているのだと信じられる。


「ただ、上手に使えないし相手も悪いしで、実戦で使ったことは一度しかなくて」

「小枝さんの去年の相手って、葉月や天河海音さんだったものね」

「あんなの、蟻に象をぶつける所業ですよ」

「うふふ、ごめんね。でも練習すれば、そのうち切り札になるんじゃないかしら」


 そのうち。そのうちね。その言葉は私もそのうち信じたいと思っている。


「盾で受けて、忍者刀で反撃する。それができれば小枝さんは強敵よね」

「せめてJDSまでに、相討ちくらいはできる鉄砲玉になりたいですけどね」

「あら。たぶん、目指すべきはそうじゃないと思うけれど?」

「へ?」

「リスクなくスラッシュを狙う。それが一番脅威だわ」

「望の言うとおり。それが相手してて一番嫌だろうね」


 二人が言うに、私はカウンターでフェイタルを狙うべきではない。

 まずは手傷のスラッシュを負わせる。それが勝ち筋につながるという。


 とどのつまり、盾で攻撃をしのげる、しのげないに関わらず、スラッシュによる身体部位の重量加算で「私の防御をもっと崩せなくなる状態」にする。

 私を倒すのが難しい状態にまで持っていけば、小枝律子はステージ上でもっと生き延びられるし、ほかの人と立ち位置をスイッチして別の相手を受け持ち、その間に弱体化した相手を倒してもらう、なんて戦術も生まれてくるんだとか。


「あくまで理論値な考えだけど。守備を強固にするための攻撃っていうのかしら」

「似た選手はいても、盾メインで剣サブはさすがにいないから。斬新だろうね」

「目からうろこ。そんな考え方があっただなんて」


 まさか、こんな天啓が流星館から授けられるだなんて。聞いてます? 先輩?

 それは冗談としても、敵である人たちに示された道は、実に魅力的に聞こえた。


 そう、魅力的ではある。大きな問題点さえ除けばね。

 それを知ってか知らないでか、私の幼なじみは勝手に狂喜しはじめる。


「すごい! りっちゃん! それ絶対いいよ!」

「まあ、今よりはいいんだろうけどさ」

「ううん! 絶対強いって! そうしようよ!」

「でもだよ」

「うん」

「そもそも、真田さんや葉月からスラッシュ取れる気しないんだけど」

「それは、えっと、んんん……がんばろ」


 フェイタルじゃなくスラッシュでいい、って言われてもね。結局そこだ。

 下手な鉄砲を数撃っちゃったせいでやられる。未来の私がたやすく想像できた。


 昼食までの時間(朝女ステージ組は食堂で用意してもらえるお弁当)、私と花は先ほどの練習のフィードバックを受けながら、少しずつ体の動きを調整した。

 昼食後、私は佐羽コーチが知る反撃手段を(覚えきれないほど)教えてもらい、花は真田さんとひたすら対面していた。なんでも昨日もずっとやってたとかで。


 器用じゃない私とは違い、花は教えられずとも観察し、理解し、応用する。

 一七時になっても花が真田さんを上回ることはなかったけれど、一方的に倒される時間は徐々に減っていった。姿が怖がる理由も、徐々に目に見えてきた。


 練習終わり。清潔度MAXの流星館のシャワー室に恋い焦がれながらも、私たちは更衣室の横で汗を流し、流星館の部活棟に帰る。もうあっちの子になりたい。

 流星館ステージのほうもとくに問題はなかったようで、一人を除いて賑やかだ。


「猪戸さんのソード、ほんと怖かったー!」

「私さっき死んじゃうって思っちゃったよ!」

「右野さんが処刑人って言ったのも分かるー!」

「あんなの絶対持てないよね!」

(あんなの絶対モテないよね。ぷぷぷ)


 脳内で意地の悪い言葉に置き換えてしまった。失敬、失敬。

 徳永さんや成瀬姉妹から噂くらいは聞いていたのか、流星館の下級生の子たちは本日、朝女名物の大撃腕部長によるホラー体験を実際に味わったみたい。


 その間、注目の的であった恋子ちゃんは、場の空気を読みながらも眉を歪めて「たはは……」って消沈していた。ううう、大丈夫だよ、恋子ちゃんっ!

 ステージにさえ立たなければ、ここにいる誰よりも可愛いからねっ! 本気で。


 この日の夕食後も、私たちは夜練習に励んだ。

 ただ、終了時間前には朝女も流星館も練習を終え、流星館ドレソ部に割り当てられたお部屋にみんなでお邪魔し、合宿らしく十数名でガールズトークした。


 会話の内容は「光刃は片刃もオススメ」「あのアーマーいいよね」「黒須のファングみたいなの憧れー」「日影さんの頭の花ちょーかわいい」「さっき公開されてたソード見た?」など、ドレソ乙女っぽい物騒な話題で持ちきりだったけど。


「葉月のパジャマ可愛いね」

「……姿がこれじゃなきゃダメって」

「この子、家だとシャツ一枚で寝たりするから。さすがにね」

「ふーん。葉月っぽい」

「……わざわざ言わないでよ」


 余談だが、葉月は誰よりも早く、気づいたら眠っていた。葉月っぽい。

次回「十四人の楽しい乙女」(5)。

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