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敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 一年生編
16/205

ぶっ飛ばせ、ぶっ飛ばせ!(2)

 十月。私たちはドレスソードを続けていた。冬の個人戦大会ウィンターブレードには各校二名まで自由に参加できたけれど、参加したいという人はいなかった。経験はなによりの財産だろうけど、今のままじゃ先が見えていたから。

 最近は練習後、体が痛くなることも少なくなった。盾の扱いにも応用法が見えてきて、恋子ちゃんの偃月刀を受ける、と見せかけて空振りを誘発するなど、大物ソード相手には結構使えそうだ。合気道の接近術「入身」を参考に、体をぶつけずに相手の死角から密着するのも、このあたりから力を入れはじめた。


 うまく使えば七咲鈴子さんとは言わず、榎本さんのような相手にも近接距離で攻撃させはしない。密着状態でソードを振り回せる人はいないからね(ただし、恋子ちゃんの偃月刀の柄がみぞおちをついてグエエってなる事故はあったりした)。


 十一月。三年生なのに練習ばっかでいいんですかと軽口を叩いたら、菖蒲先輩が「推薦受かったし」と言い出した。三人でもみくちゃにしたら、先輩がキレた。

 この日の帰りは、みんなで自転車帰宅中にしばしば寄るファミレスに行って、夜まで「菖蒲先輩の大学入学おめでとう会」をやった。私は家族に連絡をし忘れていて、家に帰ったら母と姉と妹にまで頭を叩かれた。父だけが見逃してくれた。


 十二月。そろそろスタートダッシュのご利益もなくなってきて、期末テストに暗雲が立ち込めてきた。そんな私を、三人が順番にお世話する毎日がはじまった。

 花は入学後もずっと優等生だし、同学年で同じクラスだから当然のように神である。恋子ちゃんは文系科目が強く、菖蒲先輩も理系科目が学年上位に名を連ねるなど、昔はとんでもない悪ガキだったとは思えない優秀さ。口にしたら叩かれた。


 一月。年明けの夜中0時に、みんなで初詣に出かけた。ドレス持ちなのに誰も振り袖は着てこなかった。この日は外が冷えていたから、都心とは言えない田舎町ならでは、真っ暗闇の夜にきれいな星が輝いていた。流れ星はなかったと思う。

 私たちは「新入部員が来ますようにー!」と願掛けした。JDSからだいぶ経っていて、相変わらず対外試合は一度もできていなかったけれど、菖蒲先輩も含めて私たちのモチベーションは高いままだった。四人の毎日は、普通に楽しかった。


 短い冬休みが終わり、しばらくしたころ。第二体育館に成瀬ちゃん家の葉月ちゃんと姿ちゃんがやってきた。なんでも朝女の出禁話を聞いてきたみたいで。


「うっ、ぐっ、ちょっ、だからそれ早いってば! 見えないってば!」 

「律子すごい。ここまで盾に専念する人がいるなんて。初めて見るよ」

「つーか、あんま相手してくれちゃってると、そのうち勝っちゃうよ」

「私が斬るより速く、願い事を言えたらね」

「ふん、カッコつけ」

「嫌いじゃないでしょ?」

「わかってるくせに。だから、ちょっ、いぎぎぎぎ!」


 同じB代表地区のよしみか、友人としての縁か。この協力はとても嬉しかった。


 葉月と姿の存在は、試合ができない私たちには刺激的だけど、対策とかそういうのってあるじゃない? それも倒される立場にいる流星館に不利に働く気がするんけど。そう言うと二人は、朝女は珍しいスタイルが多いから個人練習になっていいんだとさ。それでもどうかと思ったけど「いいよ、勝たせはしないから」って。


 ほんっと、葉月ってばコテコテにカッコつけなんだから。超カッコいいし。


 成瀬姉妹は、昨今では世にも珍しい盾専門の私をバシバシ叩いた。ときには三人ずつにわかれて試合形式の経験も積ませてもらった。ただし一組を除いて。


「姿さん?」

「……あーごめん。私さ、花ちゃんとの1vs1だけは無理」

「えっ、あっはい。わかりました、その」

「ごめんねー。葉月はあんなこと言ってるけど……私さ、花ちゃん怖いから」


 姿は花との1vs1だけは拒否した。3vs3ですら相手側を嫌がった。私や恋子ちゃんとは違い、花は本当に怖いからって。二人が今後も対面する可能性を考えれば、それは真っ当な意見だ。これに関しては変な空気になることもなく、誰も異存はなかった。むしろ、花は喜んでいた。姿にそこまで認められていることを。


 二月。葉月が菖蒲先輩に1vs1の個人戦を願った。菖蒲先輩も断りはせず、いつもの卑怯な技も使うことなく戦った。結果は3:1で葉月が勝利したんだけど。


「笹倉さんはなんて言うのか。手加減はしていませんよね」

「当然じゃん。葉月ちゃん相手に手加減できるほど頂点極めてねえよ」

「でも違和感があります。動きが読まれてるのに、動作が合ってないみたいな」

「葉月ちゃんは鋭いなあ。視力が弱くてさ。ステージだと細かいのがボケるんだ」

「ああ……それで。うちの真田部長が言ってたんです。地区大会のこと」

「朝女にとんでもねえ美少女がいたぞって?」

「笹倉さんが本調子じゃなかっただけで、もしかしたら勝てなかったかもって」

「買い被りすんな。笹倉菖蒲なんざこんなもんだ」


 そう言った二日後、菖蒲先輩が葉月にリベンジを願った。そしたら今度は1:3で菖蒲先輩が勝っちゃった。これには一同唖然。葉月もビックリしていた。


「見えないけどさ、覚えちゃえばね。ざっとこう。身内読みだけどな」

「……お見それしました。これほどさばかれると、ちょっと落ち込みます」


 葉月が本当にシュンって感じで落ち込んでいた。あら可愛い。


「葉月ちゃんはさ、近接攻撃のテンポの速い遅いをコントロールしてフェイタル狙うじゃん? 斬撃もいろんな角度を取れるし、前後左右の体重移動も速いし、リーチを生かして一方的に近中距離を握れるから、普通の選手ならなにもできずに潰される。インファイトの強みが半端ねえよ。けどさ、接近するまでのリズムが単調。そこでのプロセスまで直線的すぎるからこうなる。まだ捉えきれないリッコみたいなのには楽勝かませるけど、白鳴や黒須くらいだとカモに見えるだろうよ」


 菖蒲先輩が恐ろしくガチなコーチングをしはじめた。


「コーチにも、指摘されたことなかったです」

「強みの斬撃自体を伸ばしてやりたかったんだろ。だから次のステップだな」

「はい、ありがとうございます。天河海音にあしらわれた理由も理解できました」

「いいさ。こんだけ協力してもらってんだから。苦しむのもリッコたちだし」

「ちょっと! やめてくださいよ後輩いじめはっ!」


 そういうとこばっかり誠実なんだから、もうっ!


 あと、このときの戦いはよく覚えている。私はこれまで菖蒲先輩と対面するとき、盾を叩かれてばっかりで剣を交えることはなくて、花にしても一撃とけん制と回避に重点を置いていて、恋子ちゃんも一撃爆殺なタイプだし、大会動画も俯瞰視点だから間近で見たことはなかったけど、正道な相手と斬って受けてを演じる先輩の動きは、邪悪と評されるにはなかなかどうして。とてもきれいだった。


 三月。菖蒲先輩は卒業式の前日まで、ずっとドレソ部の部長でい続けた。次の新部長には恋子ちゃんが指名された。菖蒲先輩は「JDSが終わるまででいいぞ」って伝えていたけど、恋子ちゃんは学業に問題がない限り、ううん問題があっても、来年の今日まで先輩と同じことするじゃないかな。なんとなくそう思った。


 卒業式の準備をするだけのこの日は、午後からの時間が丸々と開いていた。

 私たちドレソ部には伝統はなかったけど、吹奏楽部にいる千恵が言うには「うち今日、追い出し会やるよ」ってことだったので、三年間この朝女ドレス部を支えてきた菖蒲先輩に敬意を払い、即席の追い出し会として一人十本勝負を敢行した。


 そしたらね、菖蒲先輩ね、予想していたけど三十戦三十勝しちゃったの。


 私は半年以上の月日で、盾で受ける、流す、さばくを磨きつつ、相手のソードを斬撃に合わせて叩き返す、幽霊のようにスルッと相手に近づき、シャキンと抜いてグサッと刺す(後半は理想)といった新たな手段を身に着けている。

 花はエストックを用いた立ち回りがものすごく洗練され、今では同時スタートをきったとは思えないほど選手としての格に差ができた。一撃必殺の「ぺルセ」、それを避けられたときや反撃の一手とする「竜巻」も完璧に取り込んでいる。


 恋子ちゃんについては、これから私たちがアヤメ砕きを活用できないことを懸念して、前からときどきやっていた偃月刀の全力片手振りを「大撃」とし、それを叫んでも耐える羞恥心を養った。真っ赤になったときの顔はマジ、元祖可愛い。

 それでも、菖蒲先輩には誰もスラッシュすら与えられなかった。疲労で動きを乱すことなく、サクッと決めるときは決める。げへへと眺めるときは眺める。三十戦をつなげて映像にしたら、忍者による三十人斬りの殺陣に見えるかもしれない。


「恋子のあれ、初心者にやったらドンびきだな。一瞬殺されるかと思ったわ」

「恋子ちゃんの偃月刀ってマジひきますよね。私は最初っから思ってました」

「私も……その、気を強く持ってないとちょっと怖いかもです」

「や、やめてよそういうのー! 可愛くないの気にしてんだからー!」

「いや、可愛さなんて欠片もねえよ。恋子は今度から大撃腕って呼ぶわ」


 むーって膨れる恋子ちゃん。彼女のパーソナリティからすると酷すぎる異名だけど、私と花は耐えきれずに爆笑してしまった。そしたら菖蒲先輩の矛先が。


「リッコはこまいことばっかするようになったから、小技のリッコだな」

「枝です。苗字も引っかけて微妙にうまいこと言ってるんで、絶対嫌です」

「花はなあ、なんだろ。ヒカゲバナでいんじゃね。モンスターっぽいし」

「ヒ、ヒカゲバナ……」

「名前呼んでるだけだし」

「邪悪を襲名できる人もいないしねぇ」


 私たちはそれから練習もしないで、第二体育館を閉める十七時まで、つまらない話をして笑った。このまま話し続けても一生飽きないんじゃないかってくらい話して、この一年間で一番楽しかったんじゃないかってくらい笑って、短すぎる残りの時間を引き延ばしたくて、みんなで話し続けて、みんなで笑っていた。


「さあて。先に着替えていいぞ。ドレソの電源は落としとくから」


 それでも帰りの時間はやってきた。今年度で最後のシャワーの時間が訪れた。

 私はどうしようもなく寂しくて、一人でいたいかもしれない菖蒲先輩にくっついて、ドレスソードプラットフォームの電源が落とされる瞬間を見守ることにした。


 そしたら不意に、私にとっては非常に不意なことに、菖蒲先輩が言いやがった。


「ありがとな」

「……ほへ?」


 このときの私のまぬけっぷりったらなかった。


「リッコと花がいてくれて助かった。おかげでJDSに出れた」

「そういうの、やめてくださいよ。今そういうの、言うの」

「こういうときは、おセンチで恥ずかしいくらいでちょうどいいんだよ」

「私、JDSで負けました」

「いいよべつに」

「いえ、負けました。練習してないし考えなしだったから」

「気にすんな」

「でも」

「恋子は付け足したろうけどさ、私はリッコ、花、恋子にマジで感謝してる」

「……」

「お前らが想像できないくらいでっかくな。人生史上最大級の感謝だ」

「……」

「そりゃあ、スズにも海音にも勝ちたかったよ。六年近く負けっぱなしだし。おまけに目はどんどん見えなくなるしで、強くて速いやつらがなにやってくんのかわかんなくなるしで、自分が弱くなるのは恐怖だったさ。それでもお前らが最後にぶん殴るチャンスくれたから最高に満足してる。それ以上なんてもういらねえよ」


 私たちが弱かっただけ。だから八つ当たりだけど、その清々しさにイラついた。


「菖蒲先輩はもっと練習させるべきでした。私たちが嫌になっても」

「嫌だよ、そんなん。みんなの愉快な女子高生活にケチつけたくねえし」

「ドレソ部の部長なんだから、それでもよかったじゃないですか」

「よくねえよ。私怨のために他人を利用できるほど利口じゃねえし」

「全国優勝のためだとか言ってくれたら、もっと乗り気だったかもしれません」

「乗るなよ、そんな泥船。仮に私が熱血部長やっても結果はそんなに変わってねえって。私らとあいつらにはそんぐらい差がある。時間と努力と才能がステージ上で裏切りでもしなきゃ、がんばったやつが順当に勝つ。それがドレソだ」


 なんて憎たらしいんだろう、ドレスソードさんって子は。


「……そういう風に言われたら、努力してない私は悔しいって言えない」

「構うなって。言えよ。理不尽な主張こそ女子高生の特権だ」


 平然と飲み込んで笑う先輩がどうしようもなく憎らしいし、悲しくなる。


「大学でも続けますよね、ドレソ」

「いや、たぶん無理。そろそろ目が……ううん、弱くなるのに耐えられない」

「それでも続けさえすればいつかきっとって、あるじゃないですか」

「やればいつか道が開ける、全国最強だって夢じゃないって? そんなこと言えるヒーローになれねえから、なあなあの毎日を選んだんだ。もう十分だよ」


 ああ言えばこう言う。むかつく。むかつく。


「地べたに這いつくばっても勝ちにいったくせに」

「私にはちょうどいいじゃん。最後にはお似合いだったよ」

「頭のいい人が言いそうなことやめてください。先輩のそういうとこ嫌いです」

「クソチビのくせにがんばったなあって、ほめてくれりゃそれでいいのに」


 むかつく。むかつく。菖蒲先輩マジむかつく!!!


「私は、勝ちたかったです。あのときからだけど、都合がよすぎるかもだけど」

「来年に生かせって」

「菖蒲先輩に、先輩に勝って、ほしかった、から。勝ちたかったんです」

「……はあ、あーあ! ほんっと! マジで! マジでよー! 勝って殴ってふんぞり返って! 私のほうがつええ! どうだ見たかザコが! って言いたかったさ! 目の上のたんこぶに負けっぱなしでさ! 私も、一回くらいは勝ちたかったよ。でも言っても詮ないだろうが。こんなときにごねんなよ。菖蒲ちゃんのドレソはもう終わり。小技のリッコらしく技効かせて笑顔で送ってくれよ。な?」


 それが本音なんだ。誰よりも強くて、強い意志を持っていて、それに私たちを付き合わせる決断はできなくて、うざったいくらいにうっとおしい勧誘をしたくせに、ほかの人たちの歩調に合わせて同じ速さで歩いたんだ。菖蒲先輩は。


 いまさらなにを言ってもどうにもならない。これは長らく置いてきぼりにしてきた、ただの地方大会の反省会。負け犬たちが必死に遠吠えしてるだけ。人生の節目にはまったく似つかわしくない。なんてしょうもない一幕なんだ。これから私たちは二人だけ、さっきの最高に楽しかったひとときの思い出をこんな情けない悔しさで上書きして、帰り道から、寝るときから、明日の卒業式から、その先の新たな門出をくぐったずっと先まで、負けた日々を嘆いて残りの人生を送るのだ。


 ここで終わらせたら。


「じゃあ、私が勝ちます」

「は? なにに?」

「私が七咲鈴子をぶっ飛ばします」

「いや、あいつも今年で卒業だし」

「なら、七咲鈴子の意志を継いだ、次の白鳴ドレソ部をぶっ飛ばします」

「スズもいねえし、私もいねえじゃねえかよボケ」

「いいんです! 私が菖蒲先輩の仇を受け継いで! 白鳴の後輩が七咲鈴子の力を受け継いで! その子たちに私が勝ったら、先輩も勝ちですよ!」

「むちゃくちゃだな、おい」


 菖蒲先輩はおかしくなってきたのか笑った。私もおかしくて笑った。


「いいじゃないですか! 誰がなんというと七咲鈴子も白鳴も認めなかろうと! 私が勝ったら、どうだ勝ってやったぞザコが! って言えば私らの勝ちです!」


 もう勢いしかないけど、いったれ! リッコ!


「誰も認めねえってそんなん」

「私が認めます! 私だけが菖蒲先輩の勝利を認めてあげます! それだけで十分じゃないですか! 私なんか先輩にこの一年間で散々弄られてきたんですからね、もはや先輩の弟子ですし! 盾の忍者ですよ! これでも足りませんか!?」


 私がなにを言ってるのか、きっとどっちもわかってない。


「足りませんかって、てかお前はダガープリンセスのファンだろ」

「もはやどうでもいいです! 憧れだったのはさっきまで! 知らない七咲鈴子より、知ってる笹倉菖蒲ですよ! 当然じゃないですか! 先輩の仇なら私の敵だから、今からダガープリンセスの後輩が私の倒すべき宿敵です! 私がぶっ飛ばしてあげますよ! そして菖蒲ちゃんのドレソを勝利で飾ってやりますよ!」


 どっちも笑いの波に堪えられなくなってきて、吹き出す直前だ。


「お前さっき、私のこと嫌いって言ってたじゃんか」

「嫌いですよ。でも大好きだから嫌いじゃないです」

「おま、ぶっ、ぶっはっははは! お前まじほんと! ぶっははは!」

「ぶふっ! あっ、あっははははははは! あーっはっはっはっは!」


 そういうわけで拝啓、七咲鈴子さま。

 僭越ながらこれより、貴方さまの後輩の皆さま方を全力でぶっ飛ばして、負けても勝つまでぶっ飛ばして、私が勝ったら笹倉菖蒲の勝利とするドレスソードの修羅になります。いいえ、ご納得は結構。ご理解も無用。貴方さまを含む周囲の方々が私のことをなにひとつ認めずとも、私の考えが無知で無様で滑稽と罵られようと、私の私怨による仇討ちのため一向にかまいません。そのうえで私、小技のリッコは、ダガープリンセスの後輩の皆さま方を絶対ぶっ飛ばすことをここに誓います。


 もし、この復讐が叶っても、あんたらはくだらない子供じみた子供話とでも言うがいい。それがたとえ笑い話にしかならなくっても、私が尊敬する彼女の人生の糧になるのならそれだけでいい。十分だ。だから成し遂げてみせましょう。


 七咲鈴子とその後輩、あとは天河海音たち、ついでに成瀬葉月も!

 あんたらがいくらドレスソードに愛されたヒーローじみた存在だからってなあ、こちとら女子高生だぞ! 普通の女子高生の無敵の理不尽さを舐めんなっ!


「あっ、ついでに菖蒲先輩の忍者刀のデータください」

「今かよ。リッコ使えんの?」

「まあ、どうせ剣はそんな使わないですし」

「しょうもねえやつだな」

「サイズも同じですし、第二ボタンとか形見分けとかそういうノリで」

「死んでねえから」

「それに仇討ちの証拠品にはピッタリじゃないですか?」

「呪いのアイテムかよ。まあいいけど、共有しとくぞ」

「やった」


 菖蒲先輩の忍者刀のデータが、コンソール上で私のDSチップに共有された。

 ああ、アヤメなんだ。知らなかった。先輩の忍者刀には「アヤメ」という名前がつけられていた。なんというかこれだと、本気で仇討ちな感じ出てきたね!


 共有が済むと、先輩は未練も感じさせない軽やかな手つきでドレスソードプラットフォームの電源を落とした。なにもかも思いつきだったけど、あとで自分自身と花や恋子ちゃんにも相談しなくちゃだけど、この人の三年間の重みを少しだけでも背負わせてもらえたのであれば、来年度も乙女たちの決戦場を心待ちにできる。


「つっても気をつけろよ。新入部員なんて都合よく来ねえから」

「大丈夫です。私みたいな従順な美少女を絶対に見つけます」

「言ってろ普通顔」

「むー……ん? あれ? なんでしたっけあれ」

「ヒント0なんだけど」

「菖蒲先輩に初めて会った日、なんか不思議ちゃんなこと言ってましたよね」

「ぶん殴るぞてめえ」

「なんでしたっけ。なんか匂っただとか、聞こえただとか」

「……うぜえな。あれだよ。出会いの季節には聞こえてくんだよ」

「なにが。エモい感じですか」

「ドレソがやりてえ女子高生なんざ、怪しい電波飛ばしてるみたいにどっかおかしいやつばっかだから。同類の波長を信じろ。脳みそにグサッとくる声でも聞こえてきたら、バスケ部志望だろうがなんだろうが有無を言わさず連れ帰れ」

「菖蒲先輩みたいに?」

「そうだよ。だって間違ってなかったろ?」


 げへへ。菖蒲先輩が笑ったタイミングで、花と恋子ちゃんがシャワーも着替えも終えて更衣室から出てきちゃった。私と先輩は最後の部活の日をゆったりと味わうこともなく、乙女にしてはぞんざいなシャワーの浴び方で、濡れた髪もそのままに急いで着替えた。今日だけはなんとなく、髪を三つ編みにしてみた。

次回「やかましい季節【エピローグ】」。

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