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敗北のドレスソード  作者: 手遊花
朝倉女子 一年生編
15/205

ぶっ飛ばせ、ぶっ飛ばせ!(1)

 七月。地方大会は黒須第一を相手にしながらもストレートで勝ちきった、白鳴女学院の優勝で終わった。葉月たちの流星館も黒須第一に負けはしたものの、ベスト4入りを果たし、学校と部活の設立二年目にして全国出場を達成した。


 夏休みに入ってからもドレソ部の活動は週四回で行われた。いつもはみんなで熱いなか練習して、帰りにファミレスでお喋りして、ときどきプールに行って、ある日はショッピングモールに行って、そこでドレスコードのファッションショーに四人で飛び入り参加しちゃったりして、思いのほか夏の季節を楽しんだ。

 小枝合気道道場にも以前は日曜午前のみの参加だったけど、土日午前の参加に進歩した。母、姉、妹はうすーいリアクションを返したが、父だけは台所で鼻をかんでいた。この大した成長ぶり、もっと真面目にほめてほしいもんだよ。


 八月。私たちドレソ部の四人は、みんなで花の部屋にお泊りして、TVでJDS全国決勝大会を二日連続で観戦した。今年もすさまじいことに、昨年の風雲児であるダガープリンセスこと七咲鈴子が率いる、白鳴女学院の独壇場となった。


 白鳴のドレスは、あの薄汚さ全開の罰則級な灰茶ローブを一新していた。

 出来のいい白制服はそのままに、制服色よりも真っ白なホワイトで、刺繍も純金糸と白金糸でさらに煌びやかさを上乗せした、肩がけのショートマントを右肩にだけ羽織っていた(みんなで調べたらぺリースと呼ばれる外套だった)。


 七咲さんも金髪美少女さんも二匹の小さい狼さんも、四人とも素材からしてハイレベルな美少女級なのに、そこにこのぺリースの存在よ。

 肩がけマントを右腕で上空に振り払う、王子さまのような仕草で「バサッ」とひるがえすものだから、四人とももはや白いプリンスだった。


 私も昨年とは違う意味でやばかったし、会場中継の黄色い声もやばかったし、なんなら花と恋子ちゃんはキュン顔だった。菖蒲先輩のほうは見なかった。


 白鳴はまるで、ドレスソードの世界にお膳立てされているかのような活躍を見せた。一回戦では全国初出場の流星館を倒し、二回戦では大阪の強豪である此花ユニバーサルスクールを破り、三回戦では桜花に比肩する兵庫の姫ノ道女子学園を下し、決勝戦では因縁を持つ、あの桜花と対峙しながらも、ぶっちぎりのストレート三本先取で今年の優勝をもぎ取った。余談だけど、今年の冬には無双剣にて日本最強を謳われる天剣衆をも制した。七咲鈴子はホンモノの勝者であった。


 なお、これは後世に残そうとは欠片も思っていない記憶だが、八月の第二体育館は地獄めいた暑さだった。ドレソは不思議なくらい排熱をしない機材ばかりなのが救いだが、二階の窓を全部開けても熱い。いるだけで熱い。生きていると熱い。

 その結果、乙女同士の秘密を抱えあうことになったが、すべて第二が悪い。


 九月。「受験で面倒だからお前から勝手に話しといて」と、勝手でもなんでもなく普通に任命されていた恋子ちゃんが、菖蒲先輩が遅らせていた自分自身の事情を私と花に聞かせてくれた。それは、彼女と七咲さんと天河さんの話だった。


 菖蒲先輩は中学生のころ、それはそれは素行の悪い女の子だったらしく、東京の両親から根性を叩き直してこいと勘当じみた対応をくらい、長野にある知り合いの道場にぶっ飛ばされたという。そして、そこが天河海音の親の実家であり、正道ではない剣道じみた亜流、まがい物の剣術、怪しげな槍術に、お金に困った忍術家までもが集まる、完全実践主義の名を冠した「天河剣術会」だったんだとか。


 二〇二九年の当時。天河剣術会には不良少女の菖蒲ちゃん、実家の道場から家出してきた鈴子ちゃん、正道じゃ勝てないと息巻く海音ちゃんが集まっていた。

 彼女たちリアルの修行で身体を鍛えつつ、その成果を怪我なく最大限発揮できるドレスソードにはまったという。そういう面ではたしかに重宝されそうだ。


 しかし、当然ながら悪ガキなだけの菖蒲ちゃんは、元から素養を身に着けていた鈴子ちゃん、海音ちゃんとは相手にならず、突っかかってはボコボコにされ、闇討ちしてはボコボコボコにされる毎日を過ごした。ちなみに菖蒲ちゃんと鈴子ちゃんの師匠は同じ「身持ちを崩した忍術家かぶれ」らしく、数日差で妹弟子になってしまった菖蒲ちゃんは、鈴子ちゃんを異常なまでに敵視していた。頭の悪い子だ。


「三人の関係性が見えましたね。たぶん菖蒲先輩が悪い」

「ははは。まあ、菖蒲ちゃんって意地っ張りだしねぇ」

「りっちゃん、菖蒲さんと似てるもんね」

「えっ? どこが?」


 三人は中学三年生になるまで、同じ場所で、同じご飯で、同じ日々を過ごした。

しかし、高校進学をきっかけにそれぞれ進む道をわかつことになった。


「なんで別れたんですかね……ああ、なるほど。だからか」

「うん、自分の手でちゃんとぶっ飛ばしたいから! だってさー」

「昔から、菖蒲さんは菖蒲さんなんですね」

「あんな強い人たちに負けたって、私なら当たり前に思っちゃうけど」

「菖蒲ちゃんは悔しいって思えたんだよ。すごいよねー」

「その、菖蒲さんの視力はこのころには落ちていたんでしょうか?」

「教えてはくれないけど。七咲さんと天河さんの感じからすると、そうだねぇ」


 七咲さんは実家に帰らずに長野の白鳴に、天河さんは家族が住む東京の黒須第一に、菖蒲先輩はぶっ飛ばしたい二人をどっちも倒すべく、実家に戻り、ここ朝女に通うことを決めた。それはちょうど、うちにドレスソードプラットフォームが導入された年だ。新しい挑戦のスタートとして、どれだけ夢があふれていたことか。


 けれども、朝女での一年目は散々な結果に終わった。


 いくらドレスソードができるようになったとはいえ、部活動への入部が必須な朝女では、上級生たちにはすでに居場所があった。興味津々に遊びに来る人はいても、ドレソの問題で入部には至らなかった。そのため、朝女ドレス部は一年生だけでスタートすることになった。集まったのは菖蒲先輩を含む、四人だけ。


 彼女たちは初の試合となる地区大会で、初めて他人と戦うことになった。

 そしてメンバーの三人はその恐怖に耐えられず、一回戦の敗退後に退部した。


 ついでにこのとき、天河剣術会から出たての菖蒲先輩はどうしても勝ちたかったようで、一回戦でギリギリなことをしまくった。その結果、朝女ドレス部の評判は一気にガタ落ちしてしまい、当時のことを知っている人たちは先輩を「邪悪」と呼び、三年経った今でも対外試合などで出禁扱いにされているんだとか。


「だから練習試合のオファーとかしないんですね」

「今年もアレしちゃったし、できても新学校の流星館くらいかなぁ」

「練習になりそうにないですね……あちらにとっては」

「しかしそれだと、菖蒲先輩の当時の仲間ってまだ在学してるんだ」

「いるよー。仲良くやってるみたい。大会も応援に来てくれたんだって」

「嬉しいですね。朝女の皆さんはあまり興味ないと思っていました」

「てゆうか、部活辞めても帰宅部になれないんじゃ、きついなあ」

「今は三人で作った料理研究部で楽しくやってるんだってさぁ」


 まさかの料理研究部。もしかしたら新歓でどっちに転んでも、不思議な関係からドレソ部と縁ができちゃっていたかもしれない。世の中うまくできてるもんだ。


 けれどもけれども、二年目も散々だった。一人だけを除いて。


 地区大会から約一年。菖蒲先輩は広々とした第一体育館で、このころからスペース問題で疎まれていたかは定かではないけど、たった一人で活動していた。

 菖蒲先輩は部活二年目の新入生集めに必死だった。新歓後の部活巡りでは学校内を駆け巡って、目星をつけた子を強引に勧誘し、なんとか三人を確保した。


「恋子ちゃんも勧誘されたの?」

「うん。体育の時間に制服を盗まれて、返してほしくば体育館に来いって」

「んんん……今の私にはコメントしづらいです」

「花もすごいもんねー。めっちゃ盗み上手」

「一回見ただけで盗んじゃってるもんねぇ」

「んんん……」


 恋子ちゃん以外の二人は、ドレスソード自体を最初から怖がった。

 菖蒲先輩は「せめて地区大会まででも!」と悪戦苦闘でフォローしたけれど、実際に地区大会に来たのは恋子ちゃんだけ。二人は大会前にすでに退部届を顧問の橋場先生に提出していた。だから昨年は二人だけでの出場となり、菖蒲先輩も恋子ちゃんも案の定、試合開始直後にボロ負け。なんにもできなかったって。


「恋子さんは、それでも続けたんですね」

「うん。なんでだろうねー。たぶん、菖蒲ちゃんが可愛かったからかなぁ」

「あれが可愛い……? 難解な概念だ」


 てへっと笑いながら、恋子ちゃんは話してくれた。


「菖蒲ちゃんのことを健気っていうのは失礼だけどさ。私、先輩のことを尊敬してるんだ。私も今の話を聞いたのは昨年の地区大会後だったんだけどね。負けて打ちのめされてドレソをやるのも難しくて、落ちていく視力に苦しい思いをしながら、そんな状況になっても、絶対にあいつらをぶっ飛ばしてやるーって。たとえ形にならなくてもまっすぐ進み続けて、こうやって三年間を過ごしきった菖蒲ちゃんがさ、とても美しく思えるし、とても愛しく思える。ああいう人のそばにいれば、私もなにか変われるんじゃないかって。そう思ったんだ。だからここにいるの」


 二人は昨年から約一年、広い第一体育館で細々と、来年になったら勝つための練習を全力で続けた。練習試合は相変わらずできなくて、恋子ちゃんにしても今年の地区大会が人生二度目の試合だった。未来がまったく見えないなかで、そこまでしてドレスソードに打ち込んでいた二人に、これまでの私の言動はどのように映っていたんだろう。急に恥ずかしくなった。ずるいよ。言ってよ。二人とも。


「でもね、今年はリッコちゃんと花ちゃんが現れたの。活動場所が第二体育館に移されて、私たちがつらくて諦めそうになっていたときにね。こんな苦しいスポーツをやりたいって、どんなに望んでも無理強いなんてできないドレスソードをやりたいって、第二体育館まで来てくれたの。今でも夢じゃないかって思ってる。私なんかたった一年で、それまでも強い目標なんてなかったのに、あなたたちに出会えたことを本当に感謝してる。菖蒲ちゃんなんかね。きっともっともーっとだよ」


 私たちが初めて第二体育館を訪れた日、菖蒲先輩のあの対応は、はしゃぎにはしゃいじゃったゆえの大大大歓迎だったらしい。そして押せ押せでやりすぎた結果、私の顔色の変化に気づいた先輩は、冷静になるために急遽解散したとか。

 翌日、私たちの教室に恋子ちゃんが向かいに出されたのも、冷静になって「やばいやばいやばい新入生が逃げるかも!」と怖くなってしまったからだって。


 二人の少女の人生に対して、私があのときの心のままに嫌ですと断っていたら、花が無理やりに決断を下していなかったら、そのあとドレスソードの恐怖に負けていたら、練習の日々に飽きていたら、決して他人に誇ることもできそうにない平凡な今の日常すら起こりえなかった。奇跡というには、なんて些細なことか。


「結果的にね、最後のJDSでも菖蒲ちゃんの夢は叶わなかったけど、私はそれでもいいって思えてる。今までと比べたら、それだけで夢のような現実だよ。菖蒲ちゃんにとっても、最初に持っていた望みは残っちゃったままだけど、あなたたちには十分なものを与えてもらったと思うんだ。普通の朝女に、普通の女の子が来て、一緒にドレスソードをやってくれるだなんて、これ以上ないよ。私、将来結婚して娘が生まれたら絶対に言うもん。ドレソが今よりもいくら発展してても、女子高生にまともに部活動すらさせられないドレソなんて絶対にやめなさい! ってね」


 からかうように言った恋子ちゃん。ただ、その顔はとてもじゃないけど、将来の彼女の娘さんをまったくといって説得できそうにないほど、幸せそうに見えた。

次回「ぶっ飛ばせ、ぶっ飛ばせ!」(2)。

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