黒赤のブルーティッヒファング(1)
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私、日影花は、いつだって幼なじみの小枝律子に甘えて生きてきた。
りっちゃんとは、物心つかない私たちを親同士が引き合わせたときからの付き合いだ。私は昔から引っ込み思案で、自分で選んで歩くことに怯える生き物だった。
内気な原動力はいつも、動きたい、動きたい、私は動きたい。そう叫んでは胸の奥で泣くばかり。そうして行き先を彼女に依存した。日影花はそういう子だ。
昨年、りっちゃんがダガープリンセスに憧れた日、彼女が私と一緒にドレスソードをやりたいと言ってきたとき、私は喜ぶ前にカチンときてしまった。
「私はずっと、ドレスソードが好きだって伝えていたよ?」
「ずっと連れて行ってくれなかったのに、なんでいまさら」
「私だって、りっちゃんとドレスソードをやりたかった!」
口に出さなかった言葉は、心の奥底に沈めた。自分でもわかっていたから。
「本当にやりたかったなら、自わから言えばよかったのに」
「りっちゃんだって、そんなこと言われる筋合いないのに」
「そんなふうに考えてしまったら、惨めになるだけなのに」
私は体の内で、自分自身を責めた。なにもしないで委ねるだけだった私を。
りっちゃんが朝女に行くと相談してきたとき、私は彼女についていくことにした。なにも話していないのに、一緒に朝女に行くことを勝手に決めていた。
好都合だったのだ。りっちゃんが進路を調べはじめるよりもずっと前から、私がドレスソードをやるには、都心部の施設を高額で利用するか、選手を集めている東京二十三区内の高校に行くか、近くの朝女か流星館に行くか。選択肢はそれしかないと知っていた。「私も考えてたんだ」。そんな言い訳も口にしないくせに。
私の体は弱くて情けない、名前のとおりの繊細なガラクタだ。憧れのドレスソードが激しい競技であることもとっくに知っていた。やるのも、続けるのも、私には絶対に難しいと諦めていたから、一人でやりはじめる勇気なんてなかった。
私がりっちゃんをドレスソードに誘っていれば、彼女は興味ないよーなんて言いながらも、いつでも私に付き合ってくれていたと思う。りっちゃんは優しいから。でも私は怖かった。彼女は運動が得意だから、潰れて泣いている私を置き去りにして、一人で先に進んでいってしまうと思った。そして私はまた落ち込むのだ。
りっちゃんが、私の進路に影響を与えてしまったと悩んでいたのは知っている。言葉にされなくても表情がそう言っていた。けれど私はなにも言わなかった。
私はりっちゃんのことが、この世界で一番大切な親友だと思っているので、彼女と一緒の高校に通いたかったのは紛れもない本音だ。でも「りっちゃんのせいで」「朝女に行くから」「ドレスソードをやるの」、そういうことにしておきたかった。手を引かれて生きることに安堵する私は、自分自身でなにかを選んでダメになってしまったら、きっと壊れて、恥ずかしくて、死んでしまうから。
ドレスソードをやりたい。そう言って、潰れて、諦めて、後悔で泣くのが怖い。挑戦することにこそ意味があるんだと、誰もが私を奮い立たせようとしても怖い。私が挑戦するときはいつだって、失敗したときのことから考えてしまう。
だから、勇気も度胸も体力もなにもない弱虫な私をさらけ出すより、愛想笑いをしながら「やっぱり私には無理だったよ」「ドレスソードなんて無茶だったよ」。そういう情けない言い訳を持って、いつでも逃げられるようにしておきたかった。そうすればりっちゃんは言ってくれるの。感じる必要のない責任を感じて。
「ごめんね、花」って。私が私の失敗から逃げるための優しい言葉を。
そこに“私のせい”はない。りっちゃんが“私のせいだ”にする。彼女は私が放り捨てたヘドロのように腐った責任まで、自分のものとして背負い込んでくれる。
そして私は「仕方ないよ」「私が悪かったんだよ」「りっちゃんのせいじゃないよ」。その醜悪な儀式で自分を清めるの。か弱い女の子ぶって、千切られることはないと確信している金魚の糞みたいに、それを何度も何度も繰り返すの。
私、日影花は、いつだって幼なじみの小枝律子を傷つける卑怯者だ。
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東京B代表の地区大会は、朝女をコテンパンにし、決勝戦でも難なくストレート勝ちを収めた流星館の優勝で終わった。しかし朝女を含む地区ベスト4に勝ち上った四校は、約一か月後にある「関東中部地方大会」へと駒を進められる。
地方大会の開催時期は、学校によっては期末テストの前、はたまた夏休み突入後などそれぞれ事情が異なるそうだ。なお、朝女は期末テストが終わり、学校も閉じて今日から夏休みだというところで大会初日が行われるので、心持ち楽である。
ただし、テスト勉強のことを豪快に忘れて振替実施でうやむやにするってことができないぶん、テスト結果にも言い訳できないのが苦しいところだが。
てゆうか私たちの目下の課題は、地方大会に意気消沈していることだけどね。
「地方って流星館みたいなのばっかりですよね。棄権したーい……」
「全部じゃねえけど、東京A代表の平均レベルは比じゃねえのはたしか」
「やっぱりー……」
「全国常連の黒須第一とライムライトは、まあ流星館みたいなもんだな」
「うわあ。勝てません。あんなの絶対勝てませんって」
「あと中部A代表。白鳴女学院が入ってきてる」
「えっ! ダガープリンセスって地方で一緒なんですか! 色紙あったかなあ」
「ザッコ。七咲鈴子は基本的に表に出てこねえし、恥だからやめろ」
「そんなー!」
流星館は強かった。成瀬姉妹やほかの選手たちも、なにが強いのかわからないレベルでとにかく強くて、当たったら無条件降伏してしまいたいとすら思う。
あのときの試合で、葉月の大太刀に斬られたとき「ああ、お侍さんが刀で斬られて一瞬で死んでしまうってこういう状態か」と納得した。選手の能力に差がありすぎると、ドレソは殺人となんら変わらない感覚を味あわせてくれるようだ。
そもそも菖蒲先輩が1vs1で負けるのなら、うちに勝てる選手などいない。
「菖蒲先輩でも無理じゃ、もう無理でしょ。あれ本気だったんですよね」
「んー、今はあれが本気だな」
「今は……ってことは、なにか秘策があったり?」
「いーや、今が私の最盛期で、今後は限界が目減りするって意味で」
「そんなお年寄りみたいな……それじゃ背だってもう伸びませんよ」
「うるせえ! シバくぞボケカス!」
菖蒲先輩の「身長」や「子供っぽさ」に触れると、わりとガチでキレられることが最近判明した。それでも手を出さないのは立派だし、というか身体的特徴をあげつらうほうが全面的に悪いので、空気を変えたいときの最終手段としている。
なので口にした。私が実力差で無気力に、花は地区大会後からぼんやり気味で、恋子ちゃんも悩ましげな美少女になっていてと、つまり空気が悪い。
あと一か月で尋常じゃない熱血特訓ができるならまだしも、私としては期末テストで頭がどうにかなるほうが先である。現状はタッコやアッホと言われようとまだ受験勉強の残り香が効いているけれど、数学はアラートが鳴りはじめた。
唯一の攻略法は、花と千恵の助けかな。自習に希望を抱くと裏切られるからね。羨ましいことに、菖蒲先輩と恋子ちゃんは学業成績は良好だっていうし。
「超特訓なんてしねえけど、まだまだ調整はしなきゃなんねえなー」
一人だけいつもと変わらぬ菖蒲先輩が、不甲斐ない部員たちを引っ張る。
先輩はリーダーシップがある人には違いない。だけどスタートダッシュの期間に比べると、以降は意外と強引にどうこうする人じゃなかった。こっちの気分が明らかにのっていないときなんか放置されるし。やりやすいけど少し寂しい。
というか待って。違うの。もっと重要なことがあるから、絶対重要だから。
「菖蒲先輩。菖蒲先輩。重大発表があるのですが」
「言え」
「うちもドレスを新調しましょう」
「却下。全員ステージ入れー」
「えー、だって南千里は可愛いし、流星館もカッコいいしなのにー」
「殻つきウニだっていたろうが」
「私たちだって同じようなもんですよ。ああ、ドレスの惨めさがつらい……」
ほかの学校のドレスを見てわかった。朝女は女子パワーが低すぎる。昨日、コンビニで読んだドレソマガジン七月号によると、昨今のトレンドはこうなのだ。
■私たちってば時代のオシャ&カワ大勝利! ドレス流行で相手をまじマウント!
・時代性や民族性を尊重する「クラシック」で、まじ可愛い!
・運動性や機能性を重視する「スポーティ」で、まじ最先端!
・和装および洋装に着目する「カジュアル」で、まじモテ女!
・既存の概念にとらわれない「ハイセンス」で、まじゴッホ!
・出身校の特徴を取り入れる「スクール」で、まじ女子高生!
女子高ドレソ界に関しては現在、これらのトレンドが基準としてあり、いくつかの流行を採用しつつ、ワンポイントでスクール要素を取り入れるのが鉄板だという。だがしかし、肝心の朝女ドレスはコーデもなにもあったもんじゃない。
この話題には、表情が暗かった花も恋子ちゃんものってきた。二人ともファッションに関しては、私と菖蒲先輩よりも深いこだわりがあるからだ。
「私も、流星館のドレスはすごくステキだと思いました」
「へー意外。花ちゃんはもっと可愛い系かなって。私は南千里に一票かなあ」
「こ、の、よ、お、に! 我ら部員たちはダサさに苦しんでいるんですっ」
「はいはい。じゃあ作れるやつ連れてこいよ。それで済むから」
「むぐぐ。そこが肝心なのはわかりますが、なんとかなんないんですか」
「ナンパでもすれば。君の名義のドレスを全国に連れてってあげる、ってさ」
「ふむ、悪くないかも」
私もドレスのオリジナルオブジェクト制作を試したことはある。
でも種類やパーツを一覧から選べるソードなどに対し、ドレスは布地も寸法も装飾もすべてお手製じゃないといけない。要するに本物の服を作る技術や、それを形にする3Dデザインに覚えがないと、とてもじゃないが無理そうなのだ。朝女ドレスにしても、学校経由で制服諸々の3Dデータを請求できたのが大きかったって。
その結果、私には白鳴の灰茶色のボロきれさえも作れるか怪しかったのだ。
有名なデザイナーも制作・公開をしているパブリックオブジェクトという選択肢もあるけど、JDSでは使いづらい。使っちゃいけないルールはないけど、制作者の名義を公開せねばならず、ドレスにも手を加えられない制限があって、特定されると「手作り弁当のはずが冷食だった」みたいな辱めを受ける可能性がある。
例示した冷食に悪いことはないけど、私たち女子高生にとっての衣服はそういう言葉にできない魂の矜持でバトるものだからね。その点、ドレス自体が主軸のドレスコードの着せ替えショーなどは、もっとフランクで羨ましいものである。
そんなこんなでドレス問題は解決しないまま、この日の練習がはじまった。
ただ、みんなも久々にはしゃいだからか、数日ぶりに空気がよかった気がする。
地方大会で勝ち進むビジョンなんて見えてこない。それでもいつもどおり、うちの可愛い処刑人にガンガンと叩かれておいた。体はやっぱり痛くなったけど、地区大会の以前よりも痛くなる日はなかった。盾と痛み、どっちに慣れたんだか。
地方大会まであと二週間。JDSからトーナメントの対戦表が届いた。
「一回戦の相手が決まった」
「どこですか」
「黒須第一だ」
「黒須っていうと……流星館並っていう?」
「実績なら“以上”だな。昨年は白鳴、二年前は桜花、三年前が黒須の優勝だし」
「昨年はライムライトと一進一退、全国三位決定戦で姫ノ道に勝ってましたね」
「うげげ。朝女の夏が終わりました」
「狂剣の天河海音さんかぁ……いろいろ厳しいね、菖蒲ちゃん」
「いつものことだよ」
黒須第一の実力など想像できないが、勝ち目の薄さは理解した。でも恋子ちゃんには刺激になったのか、この日の部活ではいつも以上にガンガンガンと打ち込んできて、めったにやらない全力攻撃までをも受けさせられた。散々だった。
恋子ちゃん、あなたは私をクッションかなにかと勘違いしておりゃせん?
花は菖蒲先輩を相手に、沖女戦で学んだ刺突技の練習に励んでいた。
技の扱いが難しいのか、しっくりこないのか、長らく難しい顔をしていた。というか、むーまずい。恋子ちゃんにしてもさっきの全力攻撃が技に違いないだろうし、やっぱり私もカッコいい技を持ちたい欲求が止まらない。
「恋子ちゃーん、私もいたっ! なんか必殺技いたたっ! なーい!?」
「うーん、盾の使い方ってなるとねぇ。あんまし思いつかないんだよー」
「そんな殺生ないぎぎぎぎ! 痛い痛い、今のやつ超痛いから!」
「おっと、ごめんごめん。まずさぁ、うちってソードが全員違うよね」
「ですね」
「だから扱い方も動き方もみんな違うし、専門外には口を挟めなくてー」
「まあ、みんな都合よく知ってるわけじゃないのか」
「正直、合気道も盾もエストックも忍者刀もさっぱり」
「なら、みんな一緒のソードにしたほうがよかったんじゃ?」
「そうもいかないのがドレソってね。はい、よっとぉ!」
恋子ちゃんの背後から半円を描いて飛んできた偃月刀の全力斬りは、私の右手に恨まれても仕方のない威力だった。練習が終わってシャワー室で汗を流そうとしていたら、右手の甲にはアザができていた。心強い剛腕だけど、いちちちち。
帰宅の道中、花が全国常連の「黒須第一大学付属高等学校」について教えてくれた。黒須第一はドレスソードプラットフォームの誕生と同時に設備導入を図った、いわゆるドレソ第一世代と呼ばれる強豪校のひとつだという。
長年にわたり培ってきた指導体制を生かし、膂力と速度の基礎能力を軸として、選手たちの個性を伸ばす、正面突破のストロングスタイルと言えるそうだ。
「パワーとスピード、さらに技術も負けてるんじゃ。無理でしょ無理」
「今年もクイーンが天河海音さんだしね。恋子さんも言ってた有名な選手で」
「やっぱ強いの」
「小さいころから実家の天河剣術会で期待されてきたエリートさん」
「ホンモノだねえ」
「黒須第一でも一年生のころから三年間、ずっとクイーンみたいだし」
「かないませんなあ」
「しかも天剣衆の人たちとも一緒に練習してたって。雑誌で見たよ」
「天剣衆ねえ……そこまでいくと私たちじゃ話にならないかー」
今から六年前、ドレスソード誕生から一年が過ぎた二〇二八年のこと。桜花女子に在学する四人の選手たちが、初のJDS開催から三年連続三連覇を達成した。
彼女たち桜花卒業後、正式なチーム名として「天剣衆」を名乗り、かの偉業にも「天剣衆の惨劇」と名づけられたことは、当時の熱狂が大きすぎたゆえに知らない人などほとんどいない。ついでに花がドレソにハマったきっかけでもある。
日本のドレソ界の中心たる天剣衆は現在、世界大会や冬の無双剣で活躍中だ。
「白鳴もそうだけど、天剣衆の流れを汲んでいるところはやっぱり強いね」
「そうなんだ」
「うん。ドレスソードが普通の人の、普通の競技じゃないって気づいてるから」
「んーと、ダガープリンセスみたいなトンデモ人間が強いとか、そういうこと?」
口にする前から薄々思っていた。私たちと彼女たちは違うんじゃないかって。
「私も理解できていないけど、そうなんだと思う。初期のドレスソードって攻撃手と防御手が陣形を組んで、剣盾で堅実に受け攻めするのがセオリーだったんだけど、四人ともヒーローみたいに動ける天剣衆の登場で認識が変わった、ってよく言われてる。だから黒須の天河さん、白鳴の七咲さんみたいに個で状況を打開できる人がより活躍できるって。実際やってみてわかったけど、そういう時代の華のような人に現れてほしいから、競技の細かいルールもガチガチじゃないのかもね」
ドレスソードはヒーローを待ち臨んでいる。突拍子がないように聞こえたけど、現実のハチャメチャ(葉月)のほうが追いついてしまったから否定できない。
さっきの恋子ちゃんの話にも近いけど、みんなで同じソードを持って戦う画一的な戦術より、圧倒的な個性を光らせたほうがアドバンテージを得やすいのか。
ステージを観戦する身としても、亀のようにひたすら盾で守っているだけの地味な選手より、ダガープリンセスみたいに華麗で流麗な美少女のほうが見ていてよっぽど楽しいだろうしさ。私自身もそう思うから、大多数もそうなんだろう。
「ダガープリンセスとか成瀬姉妹とか、明らかに目立つ子が主役なわけか」
「姿さんたちは……そうだね。そっち側にいるんだと思う」
「そうなるとさー」
「うん」
「私たちみたいな普通の女子高生はどうすればいいわけ?」
「……さぁ」
言い淀んだ花を代弁するならば、きれいな花には養分が必要ってとこかね。
地方大会の一週間前に、私たちは期末テストに臨んだ。
予定どおり、数学だけは死線をさまよったけど、花と千恵のありがたい圧力勉強会のおかげで赤点はまぬがれた。来年から「ドレス部に入ればテストの点数アップ!」で売り出せば、私と同カテゴリの新入生を一人は捕まえられるかも。
朝女ドレス部は試験休みを堪能することなく、地方大会直前ということで部活動の許可をもらい、週末も含めて第二体育館での練習の日々を送った。
私は画期的な成長を見込めそうにないので、気持ちよく叩けるかかし役として、花、恋子ちゃん、菖蒲先輩の順でひたすら攻撃をしてもらった。恋子ちゃん以外の斬撃は体に痛みこそないものの、花は六回に一回、菖蒲先輩は三回に一回の割合でフェイタルに相当する攻撃をねじ込んできた。まだまだ未熟な新米守護神だ。
「りっちゃんの防御は硬いね。途中で抜けないかもって思っちゃった」
「ほんとにい? 花にもたっぷりやられちゃってるだけど」
「守るだけの1vs1で耐えてんだ。普通以上にやれてるっての」
少しだけ卑屈になっているのか、なにを言われてもお世辞に聞こえる。
「盾をうまく使える人なんて、私以外にもいっぱいいるじゃないですか」
「ばーか。普通は攻撃のための防御なんだよ。防御のための防御なんていねえよ」
「じゃあ、なんで私以外にいないんですか」
「クイーンでもなきゃ、攻撃力皆無のメンバーなんて無視すりゃいいから」
「うへ。なるほど。そりゃそうか」
「無視されないための直剣だ。花をフォローして存在感を出すのも同様にな」
攻撃に転じるための防御ではなく、防御のために防御している私は、良くも悪くも特殊な道を進んでいる。「リッコ、お前は特別な存在なんだ」って言われたらほだされそうだけど、すでにトゲだらけ悪路を歩んでいる実感がある。つらい。
いつか性格の悪い相手に「叩かれるだけで楽しい?」とか言われちゃいそう。
「昔は防御重視のクイーンで、相手に崩させない戦法もあったんだけどな」
「今は一番強い人がクイーン! だもんねぇ。メンバーとしても安心するしー」
「ずっと一方的に攻撃されまくってるクイーンとか、たしかに嫌だなあ」
うむむ、私のスタイルってこのままだと本当に微妙なのかも。
最近は攻撃の練習すらしていない。毎日何時間も続けて「斬られたらまた斬られるべし」の繰り返しで、可愛い顔した処刑人たちに遠慮なく叩かれている。
反撃のプロセスについても常々考えてはいるけれど、地方大会までの残り期間を考えるとね。三人の攻撃練習に協力したほうが効果的な気がした。私の合気道での経験で考えても、相手をフェイタルにする手段も、攻撃を防がれたときの判断も、ほかの三人にとっては考えるべきポイントが少なくないだろうし。
私は私で、盾の扱いがうまくなるからさ――なんて言い訳をして。
静と動が美しい花のエストックが、私の体を四回に一回貫くようになったのは、地方大会がはじまる前日のことであった。決して私の怠慢じゃ、ないと思うよ?
次回「黒赤のブルーティッヒファング」(2)。




