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2枚目 -祝福をあなたに-

 この世界には魔法がある。

 魔法はカードによって発現する。

 

 そうなんだ。

 なんと言っても魔法。そしてカード。

 

 俺はもうこのカードの神秘と、描かれた絵の美しさに惚れ込んでいた。

 村の人たちにとって当たり前にある魔法カードを嬉々として集める俺は、村の人たちに石ころ収集家とか、落ち葉コレクターみたいな目線で受け取られているのだが、俺にとって魔法カードとは「未知の財宝」みたいな扱いであった。

 最近ようやく、同じカードは30枚までというルールのもと、コレクションを制限できるようになったが、コレクション数が5枚以下の自然由来のカードを発見すると、震えが止まらないし、未知のカードを手に入れた日には、それはもう一日中テンションが上がって、カードと一緒に寝たり、目の届くところに額縁に入れて飾ったりする。

 本当にカッコよくて美しくて気高くそして、神秘の芸術なのだ。もはや最と高しかない。


 もちろん人工カードもコレクションしていて、かの有名なカード作成技師のリアム・マクラクラン氏がデザインした『業火滅却』シリーズのレプリカや、彼のインディーズ時代に作成したとされる『業火滅却』シリーズの前身となった幻のコスト1000『火炎流星群(メテオ・ストライク)』、西方随一と名高いSランク冒険者『閃光の矢』ララティ・ムン氏がこの村に来た時に交換していただいた、本人の二つ名を冠する魔法『閃光の矢(ライトニング・アロー)』など、結構なものであると自負している。


 村から出る機会があまりないため、種類は多くないものの、大きな街と街を走る街道の中継地に位置するこの村は、宿場町として他所の人が多く、交流の機会も多い。さらには村の背に大きな山と深い森、街道をはさんで大きな湖があるため自然由来のカードの調達にもうってつけの立地なのである。


 空いた時間に野山散策してモンスターを狩り、カードを手に入れてはいろんな人とカード交換をする。

 これはもはや俺にとっての唯一絶対の趣味にして、ライフワークなのだ。




 そんなカードオタクの俺は今、絶頂の只中にいた。



「ほらよぉミナトぉ、これ持ってけよぉ~。ヒック、おめぇ~これ2枚しか持ってなかったとか言ってなかったかぁ?」

「え!いいんですか!やったぁ!今はもう4枚持ってますけどこれで5枚!!!!」

「ミナトちゃんこれねぇ、うちのじい様が持ってたやつなんだけどね。良かったらもらってくれないかしら?」

「なんと!これは業火滅却シリーズ2番の『心頭滅却』じゃないですか!これ!ホンモノですよ!」

「おいミナト…俺からは…コレ…」

「ありがとうミコ!うわぁ『千樹の妖精(レヴィレティア)』だ!珍しい!!大事に使う!!」

「ミナト~これ~」「「「「これ~!!」」」」

「わ!みんなありがとな!『清水』なんて探すの大変だったろ?おじさんとおばさんに渡しとくからな」

「あ、あのねミナト…」

「ミナトさんこれウチからっす!」

「おうカラナ!サンキューな!」

「あ、あの…ミナ「いえーいミナトちゃん!これ、持ってっておくんさいな!!」

「あらやだマチちゃん!男気!!いえーい」

「ミ…「貴様に使いこなせるかな?クフフフ…このカードこそマイフェイバリット!!」

「「『召喚獣オトロス』!!」」

「マジか!ついにくれる気になったかオトロス!!」

「まあぶっちゃけ使わないしな!!ははははッ!!」

「ちくしょう!使わないならもっと早くくれてもよかったものを!ありがとう!」


 旅立つ前日ということで村の人たちみんながあれよあれよと俺にカードを持って来てくれるのである。

 旅立つ、と言っても隣街におじさんとおばさんが引っ越すので、自分もいい機会だしついて行こうというだけなのだが、どうもこの村ではそういうことは珍しいようだ。

 当のおじさんとおばさんは静かなもので、村長の宅の宴席の前のほうで年配衆とゆっくり酒を飲み交わしていた。騒がしいのが好きな面々は俺の周りに集まっている、というわけだ。

 しかし、そんな彼らはなかなか俺の趣向を分かってくれているらしく、珍しいカードや入手困難なカードをどんどんと持って来てくれる。

 『千樹の妖精』や『召喚獣オトロス』なんかは、この村の裏にそびえる山の中で見つけられる召喚魔法で、持ってる人自体見かけない。俺のコレクションでは、レア中のレアカードだ。


 ふはははは!!笑いが!笑いが止まらぬぞ!!!!

 ふはははははははは!!!!


「ミナト、カードあげとけば幸せそうだからいいよね」


 「うんうん」と誰かがなんか言ってるが気にしない。

 今のおれは最高にハイであった。


「あ、あの!!あの!!!!み、ミナト!!私ね!!」


「うお!!どうしたの大きい声出して」

「あ、ごめん…その、私からはこれ…」

「おおう…なんかごめんな。」


 村長の一人娘、ミュンちゃんが手渡してくれたのは女神を思わせるようなきれいな女性が、光り輝くなにかを渡す、そんなデザインのカードであった。

「…ん?『祝福をあなたに(ブレス・ユー)』見たことないな。これ、人工か?いや、にしては絵が繊細できれいだな。材質も申し分ないし…。これ、天然ならこのあたりの環境から取れるやつじゃないな…」

 モチーフは光の精霊神だろうか。実によくできている。


「ミナト…それね。わたしが作ったカードなの」

「え!!ミュンちゃんが!?」

「…うん」


 これは驚いた。

 カード作成の技術にはそれ相応の知識や魔法理解、魔法カードに刻まれている精霊言語の理解など必要な技術は多く、とても難しい。カード作成技師になるための専門学校もあるぐらいだ。

 もちろん俺も過去に作成に手を出したことはあるが、いかんせん絵心が無さ過ぎなのと完璧主義なの災いして、自作のカードを使う気になれなくなってしまった。

 なので、俺はずっとコレクションと使う専門なのである。


 突然のミュンちゃんからのプレゼントに、さっきまでワイワイガヤガヤと絡んできていた村の面々は「あとはごゆっくり…」とか「あらあら…」とか「ミュン…!頑張って…ッ!!」とか好き放題言ってる。

 おい、そんなこと言うならもっと離れろ。聞こえてるし、みんな距離1mも離れてないんですけど。囲んでるんですけど。


「え、えーと。そのありがとう。これ、どういうカードなの?」


 もらったカードに目を落とす。


祝福をあなたに(ブレス・ユー)

“カードコストは15-20。魔法区分は迎撃魔法(カウンタースペル)。このカードは展開状態のまま待機しておくと魔法に対して発動できる。祝福の力が次の魔法を放つ。幸運微上昇。”


 さらっと魔法効果に目を通すが、よく分からないカードだった。

 迎撃魔法は一般的に、攻撃を跳ね返したり、防いだり相手の攻撃に対して守りに使う戦闘用カードのことを言う。

 対してこのカード、迎撃魔法と書かれているのに最後の“幸運微上昇”の文字を除いてよく意味が分からない。コストも15-20と高めな気がする。15と20の宣言で何か違う効果が出るのだろうか。

 いやそもそもカウンターの意味がありそうなのは“次の魔法を放つ”という文だけだが、それにしたって普通に次の魔法を打てばいいんじゃ…


「それはね。ミナトが前に言ってたことをわたしなりに作ってみたの」

「俺が言ってたこと…?」

「うん。それは、自分の魔法に打つ(・・・・・・・・)迎撃魔法(カウンタースペル)だよ」

「…んなッ!!」

 

 俺は目を見開いて、ミュンちゃんを見たあと、手元のカードにもう一度目を落とす。

『このカードは展開状態のまま待機しておくと、魔法に対して発動できる』

 この文章。迎撃魔法にとって当たり前のことを書いてあるようだが、そうじゃない。魔法に対して(・・・・・)発動できる(・・・・・)ということは、つまりどの魔法でも(・・・・・・)対象にとれる(・・・・・・)ということではないか!


「これ…、これって…」

「こんぼ?って言ってたよね。わたしよく分からないけど、魔法を手助けする魔法。そういう意味合いかなって思って作ってみたの」

 


 コンボ(・・・)が組める(・・・・)


 俺は以前、ミュンちゃんに話したことがあった。

 ミュンちゃんはこの村において数少ない魔法カード趣味の同志で、俺は比較的年の近いこの少女と度々議論を重ねたものである。と言っても口数の少ないミュンちゃん1に対して俺が9喋るという割合だったが、実に有意義なもであったと言えよう。


 この世界の魔法戦闘は自分の魔力にモノを言わせた速攻戦。

 相手よりも威力のあるカードを初手で握り、敵を押しつぶす。魔法をぶつけあうか、走って走って避けまくり、最後はやっぱり威力で押しつぶす。脳筋…いや、高価で高威力のカードを見せびらかすような脳金(・・)とも呼べる闘いである。先に唱えたほうが勝ち、という早口言葉対決。

 先攻ワンキル、とでも言える戦い方をする。


 言ってしまえば、めちゃくちゃ強い1枚と、マナが大量にあればそれで終わり。

 戦闘が長引いたとしても手当たり次第に撃ちまくる防御無しの殴り合いの様相を呈することになる。


 そんな常識を目の当たりにして、俺は思った。


 それでいいのか!! と。


 一度隣町のお祭りで魔法戦を生で見たことがある。確かに大魔法をぶっ放す様は爽快で、大魔法と大魔法のぶつかり合いは見るものを圧倒させる偉大さがあった。

 しかし、しかしである!

 俺の世界のカードゲームは緻密な計算の元に確率を支配しデッキからカードを引き当て、相手プレイヤーとの駆け引きを制して勝利を手にする。そういうものであった。

 スポーツの世界もそうで、たゆまぬ努力と修練の果てに、相手との駆け引きがあって勝敗が決まる。

 

 それが、イイのだ。と。

 カードプレイの楽しさはお互いの手の内を予想しつつ自分のデッキに仕組まれたコンボを繰り出して、勝利条件を満たしていくことにある。

 100%運ゲーも飽きるし、運要素が絡まないカードゲームなど逆転もクソもあったものではなく、課金ゲーと化してしまうだろう。かけた時間と確率とそして金と運。まさに自分の持てるすべてを駆使して戦うのがカードゲームの醍醐味と俺は信ずる。


 そしてこのカードこそ、その「駆け引き」の未来をつなぐ可能性だ!!


 

祝福をあなたに(ブレス・ユー)

“カードコストは15-20。魔法区分は迎撃魔法(カウンタースペル)。このカードは展開状態のまま待機しておくと魔法に対して発動できる。祝福の力が次の魔法を放つ。幸運微上昇。”


 この文面を考察するなら、『祝福をあなたに』を待機しながら魔法を発動すると、幸運値を上げながら次の魔法を展開時間(クロックカウント)0で放つことができる。いろいろ効果の範囲はあるだろうが、簡単に二つの魔法を同時に放てる、ということになるのだ。

 これはすごい。


 俺は食い入るようにカードを見つめたあと、顔を上げ、クワッと目を見開いた。ついでにミュンちゃんの肩をガッシリ掴む。もう離さない。


「すごい!すごいぞミュンちゃん!あんたは…アンタは天才だ!!もっとくれ!!」

「え、えと…」

「これ効果の範囲は?持続時間は?対象の指定が無いってことは味方や召喚獣の魔法にもチェーン掛けれるよね?幸運ってどんなもん?命中補正かかる?あとこのデザインの絵師さん誰ですか!!」

「あ、あのミナト…近いっていうか…」

「これが近いというなら射程はこの距離か!この距離なのかあああああ「いやあああ」ァベシ」


 興奮して近づきすぎてミュンちゃんにぶん殴られた。

 忘れていたが、ミュンちゃんはものすごいシャイなのだ。


「いてててて…。ごめんミュンちゃん。聞きたいことがあるんだ」

「あ、あのいきなり叩いちゃってごめんね。うん。何かな?」

「もっとくれ」

「いやミナトさん。自然(ナチュラル)にクズ過ぎて」


 サラッともっとよこせ発言をしたのだが、横にいた友達のカラナにツッコミを入れられる。

 欲しいのは本当なのだ。コレクションは30枚と決めている。


「ってのもマジな話でな、一枚だけじゃ実戦で使うには無理があるんだよ。コレクションとしてはいいけど、天然じゃないんだし使わなきゃもったいないだろ」


 自然発生型は「天然」、人工型のカードはそのまま「人工」と呼ばれることも多い。偉い学者さんはもっと細かく呼び方を決めてるみたいだが、こんな田舎じゃそんなものは使われないのだ。


「それにこの魔法、ものすごい有用性だぞ。可能性の塊と言っても過言じゃない」

「そ、そんな…そんな誉めていただけるとは…」

「へぇー、ウチにはわからんっすね。コストもちょい高じゃないっすか?ギリ初級っつーか?」


 身を乗り出してカードを見てくる面々に対して、横のカラナに渡してみんなにカードを回してやるように指でぐるっと合図する。


「コスト指定ができるのもいいな。15と20で臨機応変に対応できるようになってるんだと思うぞ」


 みんな「よくわかんないけど、そうなんだー」という微妙な顔をしながら『祝福をあなたに』を回している。

 村の面々がカードのことを知らないところを見ると、今日がお披露目なんだろうな。


「話戻るけどミュンちゃんこのカード、何枚ある? 金なら、ある」

「あ、あのお金とかはいいんだけど…」

「ミナトってちょいちょいクズだよね」

「そこ、黙ってなさい」

「あ、あの…」

「あ、ミュンちゃんごめんね。で、どう?」

「うん。ミナト30枚ずつ集めてるでしょ。だからわたし、60枚、作っといたの」

「さすがすぎる!さすがミュンちゃんだ!」


 ミュンちゃんはめちゃくちゃできるコだった。神はいたのだ。

 いや60枚もいらねーだろ、みたいな周りの反応をよそに俺はテンションが爆上がりだった。このカードを起点にデッキの構築が捗りそうで仕方がない。

 初手に入れたらカウンターをカウンターで打ちながら時間を稼いで大技に持ち込めたり、カウンター5枚並べて連続発動させていくのも面白いんじゃなかろうか。

 夢が広がるというものである。

 スッとミュンちゃんが腰元から取り出して手渡してくれたのは、綺麗に梱包(こんぽう)された箱で、質素ながらもいい形のものだった。


「はいこれ…。その、いつでも戻って来てね。絶対だよ」


 目に少し涙をにじませながらミュンちゃんが言ってくるが、俺としてはそんな大ごとではないのでキッパリと返した。



「ま、明日街行って荷物置いたら、あさって戻ってくるけどね」

「えええええ」

 

 引っ越しの荷物、一回じゃ運びきれないのだ。

 




 俺は自室にのベッドの上で寝そべりながらカードを広げて、今日の収穫を眺めていた。

 結局宴会は村の人たちが代わる代わる差し入れを持って現れては、一緒に飲み食いをして騒ぎ、遅くまで続いた。明日は日が昇るまでゆっくりしてから出発する予定なので、おじさんは浴びるようにお酒を飲んで、おばさんも珍しく飲んでいた。

 あれから、ミュンちゃんが恥ずかしさのあまり吹っ切れて、お酒をがぶ飲みし、周りがやんややんやの大喝采で盛り上がり、その最中に出稼ぎに行っていた若い衆が増えてさらに盛り上がって、庭まで使って踊りだす大宴会となった。

 もちろんみんな「この際だから」と家に置いてあるカードを気前よく俺に渡してくれて、最高の気分で晩を終えた。

 

 「『睡魔の針』に『青空侍』、『ビブリアの本棚』…クふ…んふふふふふ…」


 広げたカードを見ると笑いがこぼれて仕方がない。

 この地域の自然由来のカードをほぼすべて把握しコレクションしている俺ですら、数枚しか持っていないカードばかり。世界の広さを実感するばかりだ。


「『千樹の妖精』『召喚獣オトロス』んっふふふ…カッコいいなぁ。早く使ってみたいなぁ。ふふふふふふ…それに、『心頭滅却』…はぁ。これホンモノとかもう神ではなかろうか」

 

 それにそんな俺ですら見たことの無いカードまである。

 眠れるわけがない。

 

 荷物はすでにまとめてあり荷車に詰め込んであるので俺の部屋には、ベッドと部屋を照らす蝋燭の燭台ぐらいしか置いていない。あとは、明日持っていく手荷物ぐらいだ。

 その中には今日もらった『祝福をあなたに』も入れてある。ミュンちゃんにいろいろ効果の範囲を聞いたので、道中で使ってみる予定だ。

 明日、隣町のダニーデンまで行き、新居に荷物を運ぶ。一泊して荷物の整理を手伝ったら再びこの村に戻って来て残る荷物をおじさんと運び出す予定だ。飼い馬二頭立てで運んでも隣町までは5-6時間ほどでそう遠くはない。


 十分カードを堪能したところで、俺はカードをフォルダーに丁寧にしまい。

 フッと息を吹きかけて蝋燭を消すと、毛布をかぶって目を閉じた。

 

『祝福をあなたに』

迎撃魔法

・カードコストは15~20の間で発動可能

・魔法を指定して発動すると、待機状態になり、その魔法と同時に起動する。

・手札の魔法を展開時間なしで発動可能

・運が少し上がる


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