16話 小雨
十二時?分、野村庄吾は図書館で一冊の本を読んでいた。かなり不機嫌そうな表情だった。読み終え元の棚にその本を戻し両手で顔を覆い深いため息を吐いた。
「……これが真実なのか……、僕は信じられない。この世界が、あれに利用されていたなんて……」
小声で独り言を呟き体が重く感じる。
「おじちゃーん、昼ご飯食べに行こうー!」
少年の声が後ろから聞こえ振り向くと雅也君がいた。携帯の時間を見る。
「十二時十九分、もうこんな時間になってたんだ……、うん行こうか」
野村は雅也君の左手をつなぎ、歩いて図書館を出る。
レストランへの道を雅也君の左手をつなぎ歩く。歩いていると正面から安達君と押田君がこっちに歩いて来てるのが見える。
二人で何処にいくのだろう? そう思っていると、二人は険しい目つきでこっちに走って近付いてくる。何故そんな表情で来るのか分からないと同時に銃声が聞こえ野村の右腕が撃たれる。背後から何者かに撃たれた。
野村は雅也君を突発的に自身に引き寄せ抱きしめ庇う。庇ってる間も背中を撃たれ続ける。拳銃にしては連射速度が速かった。
「お……おじちゃん!」
雅也君は泣きそうな声で野村を呼ぶ。撃ち終わった様で、血を流しながら背後を見る。
撃ってきたのは影山和彦だった、彼は右手にH&KUMP九短機関銃を握っていた。
「何故野村さんを撃った!」
安達君の声が聞こえた。二人が追いついた、安達君は怒りながら叫ぶ。
「ゲームだからだ、ガキかこのおっさんを狙って先に大人であるこいつを狙った、ガキを庇うなんて馬鹿だろ」
影山は甲高い声で笑いながら喋る。
「お前ら全員を今から殺すのはゲームがつまらなくなる、死体処理は任せたぞ」
「……待て!」
押田君が止めようとしたが影山は走って何処かに行ってしまった。
血が大量に流れ視界がおかしくなってきた。出血多量のせいで抱きしめてた力が弱くなり手を離し地面に倒れてしまった。
「野村さん!!」
安達君は声が震えながら心配してくれた。
「おじちゃん……何で俺を守ってくれたの……?」
野村は仰向けになり三人を見て小さな声で喋る。
「警察官……だからだよ、誰かを守るのが僕の仕事だから……、雅也君、君は何も悪くない……」
しゃがんでくれてる三人を見るが視界がさっきより悪くなり、息苦しくなってきた。
「……僕、この世界の……真実が……分かってしまった……みたいだ」
「喋らないでください!おい!ケイとマイ出てこないか!!野村さんを助けてくれ!」
安達君が僕のために大きな声であの二人を呼ぼうとしてくれた、表情は泣いている様にも見えた。
「……たぶん……こないと思う、僕は死ぬから……あの二人は、致命傷……でない人しか……病院に……搬送……しない……から」
雅也君の目は涙で溢れていた。
「……この世界の真実とは何ですか?野村さん!」
押田君が僕の顔を見ながら問う。
「この世界……現実世界の……ハァ……ある……」
弱々しく喋り真実を伝えようとしたが、目の前が暗くなり何も聞こえなくなった。
「野村さん……野村さん!」
浩輝は必死に彼の名前を呼ぶ、達之が野村さんの首元の脈を右手で計る。
「……亡くなっている」
静かにそう話し、彼の目蓋を右手で閉じさせる。
「何で……何でおじちゃんが死ななきゃいけないんだよ!!」
雅也は泣き叫ぶ、何に怒れば良いのか分からなかった、影山はこの場にはいない、雅也は浩輝の胸に行き泣きじゃくる。浩輝は優しく雅也を包み込む様に抱く。
雅也の泣き叫ぶ声の中携帯の着信音がした。小雨がポツポツ降ってきた。
「……」
浩輝と達之は携帯のメールを見る。
[参加者一名死亡]
[野村庄吾死亡確認、享年三十、死因射殺]
メールをじっと見ていると、
『大切な人を喪失した気分はどうですか?』
ケイとマイが静かに現れた。
「……お前ら」
浩輝は睨む、あの時来てくれたら助かっていたかもしれなかったのに来なかった。
『そう睨むな、ある事を教えてやろうと思ってたのに』
「……何?」
達之は目を見開く。
『野村は警察官で妻子持ちの男だった、息子も大きくなり幸せの絶頂であったがある悩みがあった』
「……ある悩み?」
ケイの話しの続きを聞いていく。傘は差さずに。
『いじめだ、職場で先輩や上司から理不尽にパワハラ・モラハラを受けていた、野村は悩み事は一人で抱え込む男だった誰にも相談できず、警察署の男性トイレの個室でM三六十SAKURAを自身に発砲した』
……嘘だろ、あの人が現実世界ではそんな事になっていたなんて。職場の事は言わなかったとはいえ、そんな風には見えなかった。彼は俺達に黙っていたのか?
ケイの話が終わり、浩輝は少しある事を考えてケイとマイに喋った。
「……野村さんのこの拳銃、俺が持っていてもいいか?」
浩輝は野村さんの拳銃の事を話した。
『いいぞ、武器を奪って殺害するのは可能だからな』
……俺は殺人なんかしない、今生きている達之達を守るため野村さんが生きていたという証を残しておきたい。
心の中でそう喋り、雅也から一端離れ野村さんの遺体から拳銃入りホルスターと予備の弾スピードローダーに付いてる六発二個を鞄の中にしまう。
『俺達はこれで、死体処理はやっとくからな』
そう言ってケイとマイはいなくなった。
「……」
三人はしばらくその場を動けなかった。一分ほど経つと雅也がゆっくり喋った。
「……俺、おじちゃんとレストランに行こうとしたんだ」
そう喋り終えた途端浩輝の携帯の電話着信音がした。浩輝は電話に出てみる。
「もしもし?」
何故か大きな銃声が聞こえる。
「安達君!助けてください!お爺さんが図書館で銃を撃ってきています!私の他に渡辺さんと長岡さんが居ます!」
木村の声だった、彼女はとんでもない事に巻き込まれている様だ。
「分かった!すぐに行く!」
電話を切り、達之と雅也は心配そうな表情だった。
「誰からだった?」
「木村からだ、あの爺さんが図書館で銃で暴れてると言ってきた」
少し早口で言ってしまった。
「何だと!?安達、俺は中村を安全にレストランへ連れて行く、先に行っててくれ後から俺も行く」
達之が雅也をレストランに連れて行ってくれると言い浩輝は安心した。
「じゃあよろしく、先に図書館に行って来る」
浩輝は走って行こうとしたが達之が喋ってきた。
「安達!……死ぬなよ」
「……あぁ!」
浩輝は達之の言葉を耳に残し、走って図書館へ向かう、雨が降ってるが雨を気にせず図書館へ向かっていく。
死亡
野村庄吾(享年三十 影山に背後から短機関銃で撃たれ出血多量死)
ガンダムのとある人物の死亡シーンみたいになってしまったのは自覚しています……。