ワールドジャンプ
導入部その4です。
目の前が真っ暗になった。俺は死んだのか…。
「――――ます!おはようございます!」
あれ?なんか声が。天国?もしくは地獄かな。
そっと目を開けると。あたり一面内もない真っ暗な世界が広がっていて、一人の少女がこちらを見ていた。
「おー。やっと起きた。お寝坊さんめ☆」
なんだこの人。だが、ちゃんとみるとフランクな感じで話しかけてきた自分と同い年に見えるこの少女は人形のようでとても可憐であると同時に、凛々しい目が何とも言えない不思議な雰囲気を醸し出しているので、つい見とれてしまいそうになる。服装や尖った耳、そして美しい金色のショートヘアとエルフのような印象を受けるが、どこか神々しくも感じる。そしてこの状況を考えるに…
「あなたはエルフの女神様ですか?」「そんなわけないでしょ」
笑顔で即答された。じゃあ誰なんですかあなたは。あとこの状況を説明してください。
俺の困り顔を見てはっとした表情になる彼女。
「そういえば申し遅れました!私は議会の広報兼クレーム担当…、そう!あの天上議会の顔!リンカちゃんです!」
何を言ってるんだこの人は。右手で顔に向けてピースをして決めポーズらしきものをドヤ顔でやっているが、ますます状況が分からない。議会ってなんだ、というかもう収拾がつかないのではないだろうか。
「何も理解できてないんだけど…。えっと、まずここはどこなんですか?俺は確か――」
「あなたは線路に飛び出して轢かれるところでしたねぇ」
(そうだ、あの時確かに突き飛ばされて俺は死んだはず。じゃあここはやはり死後の世界?)
「でもまだあなたは死んでいない。なぜなら私があなたの魂をここに飛ばしたから。つまり、私はあなたの救世主!あなたは本当に運がいいね!」
「え?生きてるの?うん?魂を飛ばす?どういうことなんだ。」
「ありゃりゃ、魂の存在を知らないのか。これは結構世界構成に対する見地が狭そうだね。」
ぶつぶつと小声で言いつつ困り顔をする少女。俺は今の現状をわかりやすく説明してほしいと頼んだ。彼女は露骨に嫌そうな顔をしながらも説明を始めた。
「まずここはあなたの世界と他の世界の狭間の空間にあたるのです。私はあなたが今にも死にそうだったのでお願いついでにここに魂を移したのです。」
「じゃあ俺の体は今どうなってるんだ?」
「もちろん元の世界で死にそうになってるままだけど」「それじゃ全然助けてないだろ!」
「まあまあ、あなたの命を助けるのは私のお願いを聞いてくれればの話だから。交換条件ってこと。」
「はぁ…、お願いってなんだよ」
憤る気持ちを抑えてそのお願いとやらを聞く。すると彼女がまたいきいきとした表情に変わった。
「私のお願い。それは、あなたに別の世界に行って冒険してきてほしいのです!」
「別の世界?冒険?」
ばっと俺から飛び退くとどこからかあらわれていたどちらも重厚な作りだが異なる形をした椅子があった。彼女はそれのまわりで大ぶりな演技で説明しだした。
「そう!その世界は、あなたの住んでいるただ退屈なだけの世界とはちがう!剣と魔法のファンタジーが跋扈し、ド派手な大技が飛び交う異世界!わーまるでゲームみたいー。そう!!いまどき流行りの異世界転生!そ・れ・を!あなたにやってほしいの、です!」
なるほど。椅子は元の世界と異世界を表していたのかー。じゃない!
「どうどうどう?魅力的だと思わない?男ならいや、人間なら!一度は考えたことありません?この退屈な日常から抜け出して、非日常を味わってみたいと。いまだかつてない冒険がそんなあなたを待っているのです!あなた求めてたでしょ?非日常。」
ほんとなんなんだよこの胡散臭い小芝居は。ネットショッピングとかもしくは新手のセールスか何かかな?というか、
「なんで俺が非日常を求めてたって知ってるんだよ。」
「そりゃあ見てましたからねぇあなたのこと。こんな感じで監視してました。」
占い師が水晶に手をかざすようなそぶりを見せる。ずっと俺のことを見てたのか。となると、
「じゃあ俺が線路に吹っ飛ぶところも見てたってこと?」
「それはもうばっちりと。」
「じゃあなんでちゃんと助けてくれなかったんだよ。魂だけって、そのお願いも俺を助けて強制させればよかったんじゃないのか?」
「いやいやそこまで干渉する気にはなれなかったし?そもそもあのタイミングで時間が停止することが分かってたからちょうどいいかなって。」
「時間が停止する?どういうことだ。」
また新しい情報だ。現状だけでもうパンク寸前まで知らないことを教えられているっているのに。
「ま、まあ異世界にいけば時間の停止とかその程度の気にしなくてもいいからさ、今のは聞き流す程度で。」
そんな程度で済ましていいのかそれは。疑問がぬぐえないまま彼女は話を続ける。
「とにかくあなたの世界の時間が止まったので丁度死にそうなあなたを異世界に飛ばす候補にしようかなと思ったんだけどどう?異世界で冒険してみる気ない?」
「い、いや…」
正直なところそんな夢物語な世界に行けると言うのであればぜひ行きたいというはある。実際、俺が楽しみにしている新作ゲーム“SEVEN WORLDS”もそんな思いで予約したわけだし。でも俺にはそんな現世に未練がないとか、なくして困るものがないとか孤独系主人公とは違う。家族との生活は充実しているし、友達にも恵まれている。そんな未練たらたらな状態でどんな危険があるかもわからない何も知らない世界に飛ばされるなんて俺にはできない。
「なに?渋ってんの?じゃああなたの今持っている物ひとつ持っていいってことにしてあげる!」
「え?でも…スマホぐらいしかないし、向こうで使えるかわからないじゃないか。特に充電とかできないだろ普通。」
「スマホかあ、まあ不安はあるよね?……じゃあしょうがないな!これもつけてあげるから!」
彼女がどこからか謎の黒い物体を取り出した。
「これはズバリ!無限バッテリーです!無限に電力を供給してくれるアイテムで、向こうの世界ではオーパーツって言われちゃう超レアものだよ!まあ使える端子が限られてるから実質スマホ用携帯充電器だよね。」
「そ、そんな便利な物だされても…。」
そんな便利な物だされたら行きたくなっちゃうだろ!正直心が揺らぐ。スマホが転送後の世界で使えるとすれば、電波がなかったとしても時計や電卓などの便利ツールとして活用できる。いやしかし冷静になれ、向こうの世界での危険を考えてもむしろマイナスになるんじゃないか?俺は相手の口車に乗せられているのではないだろうか。そんなことを考えて答えを出し渋っているのに耐え兼ねたの彼女が怒り気味に言ってきた。
「で?行くのか行かないのかどっちなのよ。」
「…でも俺には家族いるし友達もいるし、退屈だと思うってことはそれだけ充実した生活をしてるわけで――」
「ハッ、あなた何か勘違いをしてないかしら。あなたがまだ生きていたいなら答えは一択しかないでしょ?元の世界に戻ったらあなたは確実に死ぬ。ただそれだけよ」
「え?でも時間が止まってるって」
「あなたってひょっとしておまぬけさん?魂しかこっちに来てないのに元の世界に戻ったら時間が再び動き出すまであの位置から動くことができないことぐらい当たり前でしょ。」
なんでそんな重要なこと先に言わないんだ。時間が止まっている状態でこうして正常に会話ができてるってことは元の世界に戻っても活動できると思い込んでしまっていた。
だが考えてみればそうだ。体が魂の入れ物だとして、たとえば筆箱に触れず中から筆記用具を取り出してそれを元の場所に戻したとして筆箱自体は元の場所から動かない。それと同じで時間が止まって動かなくなった肉体から魂を取り出して、元の肉体に戻しても肉体は動かないままだ。このリンカと名乗る少女、最初からお互いの情報量の差が分かっていて自分の思い通りにいくよう話を進めてたのか!
「ンヒヒッ。あれ?もしかしてぇ、自分の方が優位に立っていると思って納得いく条件が提示されるかどうかの様子見でもしてたのかなぁ?アハハッ!最初から全部私の思い通りだっていうのに掌に踊らされちゃって可哀想!」「ぐっ…。」
「いや〜そのあっけにとらわれて悔しさに変わっていくその顔がいつ出るのか楽しみで仕方なかったんだよねぇ〜!よ・う・は、あなたが、生きることを望むのであれば、情けをかけて異世界転送という形で生かしてあげますよということ。まあこういう事故による死のパターンって自ら望んでやる人も中に入るわけだから選択肢をあげてるんだけど。それもまた情けだと思わない?ウフフ」
「それがお前の本性か。…死ぬ気なんてない俺に最初から選択肢なんてなかったってことかよ……。」
「そういうこと。でも安心しなさい。あなたが生きて元の世界に戻れるチャンスはあるわ。」
「戻れる…、チャンス…?」
「5つ!その世界にある至宝を5つすべて集めればどんな願い事もかなえられるのよ。そうすればあなたは興味のある異世界冒険もできて、ついでに生きたまま元の世界に戻れる。これってウィンウィンってやつ?」
口を閉じ、目をつむる。それからしばらくして大きく息をつく。
「……分かった!もう吹っ切れた!その異世界転送だが転生だかっていうの。やってやろうじゃねーか!」
「お!いい顔になった!そうこなくちゃ始まらないよね!」
リンカはそういいながら椅子に座るように促した。
「そういえばさっき言ってたことでひとつ聞きたいことがるんだけど、議会って言うのはなんなんだ?」
「あぁそれ?まぁ、肩書というかふれこみというかー、あっ、常套句!みたいなやつだよ!」
「えーなんだよそれ」
「まあまああまり気にしないで!」
俺が椅子に座ると無造作に取り出した鎖のようなもので俺の手足を拘束してきた。
「えっと…これは何?あと異世界への入り口みたいなのはどこにあるんだ?」
「ああこれ?この椅子はね向こうでの体を作るのに一役買ってくれる優れものでね。でこれで異世界でまで飛んでもらうんだよ。だからこのままひゅーっと下に」
「えぇ?!」
「じゃあそういうことで行ってらっしゃい!まああなた運良いからちゃんと町の近くに飛ばしてくれるよ。」
「ちょっちょちょちょ!じゃあこのまま町につかないで死ぬかもってことじゃないか!あと言葉は?通じるの?!」
いきなり早口でとんでもないことを言い出す彼女に拘束された体をもがきながら問いただす。
「向こうは共通言語だからきっと通じるよ。あ、あとちゃんとわからないことは先に聞く癖をつけたほうがいいよ。うん。じゃあ行ってらっしゃ〜い」
「え?え?」
ガクンッ
「ちくしょおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!ちゃんと説明しやがれええええええええぇぇぇぇ!!」
一気に下へと落ちる俺は笑顔で手を振る小悪魔を見ながら叫ぶのだった。
ここまでありがとうございました。どうもWAGYです。ようやく異世界に飛び立ちましたね。
今回4分割してこの導入部とさせていただいたわけですがいかがだったでしょうか。今回このような形にさせて頂いたのは、興味を持っていただいた方に自分の作風を理解してもらうため、そして初投稿ということもあってどの程度の長さが読みやすいのかわからなかったというところにあります。なので多少の手間になってしまい申しわけありません。
次回からはいよいよというかようやくというか異世界でのお話になりますので、今回で私を気に入って頂けた方がいらっしゃれば是非ご覧になって頂けると非常にうれしく思います!
では今回はこの辺で。
追記(1月25日):登場するキャラクター(リンカ)の自分の中の印象が大きく変わったため、容姿の説明に〈凛々しさを感じる目がなんとも不思議な雰囲気を醸し出しているので、〉という内容を追加しました。ご了承下さい。