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ありきたりじゃない日常

導入部その3です。


 早苗は別のクラスなので教室の前で別れ自分の席に着くと怖い顔をしながら河合がよってきた。


「きょーすけくーん…。みてたよーそこの窓からー…。お前が早苗ちゃんといちゃいちゃしながら登校してくるのをな!!」

「うるさいハゲ」


 とびかかってきたハゲを最小限の動きでかわしてやった。


「ハゲちゃうわ!もっと近くで見て!触って!はいどうぞ!」

「どれどれ…。あらホント。これ坊主。馬鹿たれ。」

 ツッコミついでに向けてきた頭を軽くひっぱたく。痛そうなそぶりをする河合をよそに俺は席に座った。

「人の容姿をけなす悪者よ!私がここで成敗するわ!とう!」

「あ、弘明寺」「ゑ?!」


 こいつの天敵の名を出すと素っ頓狂な声を出しながら椅子に飛びついた。


「…ちょっとは落ち着いたか?」

「なんだよ嘘かよ驚かすなよ〜」

「ちなみにそれは何のネタなんだ」

「昨日の深夜にやってたんだよ。加奈ちゃんおすすめの魔法少女もの」

「へ〜どんな内容なの?」

「主人公は裕福な家庭なんだけど突如兄が豹変して醜い獣になっちまうんだ。それでなんやかんやあって魔法少女になると」

「そのなんやかんやって重要じゃないのかよ」

「お兄様。たとえどんな姿になっても私はお兄様の味方です!…あ〜尊い。獣になりたい。」

「あぁそういうこと」

こいつら揃って影響受けてるな。それに獣って。

「お前はもう十分獣だよ」

「それって間違い無く褒めてないよな?」

「もちろん」


 そんなことを言ってると河合の天敵が教室に入ってきた。その顔はなんだかうれしそうだ。


「弘明寺おはよう!今日は随分とうれしそうじゃないの」

「おはよう二人とも。」

挨拶を聞いてこちらに来る彼女。近くまで来るとこちらまでその喜びようが伝わってきそうだ。

「そらそうよだって我が剣道部初の県大会進出よ!」

「県大会?昨日試合があったのか〜」


 弘明寺水蓮みはすは早苗同様に剣道部に所属している。というよりも彼女が早苗を剣道部に誘った張本人だ。というかあれほどの勢いがある正拳が放てるのになぜ剣道部をやってるのかと疑問になるが、本人いわく兄弟がみな剣道をやっているから自分も自然とやるようになったのだとか。


「昨日どこで試合をやったんだ?少なくともこの学校ではないよな?」

「昨日は仙内であったのよ。私は行けなかったけど一つ上のつくよ先輩のおかげで優勝したんだとか。」


 仙内ときいてどきりとする。でも、地区大会があったということはやはり昨日の出来事は自分の家だけだったか。そう思い心の中で安堵したときだった。


「そういえば仙内といえばよ。怖い話が一つあるぜ。」


 そう切り出す河合。その言葉に不安が蘇る。やめてくれ。


「なんでも昨日文弥のやつが“SEVEN WORLDS”を予約するために学校からそのまま仙内まで自転車で行ったらしいんだが…。」

「らしいんだが?」

「なんと気付いたら家のベッドにらしいって話だ。」

「「え?」」

「それって何が怖いのよ」


 確かにそうだ。この学校はから船内から結構距離があるのだが、それを自転車でとなるとかなり疲れることは間違いない。そのままベッドに直行して寝てしまったその前のことを忘れてしまったってところだろう。い、いやそうじゃないと困る。


「それが仙内の看板が見えるところまでは記憶があるんだが、そこから帰ってくるまでの記憶が全くらしい。ゲームが予約できたのかさえ覚えてないって言うんだぜ?そりゃおかしいだろ。」

「それは確かにおかしいわね……。」

「で、でもあいつ確か脚本家志望だっただろ。今度の文化祭は絶対お化け屋敷やりたいとか言ってたしそのネタ候補かなんかを話したんじゃないのか?」


 明智文弥は中学のころからの同級生で脚本家になりたいと言っては文化祭でお化け屋敷だったり劇だったりをやりたがる男だ。実際脚本家になりたいのか怪しいぐらいに推してくる。

少し思案して「でも」と切り返す弘明寺。


「昨日の試合のことを覚えてる先輩方はつくよ先輩しかいないのよ。みんななんというか上の空というか…。」


 いや怖いこと言うなよ。昨日のことが自分の家だけのことじゃないっていうことを暗に示してるだろそれ。


「なあもしかして隣町のことみんな忘れちゃうんじゃ」「それはないだろー」


 食い気味に否定する俺。


「なんでちょっと焦ってるんだよ。なんか思い当たる節でもあるのか?」


 痛いところをついてくる。こういうところにこいつの頭の良さが出ているのがなんだか腹が立つ。


「…なんでもねえよ。」

「…まあとりあえず何か知ってそうなのはそのつくよ先輩とやらか。」

「名前も聞いたことないな。」

「あの人先月ぐらいに転入してきたのよ。隣町から。」


 また隣町か。とにかくその人に何か秘密がありそうだ。放課後その人に直接話を聞こうと三人で話し合って朝は終わった。



 放課後つくよ先輩を尋ねに剣道部の部室に向かったが彼女の姿はなかった。というより今日は部活が急遽休みになったらしい。

2人と別れた俺は帰りがけに早苗と合流した。こいつならつくよ先輩のことをそれなりに知ってるのではないだろうか、同じ剣道部だし。しかしその答えは期待を裏切るものだった。


蓬莱はらみつくよ先輩かぁ…あの人のこと全然知らないんだよねぇ。結構贔屓にしてもらってるんだけど。」

「贔屓ってなんだよ餌付けでもされてんのか?」

「いやいやそんなんじゃ無くていつも声かけてくれるから気に入られてるのかなって。」

「その気に入られてる早苗さんでもつくよ先輩のこと知らないのかー」

「なんかごめんね力になれなくて。先輩に何か聞きたいことでもあってたの?」

「ああちょっとね。」


 早苗には朝のことは言わないでおこう。こいつの性格上こういうことに頭を突っ込ませると良いことがないのは俺がよく知っている。それにしても早苗でもつくよ先輩の情報を何も持っていないとはいよいよ怪しい。明日朝イチで会いに行こう、と考えているうちに駅に着いた。俺と早苗は電車通学だ。と言っても家が真隣だから当たり前か。



 電車の到着を知らせる案内が聞こえる。いつもならどの時間にきても必ず人が待機列を作るほどの駅だが今日は珍しく人が少ない。人が全くいない列に並ぼうと思ったとき。


「きょうちゃん!つくよ先輩いるよ!あそこ!」

「え?どこにいる?」


 件の人物の名前を聞き指の刺された方の周囲をきょろきょろ見渡す。それと同時に後ろの方で女性の叫び声が聞こえた。


「どけ!!」


 早い足音とともに男の声が聞こえてくる。その声に驚き後ろを振り向こうとしたとき。大きめの手が俺を吹き飛ばす。俺は線路に飛び出した。

 人生ってもんはこんなにも簡単に終わっちまうのか。たった一つの非日常で。スローモーションに感じる視界を見ながらそんなことを思う。驚いた表情の早苗。線路に吹き飛ばされた俺。入線した電車。過去の思い出が走馬灯のようによみがえる。ほんとにこんなもんが見えるのか。この町のことが疑問に残るのが唯一の食いだろうか。そんなことを考えながら突然のことに立ちすく少女を見て無意識のうちの声が出た。


「さなえ!!」


 俺の視界は真っ暗になった。


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