大物新人来たり
セットに連れられて、やって来た今回の囚人は三人だった。
「今回は少ないな。」
カジが、ぼそりと呟いた。
「最近は、どんどん減っていく一方だ。もしかしたら、そろそろここの存在が世間の明るみに出始めたのかもしれないな。」
ジョーは唸るようにいった。
「もし、そうなったら此処はどうなるんだろうか?」
タヌキの問いかけに、ジョーは、
「こんな理不尽で非人道的な施設は無くなってしまうだろうね。」と、またしても唸るようにして答える。
「無くなるって、それじゃあ俺たちどうなるんですか?」
「アモン君。きっと皆殺しだよ。」
ジョーはアモンの肩に両手をかけて、何故か爽やかに言った。
「えーっ!」
「冗談だよ。その答えは俺にも分からない。変な望みだけは持たないようにしておこう。」
ガシャン!
突然鳴り響く音に、皆が驚いた。
「な、なんだ!?」
見てみると、それはセットたちのいる所からであった。
「ふざけんな!何で俺が誰かの下につかなきゃならねえんだ!」
そこで声を上げていたのは新人の一人であった。
大柄の体格で短髪。
歳は二十代後半くらいだろうか。
首には金色の鎖がかかっている。
半袖のシャツから出た両腕には、ぎっしりと刺青が施されていた。
そしてアモンたちは思った、
「すごくヤバい人だ」と。
「おい!お前ら」と、男はその場の全員に向けて大声を上げた。
「いいか、今日からは俺がここを仕切る!俺は山本だ!文句がある奴は出てこい!」
カジは、この時、
「ヤマ……ヤマ、ヤマちゃん。」と、言いたくなる衝動を必死に堪えていた。
「よし!じゃ文句はないな!ここは俺がもらった!あとは赤とか黒とかを俺の配下にする。ピンクは最後のお楽しみだ。ガハハハ!」
アモンはちらりとジョーを見た。
しかしジョーは余裕の表情でヤマちゃんを見ていた。
その口許には、うっすら笑みさえも浮かべて。
「あ、あのジョーさん。いいんですか、あの人?」
たまらず訊いたアモンに対し、ジョーは、
「ああ。全然いいよ。元気があって。まあ、しばらく彼の自由にさせておけばいいさ。」と言い残し、ジョーは立ち去ってしまった。
今回の囚人は三人。
ヤマちゃん以外の二人は至って普通そうである。
ここまでの道中を思うと、他の二人が気の毒でならなかった。
セットは一通り説明を終え帰路につく。
ちょうどアモンたちの前を通りかかった。
「おっ!アモン君、元気にしてるか?」
「セットさん、こんにちは。大変ですね。」と、アモンはヤマちゃんを、ちらりと見た。
「ああ、ああいうのは自然に淘汰されてゆくもんさ。まあ関わらないことだな。それじゃあ。」
それからの数日間のヤマちゃんの行動は目に余るものだった。
誰かれ構わず因縁をつけては、自分の後ろに並べて歩いていた。
「本当にこのままでいいのかな?」
アモンたちはヤマちゃんに見つからないように物陰に隠れて様子を見ていた。
「まじで迷惑!」
カジはご立腹の、ご様子だ。
「しかし彼に意見するような勇気がある者もいないのも現実だな。」と、タヌキはいささか冷静であった。
「――確かに。」と、聞き慣れない声がした。
アモンたちは一斉に振り返った。
そこには見馴れない一人の小柄な男。
青のツナギを着用しているので敵ではなさそうだ。
「あのーどちら様で?」
カジが、おそるおそる訊ねた。
「突然、驚かせちゃって、すいやせん。あっしは蜂谷と申しやす。以後よろしくお願いしやす。」
「ハッチだ。よろしくハッチ。」
カジは、いつものノリで蜂谷にニックネームを命名した。
「そりゃいい。あっしのことは今日からハッチとお呼びぐせえ。」
ハッチは背が低い上に猫背で低姿勢。
なので、成人男性にしては、かなり小柄に見えた。
更にいえば年齢も不詳である。
「あっしは昔から、あの手の野郎が大嫌いでして。」
ハッチは憎しみをこめた様な目でヤマちゃん見た。
「確かに好かれる様なタイプでは、決してないだろうね。」
タヌキもヤマちゃんみたいな男は特に苦手そうだ、とアモンは思った。
「あっしはだいたい、そこらに居りますから、よかたら気軽に声などおかけくだせえ。では、これにて。」
「なんか、ハッチって変わってるな。」
アモンはカジに対して、こう思った、「お前が言うなよ」と。
こうして一日一日が過ぎていった。
ヤマちゃんの後ろには、およそ十人ほどの青いツナギの列が出来ていた。
ぞろぞろと青いツナギを引き連れたヤマちゃんは、我が物顔で風をきってノシノシと歩きまわっていた。
そして、遂にヤマちゃん入所から六日が経過したのであった。