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プリズン8  作者: 田仲 真尋
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平和な日々

「おーいアモン、タヌキさん。起きろ!」

そう叫びながらテントに飛び込んできたのは、カジだ。


「なんだよ朝から。」

「うーん眠い。」


「ほら、これ見ろよ。」


カジは自慢気に、ある物を見せた。


「すげっ!テーブルじゃん。どうしたの、それ?」


「作ったんだ。」


少し照れ笑いしながら、カジは誇らしげにそれを見せた。


「ここら辺には何かの残骸やら何やら一杯落ちててさ、ハンマーとか釘も落ちてたんだ。」


「へー。カジって器用なんだね。」


アモンが感心すると、

「そうだ!俺たちの家を造ろうぜ。」と、カジは興奮気味に言った。


「家?そんなの無理だよ。」


「そんな大層なもんは無理だけどさ、小屋っぽいのならいけるって。おれ大工の見習いを一週間やってたからさ。」


「……一週間って。」


「どうせ冬がきたら、こんなテントじゃ暮らせないぜ。せめてもう少しましなやつを造ろう。」


「賛成。」と、突然タヌキが寝たまま手を挙げた。


「おっ!タヌキさん、さすがだ!」


多数決なら仕方ないと、アモンも「賛成」と手を挙げた。


「最初は小さくてボロい家でもいいんだ。少しずつステップアップして、最終的には豪邸建てるぞ!」


「おぉ!!」


何故かカジの無謀な将来設計にタヌキは、ノリノリで応えた。


「若い奴は朝から元気だな。」と、突然アモンたちのテントにジョーが訪ねてきた。


「あっ、ジョーさん。おはようございます。」


「おはよう、アモン君。ちょっと三人とも俺についてきてくれないか。」


アモン、カジは顔を見合せてから立ち上がり、テントを出た。


「私は若くないから、朝から元気がある訳ではないが、ついて行ってもよろしいか。」と、タヌキは半分寝ぼけ眼で三人の後を追った。


「ジョーさん、何処へ行くんです?」


「ここだよ。」

そう言って連れてこられたのは、瓦礫の山だった。

その小高い山を、足の悪いジョーは片足を引き摺りながら、慣れた様子で、スイスイと登って行く。

その後にアモンとカジも難なく登りきった。

タヌキだけは、何度か滑り落ちながらも、ようやく頂上へ。

アモンが以前登った時は暗くてよく分からなかったが、頂上は人が居りやすいように平たく整地されていた。


「うわぁ!広いな。」


カジの言ったことで改めて、このプリズンエイトの広さを思い知らされた。


「皆、今日が何月何日か分かるかい?」


ジョーの唐突な質問に顔を見合せた。

アモンたちがここに来て、およそ一ヶ月。

この日の日付を正確に誰も言えなかった。

すると、ジョーは懐から何やらゴソゴソと取りだし、アモンに手渡した。


「あそこ辺りを見てごらん。」


そう言って渡したのは片目用の望遠鏡だった。

アモンは言われるがままに望遠鏡を覗きこんだ。


「――な、なんだあれ!?」


アモンの突拍子もない声に、カジが反応して望遠鏡を取り上げ覗いた。


「うぉお!すげえな。」


カジの言葉に、もういてもたっても居られなくなったタヌキはカジから望遠鏡を取り上げ覗いた。


「これは、たまげた!」


「今日は何月何日ですか?」と、ジョーはもう一度訊ねた。


「九月三十日だ。」と、タヌキは答えた。


「あの巨大なカレンダーは何なんですか?」


アモンの質問にジョーは、

「あれはね、レッドドリンクが毎日壁に掲げている巨大日めくりカレンダーなんだよ。」と言った。


「何のために、あんなの壁に貼ってるんだ。」


カジは驚きと同時にキラキラした目になっていた。


「さあ、理由は分からない。いや、理由なんてないんだと思う。彼らは、とにかく目立ちたがり屋なんだ。そんなことより、今日という日が何の日か、ということのほうが大切だ。」


「一体何が?」


タヌキは不安そうに言った。


「今日は新人たちが送られて来る日だ。つまり君たちにとって初めての後輩たちがやって来る日なんだ。」


「後輩……あんまり嬉しくないな。」と、アモンは思った。


「と、いうことは六日後。また赤や黒が来る。だから忘れないようにね。見つかれば何をされるか分からない。」


「どうしてですか?俺たち何もやってないのに。」


アモンの意見はもっともであった。


「何もしていないことはないよ。だって皆、赤や黒に入らなかったんだから。それだけでも奴らにとっては痛めつける理由になる。」


「はい!私タヌキは、六日後のことを絶対忘れません!」


タヌキは変なところで妙に気合いが入っていた。

すると、アモンたちの会話を他所に一人でずっと望遠鏡を覗いていたカジが、

「うお!すげぇ!女の子がいっぱいいる!」と興奮していた。


「あっ!あんまりピンクの方を覗いちゃ駄目だよ。向こうからも監視しているからばれちゃうよ。」


カジは黙って望遠鏡の向きを変えた。


「ん!?何だあれ?ジョーさんジョーさん。何か緑のツナギがいるんだけど、あれも見たら幸せかなにかに、なれるやつなのかな?」


アモンは慌てて望遠鏡を取り、カジが見ていた所を見てみた。


「本当だ!緑色が何人かいる!」


「ああ、あれは衛生部の連中だ。ここのゴミや死体を掃除しているんだよ。ここで変な伝染病とか起きたら恐らく全滅だからね。意外とそういう所には気を使っているんだ。」


「あの人たちも模範囚なんですか?」


「彼らは模範囚より、もうワンランク上だね。もう、このプリズンエイトの中では生活していないんだ。この外にある刑務官たちが勤める施設で生活しているんだ。」


「えっ!では釈放されたってことなのかね?」


タヌキは希望に目を輝かせながら訊いた。


「釈放って言っても、どうせどこにも行けないんだ。ここは孤島だからね。まあ、それでもこの中よりから幾らかマシなのかもしれないけどね。」


「そりゃあそうか。」と、タヌキは愕然とした。


「よし、そろそろ戻ろうか。もうじき新人たちがやってくる。」


瓦礫の山を下りたアモンたちにジョーは、

「そうだ。よかたらこれ君たちにあげるよ。」そう、言ってアモンに望遠鏡を手渡した。


「えっ!いいんですか?」


「構わないよ。俺はまだ他に良いのもってるから。」


「ありがとう。ジョーさん。」



穏やかな時間が過ぎていく。

一日一日が、あっ!という間に終わっていった。

そのことにアモンは、少しの不安と恐怖を抱いていたのであった。









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