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プリズン8  作者: 田仲 真尋
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青の決断

アモンたち五人はセットの到着を待っていた。


「本当に二人とも、それでいいの?」


アモンはカジとタヌキに何度も確認をした。


「しょうがねえだろ。」

「私も迷いに迷った。たが――。」


ちょうどその時だった。


「いよー!みんな久しぶりだな。はっは!」


朝から妙に元気のいいモヒカンに全員、ドン引きである。


「じゃ早速答えを、お前らの心の声を聴かせておれよ。セイ!」


アモンたちは全員が一斉に声を上げた。

しかし、全員が一緒に声を出したので、セットは聞き取れない。


「お前ら同時に言ったら分からねえだろ。一人ずつ、あんたから。」


この時、皆がこう思った、

「あんたが煽ったからだろう」と。


「俺とこいつは赤に、レッドドリンクにお願いします。」


まずは川田と古賀が言った。


「オーケー。赤だね。じゃあ次、君。」


アモンは何の躊躇いもなく言った、

「俺はここで、青でお願いします。」と。


それを聞いていた青のツナギの野次馬たちは、驚きの声を上げた。


「あいつ本気か?」

「まあ最初は、ここが一番安全だと思ってしまうからな、仕方ないよ。」

「久しぶりの新人だな。」


場は騒然とした。


「ほう、珍しい奴だな。だけど……確かアモンだったよな。お前には強運が味方しているから、何とかなるかもな。よし、じゃあ次。」


カジは、一瞬躊躇いを見せたが、

「俺もここで。青を着る。」と、答える。


「私もだ。ここに残る。」


タヌキも意を決したように答えた。


「ワハハハッ!何て奴らだ。いいねお前ら!最高にクレイジーだ。了解した。」


セットはアモン、カジ、タヌキを残し先に川田と古賀を赤の地区へと案内しに行った。


「二人とも本当にこれで良かったの?」


アモンは神妙な面持ちで訊ねた。


「さあな。良いのか悪いのかなんて、後にならないと分かんねぇだろ。」


「そういうことだ。私たちは私たちの直感を信じただけだ。」



そして、ついにアモンたちに青いツナギが手渡された。


「いいか、これでもう後戻りはできねえ。あとは己の力で生き延びろ。」


セットは、そう言い残して去っていった。


しばらくするとアモンの元へジョーがやって来た。


「アモン君。残ったんだな。」


「はい。これから宜しくお願いします。」


「君たち三人に言っておこう。ここは組織ではない。ここで生きていくのは個の力だ。だが改めて歓迎しよう。ようこそブルーゾーンへ。」


ジョーの言葉に僅かながらではあるが、まばらな拍手が起こった。


「あの、俺カジといいます。ところでジョーさん俺たちは何をやればいいんだい?」


カジの質問はもっともだった。


「何を……と、言われても困るな。特に何もやることはないんだが。まあ、とりあえず、このブルーゾーンの中を見学してみたらどうだい。実は色々面白いものがあるんだ。」


「色々って何があるんです。例えば?」

ジョーの言葉にアモンも興味津々である。


「そうだな、例えば――病院とか。」


「病院!病院があるのかね。あっ!申し遅れました、私タヌキと申します。」


「ええ。まあ、病院といっても医者が一人と粗末な器具があるだけですがね。」


ジョーの一言にタヌキは敏感に反応していた。


「そこを見せてもらえないかな?」


「構いませんよ。では早速行ってみましょうか。」


「ほら君たちも早く!」


「なんかタヌキさん、張り切ってるね。」

「何なんだよ。別に俺、どこも悪くないのに。」


アモンとカジはタヌキに強引に引き連れられて、ジョーの後に続いた。


ジョーと共に辿り着いたのは、粗末な小屋のような家だった。

とは言ってもアモンたちが暮らしているテントよりは、随分ましである。


「先生、いるかい?」


「ああ、いるよ。」


ジョーの呼び掛けに返事した初老の男性が奥からひょこっと顔を出す。


「こちら三津谷みつや先生。先生、彼らはブルーゾーンの新人たちです。」


三津谷と呼ばれている男は、薄汚れた白衣を身につけていた。

医者というよりは怪しげな博士と、いったところだ。


「なんか飲み物みたいな名前すね。サイダーって呼びますね。」


カジは相変わらずのマイペースで、あだ名をつけた。


「ハハハ。サイダーか、結構結構。昔の私のあだ名だしな。」


何故かサイダーは機嫌が良くなった。

これはカジの秘めたる才能なのではないか、とアモンは密かに思った。


「さあ君たちも、先生に自己紹介して。」


ジョーに促されるまま三人は、

「アモンです。」

「カジでーす。」

「タヌキと申します。」と、簡単に挨拶した。


するとサイダーが突然、

「タヌキ!?」と、声を上げた。

カジは、「タヌキ」という名前に食いついた!と、口元を緩めた。


「タヌキさん。あなた、もしかして大学病院で医師をされておりませんでしたか?」


サイダーの発言に一同は驚いた。


「タヌキさん、あんた医者だったのか?」と、カジは問いただした。

「ああ。そうだとも。こう見えてもね、ゴッドハンドのタヌキって呼ばれていたんだよ。」


アモンとカジは疑いの眼差しでタヌキを見ていた。


「な、なんだいその目は!本当なんだからね。」


するとサイダーが、

「若い衆。それは本当のことだ。彼はよく雑誌などに取り上げられていたんだよ。」と、フォローを入れた。


「一回だけだけど、テレビにも出たことがあるんだぞ。」


タヌキは、自慢気に言った。


「そうだ!タヌキさん、よかったらここを手伝ってくれんか?無論報酬は出せんが。どうだろう?」


タヌキは宙を見上げ考えて、

「分かりました。私で良ければお力になります。」と、答えた。


「本当かい、助かるよ。ここには毎日のように怪我人やら病人が来るので、私一人では対処しきれんでな。」


病院を出る頃には日が傾き始めていた。

アモンたちはジョーとも別れ、とぼとぼと歩いて帰った。



三人はサイダー先生のもとから、いつものテントへと引き返してきていた。


「でも、そんなにすごい医者の先生が、どうしてこんな所にくるはめになったんですか?」


アモンの質問に、カジも興味を示した。


「そうだよ、教えてくれよタヌキさん。あんた本当に人を殺しちゃったのか?」


アモンは少し睨むようにカジを見た。

きっと、

「デリカシーの欠片もないやつだ。」と、思ったのであろう。


タヌキは、ゆっくり立ち上がり、

「少し外に行こうか。ここはなんだか蒸し暑い。」と、言ってテントを出ていった。

アモンとカジも、それに続いた。


蒸し暑いテントを出ると、日がどっぷりと暮れたプリズンエイトに気持ちのいい風が吹き抜けていった。


「もう秋だな。」と、アモンは肌で感じとった。

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