プリズンエイト(Ⅳ部)
「先生。それは本当ですか?」
アモンは半信半疑でサイダー先生に尋ねた。
サイダー先生は、自分で言っておきながら、どこか躊躇う様子を見せた。しかし、大きく息を吐き決意を固めたような表情でアモンの質問に答えた。
「可能だ。私の知り合いが衛生部にいる。信頼できる男だ。彼に協力してもらえば遺体として外に出られる。私から連絡しよう。」
「ちょっと待てよ。だったらそのまま遺体として死んだふりをしておけば勝手にビバリーヒルズへ運んでくれるんじゃないか?」
ハンニバルの言ったことは正論だ。わざわざ危険を犯してヘリを強奪しなくてもいい。
だが、真実は分からない。本当にビバリーヒルズへ運ばれるのか誰も確信を持てない以上、ヘリに乗って壁を越えるのが確実かもしれない。
「いえ、やはりヘリのプランでいきましょう。」
アモンにとって、これは戦いである。プリズンエイトへの宣戦布告として、わざと派手に演出する必要性が大事だという信念があった。
「しかし、問題もある。」
サイダー先生は頭を抱えながら、抱えていた憂いを皆に聞かせた。
「衛生部の方は何とかなる。だが、向こうの刑務官が遺体袋の中身を確認したら、それで終わりだ。すぐにバレてしまうだろう。」
確かに薄氷の上を歩くような危険な賭けに近い。
「だったら刑務官たちの気を引くような、何かが必要だな。」
「ジョーさん、それってどういうことですか?」
ジョーは少しの間、考えた。しかし良い方法が思いつかなった様で黙りこんでしまった。
すると今度はクルスが、こんな提案を出した。
「例えば、喧嘩だな。それも派手なやつ。レッドドリンク対黒狼會みたいな。そうすれば嫌が応でも奴らの気は、そちらに向くだろう。」
「なるほど。だが、そんな抗争は起こせないだろう。」
ジョーはクルスの例えを理解した。しかし、現実味がない。そもそもレッドドリンクは、事実上もう無くなっているのだから。
「まあ、それはあくまで例えですよ。それくらいインパクトがないとって意味で。」
皆がクルスの言いたいことを理解した。しかし、具体的なものは一つとして出てこなかった。
中途半端な演技で何かを仕掛けても刑務官たちに違和感を与え、逆に失敗に結びついてしまうかもしれない。
この場にいる者の頭の中をネガティブな考えが支配していく。それは、大胆な作戦を練るのに邪魔でしかなかった。
そんな中、アモンだけは、ある考えに辿り着いていた。
だが迷っている。その考えを口にするかどうかをだ。
しかし、迷っている時間がもったいない。アモンは重い口を無理にこじ開けるようなにして話し始めた。
「あの――いい考えがあります。」
全員が一斉にアモンを注目した。
アモンは、まだ決心していない。それでも、揺らぐ心と戦いながらアモンは続けた。
「赤鬼を解放しましょう。」
場の空気は、まるで凍りついたように冷えた。
「な、なにを言ってるんだ、アモン。」
「ハンニバルさん。インパクトがあるでしょう。」
「いやいや、それは危険だ。我々にとってリスクでしかないぞ。アモン君。」
「確かにリスクはあります。ですが、覚悟も必要です。タヌキさん。」
「アモン、本気なの?」
「美華さん、もちろん本気ですよ。」
アモンは矢継ぎ早に答えていくうちに、段々と迷いが消えていくのを自覚していた。
「アモン君。やってみよう。もし、赤鬼が暴れるようなら、その時は俺が――いや、皆が止めてみせる。君は思うようにやってみろ。」
ジョーの言葉は意外だった。アモンにとっては、この上ない信頼の証である。素直にその好意を受け取った。
「ジョーさん。ありがとうございます。」
アモンはジョーに深々と頭を下げた。
その瞬間、体の奥底からはやる気が溢れ出した、ような感覚をアモンは感じたのであった。




