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プリズン8  作者: 田仲 真尋
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大決起ハッピーイエロー(Ⅲ部)

「なんだよこれ?」


レッドドリンクの誰もが、そう思っていただろう。

彼らを、ぐるっと囲むようにして展開したハッピーイエローの数はレッドドリンクを遥かに凌駕していた。


「これは……女もいやがる。手を組みやがったな桜回廊と黒狼會。」


ブルは囲んでいるハッピーイエローを見て、そう判断した。

しかし、リーダーである赤鬼の観察眼は、もっと鋭かった。


「いいや、それだけじゃないぜ。生意気にも青の奴らまで一緒だ。」


「まじか……どうします赤鬼さん。」


焦りを見せるレッドドリンクたちだったが、唯一この男だけは冷静だった。それは当然、赤鬼だ。


「どうもこうもないだろ。所詮は屑の寄せ集め。数だけいれば、なんとかなるっていう甘い考えだ。どうってことはねえ。皆殺しだ。」


「おら!お前ら赤鬼さんの言葉聞いただろ、全員殺っちまえ!」


ブルの号令にレッドドリンクは息を吹き返した様に、眼に殺意を宿した。


「それは間違いだ、赤鬼!」


今度はハッピーイエロー側から一人の男が声を上げた。

片足を引きずりながらレッドドリンクの前に進み出た男は、ジョーだ。


「これはこれは、誰かと思えばジョー君じゃないか。久しぶりだな。足の具合はどうだ?」


赤鬼は笑いを堪えるように言った。


「お陰様でこの様だ。」


ジョーは自分の足を引きずり見せた。


「それで、どうするつもりだ。俺たちと全面戦争でもやるつもりか?まともに戦いもできない様な奴らを集めて俺に復讐でもする気なのか?」


確かに数では勝っている。だがレッドドリンクのように恐怖で支配したメンバーではない。いざとなれば逃げ出す者も多数いるだろう。ジョーは、そういうことも重々承知の上だ。


「赤鬼!お前はさっき数だけと言った。だがな、数は強みだ。民主主義なら特にだ。」


「なんだ?お前選挙でもやるつもりか?ここを何処だと思ってる。プリズンエイトだぞ!力だけが全てだ。力がある者が支配者になれる、そんな場所だ。」


「違う。ここは単なる刑務所だ。勘違いしているのはお前の方だ赤鬼。」


赤鬼とジョーのやり取りを全員が固唾を飲んで見守っていた。


「だったら俺が間違っていると証明してみせろ。力でな。」


「いいや。そうじゃない。やり方は他にある、よく見ていろ赤鬼。


ジョーは更にレッドドリンクに近づいていく。そして足を止めて声を上げた。


「レッドドリンクの諸君。我々はハッピーイエローだ――といっても桜回廊、黒狼會、そしてブルーゾーンの住人たちだ。ここで権力争いをしても何もない。本来、ここはそういう場所じゃないはずだ。冤罪で理不尽に送られてきた者や、とっくに刑期を終えているのに出所できない者。俺たちは、そういう理不尽な権力と戦う為に結成された組織だ。もちろん、重犯罪者には罪を償ってもらわなければならない。一生ここを出られない者もいるだろう――赤鬼のように。」


ジョーは赤鬼の罪を知っていた。どこでどんな形で知ったのかは分からない。だが真実だ。


「赤鬼、お前は何人殺してきた?何の罪もない一家を惨殺し、追ってきた警官をも刺し殺した。それだけじゃない。ここに入ってからも数えきれない人間を殺してきただろう。もう、終わりだ。」


ジョーの言葉にレッドドリンクのメンバーたちの表情が変わった。恐れや軽蔑の類いである。

しかし当の本人は、それにまるで気づいていない。


「それがどうした。」


「レッドドリンク!君たちに最後のチャンスを与える。そんな凶悪犯の元から離れるんだ。きっとここの間違った色の選択法で後悔している者も多いはずだ。こちらへ来てくれ、そして共に同じ色になろう。俺たちは決して君たちを罰っしたりしない。どうか頼む。」


ジョーの語りかけに場は沈黙と化した。

誰もが言葉を発しないし微動だにもしなかった。

そんな静寂を破ったのはレッドドリンクの一人だった。

手に持っていた鉄パイプを地面に捨て、ハッピーイエロー側へと走り出したのだ。


「赤鬼さん。いいんですか?」


ブルは不安げに訊ねた。


「ふん!あんな小者の一人や二人――。」


赤鬼は甘く見ていた。最初の一人が動き出すと、もう止められない。レッドドリンクは我先にと一斉に駆け出した。

河の流れは、みるみる内に大きくなり、やがて大河となった。

この状況を作りだせたのは圧倒的な人数の差である。戦える戦えないという論理では、人は納得できない。

誰がどう見ても有利なのはハッピーイエローだ。そこに追い討ちをかけるように不満が爆発した。

日常的に行われていたであろう暴力での支配。

レッドドリンクを低リスクで抜けられるのなら、喜んでハッピーイエローへと流れていくのは必然であった。


「赤鬼。これが現実だ。もう諦めたらどうだ。お前の元にも数少ないが人は残っている。それで満足するんだ。もう争いはやめよう。」


赤鬼の元にはブル、ゴン太、その他十数人しか残らなかった。

その中にはハッチの姿もあった。

元々は青のツナギを着ていたハッチは、最初の色から変わることはできないという、プリズンエイトの掟を破っていた。

この時、ハッチは他の者に紛れてハッピーイエロー側へ行こうとしていた。

しかし、そんなハッチの視線の先にアモンが飛び込んできた。

アモンはハッチを、ハッチだけを睨んでいた。その目は憎しみが込められていた。

もしハッチが他のレッドドリンクに紛れて行動してもアモンはハッチから目を離さないだろう。

もしあっちへ行けば殺されてしまうかもしれない。

そんなアモンの憎しみの恐怖がハッチをレッドドリンクに踏みとどまらせていたのである。


「ふざけやがって!後悔するぞ貴様ら!」


赤鬼は吼えた。

するとジョーは、こんな提案を赤鬼に投げ掛けた。


「納得いかないのなら、俺が相手をしよう。タイマンで勝負しろ、赤鬼。」


その提案に赤鬼は、ニンマリと笑みを溢した。


「お前、正気か?今度はもう一本の足も不自由になりたいのか?」


「もちろん本気だ。」


「よし。では頭同士の戦いということでいいんだな?」


ハッピーイエローにリーダーはいない。だが、その場にいた黄色の人々は誰も文句を言わなかった。


「ああ。俺が勝てば、今日限りでレッドドリンクは解散だ。」


「上等!」


赤鬼対ジョーの一騎討ちが、始まろうとしていた。


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