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プリズン8  作者: 田仲 真尋
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赤か黒か

アモンたちは身支度を済ませて待っていた。


「赤が先に来るんだったよなアモン。」

「それで私たちは何を見定められるんだろう。アモン君、何か具体的な事は聞いていないかい?」


カジとタヌキは落ち着かない様子で、先程から似たような質問ばかりをアモンに投げかけていた。


「いや、だからジョーさんは特に何も言ってなかったって。まあ、よく奴らを観察しろとは言ってたけど。」


「観察って……いや、それより何だよ、そのジョーさんって!」


カジにジョーの事を説明しても意味はないだろう。

それより――。

アモンの視界に真っ赤な一団が入った。


「きた!」


前方からノシノシと歩いてくる赤い五人組。

その先頭の男は小柄で坊主頭に、雷のようなラインが入っている、強面のお兄さん。

その後ろには、まるでプロレスラーのような体格をした巨体の男。

他の三人も、何だか柄が悪そうだ。


アモンたちに加え、最初から一緒だった川田と古賀の五人は緊張の面持ちで赤の到着を待っていた。


そして、

「あっ!新人君たち発見!」と、赤のおしゃれ坊主が叫んだ。


アモンたち一同は深々と頭を下げた。


「いやだな。そんなにかしこまらないでよ。今日は挨拶に来ただけなんだからさ。俺はレッドドリンクの古田っていうんだけど、皆は『ブル』って呼んでる。あと他の奴らはまた今度紹介するわ。今日はあんまり時間がないから。」


アモンたちは少し安心した。

赤いのは特に暴力的だと聞いていたからだ。

「一応説明しとくよ。俺らレッドドリンクは、このプリズンエイトで一番でかい組織だ。飯だってここより断然旨いし、酒だって煙草だって手に入る。なんなら女だって都合がつく。」


この話しに飛びついたのは、

「ええ!本当ですか!」

「もう少し具体的に!」

カジとタヌキだ。


「まあまあ、お二人さん。そう興奮しなさんな。とにかくここに入ったなら、やっぱりレッドドリンクだ。それ以外は考えられねえ。悪いことは言わねえ、俺たちと一緒に真っ赤なツナギ着て、燃えあがろうぜ。」


「おーっ!」と、アモン以外の五人は既に乗り気である。


「あ、あの。一つだけ質問させてもらってもいいですか。」


アモンの問いかけに、ブルは、

「ああ、何でも聞いてくれ。」と、親切に応えた。


「古田さん――」


「ブルでいいよ。」


「じゃあ、ブルさんはレッドドリンクのリーダーなんですか?」


「いやいや、俺は頭なんかじゃねーよ。下っぱだ。頭は……まあ今度紹介するよ。」


「分かりました。」


アモンは気になっていた。

自分が「ブル」と呼んだ時、そしてリーダーか?と質問した時のブルが見せた一瞬の不機嫌そうな顔を。

そして……。


こうして赤の品定めは終わった。

ブルは帰り際に、

「明日、セットが来るから。奴に、どこに所属するか伝えな。じゃあ待ってるぜ――最後に一つだけ。間違っても黒にはなるなよ。もし黒になっちまったら――殺さなきゃなんねえからな、ワハハハ。」と、言い残して引き上げた。


アモンたちは気を張っていたせいか、疲れがドッと押し寄せた。


「まあ赤で決まりかな。」

「そういうことになるだろうね。」


カジとタヌキの言葉は余所にアモンは一人考え耽っていた。


そして、数時間後。

今度は黒「黒狼會」のお出ましだ。


こちらは三人の男たちが、やって来た。


「初めまして。黒狼會の来栖と申します。この二人は山田と佐藤。」


クルスと名乗る男はインテリ風な細身の男だった。

手には何だか、分厚いファイルらしき物。

銀の細い、おしゃれ眼鏡野郎であった。


「我々は規律と礼儀を重んじる組織です。赤のような傍若無人な組織とは根本的に近います。安定した生活を送りたいのであれば是非、黒いツナギを着て頂きたい。」


「あの食事のほうは、どんな感じでしょうか?」


タヌキは、どうも色気より食い気のようである。


クルスは、クスッと笑って、

「食事に関しましては、当方がナンバーワンかと。我々には多少でありますが畑を所有しております。他にも新鮮な魚、肉、卵、他にも菓子類も特別なルートで手に入ります。更に黒狼會には、元々一流調理人だった者もおります。」と、饒舌に語った。


「ほほー。それは何ともそそられますな。」


「あの、黒狼會で狼を飼っているって本当ですか?」


今度はカジが興味本位に質問を投げかけた。


「フフフ。それは是非、黒いツナギを着て、実際ご自分の目でお確かめください。」


クルスの言葉にカジは何故か興奮していた。


「あのー、クルスさんは黒狼會のリーダーなんですか?」


アモンの言葉に一瞬クルスは面食らった様な表情を見せる。

だが、すぐに冷静に、

「いいえ。私は会長では御座いません。私は、言うなれば人事部の部長といったところでしょう。」と、答えた。


そして、黒の品定めも終了した。

クルスも帰り際に、

「皆さんの為に言っておきます。決して赤にはならないことです。きっと後悔しますから。では失礼。」と、言い残して帰っていった。


残された五人は、悩んでいた。

川田と古賀は二人だけで離れていった。


「俺……ピンクに行きたい。」


カジの突拍子もない発言に、

「そりゃ誰だってそうだよ、男なら。」と、アモンも同意した。


「私は、今のところ『黒』に魅力を感じる。」


「タヌキさんは黒じゃなくて食い物にだろ。」と、カジ。


結局、三人は決定的な判断を下せなかった。


その夜、アモンは寝静まったカジとアモンを残し、テントを出た。

空には綺麗な、まん丸のお月様。

月明かりがプリズンエイトを明るく照らしだしていた。


「やあ、君も眠れないのかい?」


ふと瓦礫の上を見ると、そこには、

「ジョーさん。」が座っていた。


「こっち来てみなよ。」


アモンは言われるがまま、小高い瓦礫を駆け上った。

そして、驚きの光景を目の当たりにした。


「あっちが赤で、こっちが黒。それであっちがピンクだ。」


ジョーが指差した方角は、まるで昼間のような明かりが灯っていた。


「繁華街かよ!」


アモンは驚きを隠せない。


「華やかだろ。ここが本当に刑務所なのかって疑いたくなる。」


ジョーは何だか寂しそうに呟いた。


「あのジョーさんは、何で青いツナギを着ていんですか?」


「俺かい?俺は、犯罪者だ。罪を償うため、ここにいる……それだけさ。」


アモンにはジョーの答えが、よく理解できなかった。


「もう一つ聞かせてください。ジョーさんは、ここのリーダーなんですよね。」


アモンには確信があった。

どうしてかは分からないが、そうとしか思えなかった。


「うーん、難しい質問だな。第一ここは一つの組織って訳じゃないからな。でも、リーダーかと言われれば、まあそんなとこかな、としか答えれない。」


それで充分だった。

この時、アモンは決心した。


――翌朝。

アモンたちのテントを川田と古賀が訪ねてきた。


「あの、俺たち決めたから。赤に入るんだ。」


そう言って去っていった。


「やっぱり赤か。アモンとタヌキさんは、もう決めた?」


カジの言葉に、タヌキは首を横に振った。


「俺は決めたよ。」


カジとタヌキは驚いたように、同時に聞いた、

「どこに?」

「どこに?」と。


「俺は――ここに残る。青いツナギを着るよ。」


この日も朝から暑かった。

もう夏も終わりを迎えていたはずなのに、とにかく暑かった。

汗まみれの三人は気持ちの整理も、つかないまテントを出たのであった。





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