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プリズン8  作者: 田仲 真尋
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桜回廊のドン

アモンとジョーは桜回廊へと向かうべく早朝からブルーゾーンを出立した。途中で、なぜかセットが合流した。


「お前は呼ばれていないだろ、セット。」


「そんな薄情なことは言いっこなしだぜ、ジョーさん。俺だってハッピーイエローの一員なんだ。それなのに皆は三色同盟だのなんだの言ってたけど、本当は紫も含めた四色だろ?これ以上ないがしろにされるのを黙ってるわけにはいかないんだよ。」


確かに、よくよく考えてみれば紫を完全に見過ごしていた。それは紫からはセットしか参加していないからであろう。模範囚がわざわざ危険を犯してまでハッピーイエローに入っているのは不自然なことだ。よほど変わり者なのだろう。アモンは、そう納得した。



桜回廊への門に到着したの三人を待ち受けていたのは、ピンクのツナギを着た華やかな一団だった。整列している彼女らの側に寄ると、一人の美しい女性がアモン達の前に歩み出てきた。


「ようこそ。お待ちしていました。私、姫川と申します。」


その名に聞き覚えがあった。確か三姫の一人。つまり幹部だ。


「来た来た。遅いぞ。」


今度は知った顔が現れる。美華だ。


「姫川さん。私が中に案内しますね。」


「あら、本当?じゃあお任せしちゃおうかしら。」


アモン達は美華の後に続き、姫川とは別れた。その直後、美華はアモン達に小声で話した。


「姫川さん、綺麗だろ。でも、ああ見えて四十四なんだよ。」


アモンもジョーも、さすがに驚きを隠せなかった。だって、どう見ても三十前後にしか見えなかったからだ。


「うほーっ!美魔女!最高!」


セットは相当浮かれている様子でテンション高めである。


「えーっ!何でセットがいるのよ!?あんた呼ばれていないでしょ?」


今頃になって美華はセットの存在に気づいたようであった。


「美華さん。それはもう終わった話しだ。なっ、ジョーさん、アモンさん。」


アモンとジョーは苦笑いする他なかった。


「まったく。知らないからね。」


美華は諦めた様子で三人を桜回廊の地区へと案内したのであった。



桜回廊の門を抜けて中に入ると、そこはまるで日本庭園のように美しい庭があった。しかも、かなり広い。池や小川までもが造られている。

そしてその庭園を更に抜けて行くと、今度は家々が建ち並んでいた。

そこかしこにピンクのツナギの女性たちがリラックスした様子で歩いている。

心なしか、良い香りが立ちこめているようだ。

青や黒とは、空気感さえも違う。そんな状況にアモンやジョーは言葉を無くしていた。ただ、セットだけは野生の獣のように興奮し、オスということを隠すこともなく目をギラギラと輝かせていた。


「うぉ!すげえ!楽園だ!ハーレムだ!」


「セット、うるさい!静かにしてよ、恥ずかしい!」


美華もセットには、お手上げのようだ。


しばらく歩いていくと、大きな和風の平屋の家屋が現れた。

その敷地は広大で、どこからどこまであるのか、一見しただけでは見当もつかない。

美華は、その屋敷に三人を案内した。


中に入ると、すぐに出迎えに二人の女性が出てきた。

廊下はピカピカに磨かれていて、掃除も行き届いている。

本当に、ここが刑務所なのか?と、これまでにアモンは何十回、何百回と頭の中に、その疑問が浮かんだことだろうか。


長い廊下を歩いて行くと、その一番奥の突き当たりの部屋に美華を合わせた四人は通された。


「うわ!広っ!」


畳何畳分あるだろうか?まるで時代劇の映画に出てくる将軍が居る間のようだった。

入り口から一番遠い場所、上座には数人の女性達が行儀よく正座して並び座っている。

アモン達は、美華を先頭に奥へと歩んだ。しーんと静まり返った部屋は、何やら神聖な儀式でも行われるようであった。ミステリアスな雰囲気にアモンは緊張を高めていった。


「ただいま戻りました。こちらがジョーさん、あちらがアモンさんです。で、こっちが……。」


「貴方がセットね。噂は聞いていますよ。それにしても面白い髪型ね。モヒカンっていうんですって。オホホホ。」


左右に三人ずつ、その中央に座る女性こそ桜回廊のリーダー、菊婆だ。アモン達は瞬時に、それを悟った。


「どうも。セットです。貴女が菊婆さん?」


その瞬間、空気が変わった。ピンクの女性達が一斉に腰を浮かせ、懐からナイフの様な物を取り出した。


「ば、ばか。セット!それは禁句だ!謝れ早く!」


美華は焦った様子で小声でセットに促した。

そうは言っても元々、「菊婆」というのは美華が教えたことだ。

しかし、どうもヤバイ空気をセットは感じ、

「失礼しました。俺、馬鹿で礼儀知らずなもので……すんません。」

と、頭を下げた。


「あらあら。いいのよ。」


菊婆は相当な高齢者のようであったが、その品の良さは身なりや口振りに表れていた。年齢不詳のマダムだ。

菊婆の様子を、じっと伺っていた取り巻き達は一旦、刃物を懐に収め再び腰を下ろした。


「でもね。次に無礼を働いたら許しませんわよ。オホホ。」


その瞬間、またしても取り巻きの女たちが腰を浮かせ懐に手を入れた。


「は、はい。ありがたき幸せ。ハハッー。」


セットは時代劇の下手人のように頭を下げたのであった。










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