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プリズン8  作者: 田仲 真尋
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監獄初夜

アモンたちは、ブルーゾーンという地区に滞在することとなった。

そこには青いツナギを着た人々が暮らしていた。

だが、どうも活気がない。

皆、地べたに座り混んでいる。

疲れた様子だった。


「それじゃあ、女の子は俺についてきな。他は、ここでお別れだ、また一週間後な。」


案内役のセットはサユキを連れて歩き出した。


「それじゃあ皆さん、お元気で。」


サユキの挨拶に、なんだか自分たちが取り残された気分になった。


「ああ、そうそう。言い忘れてたけど、一度色を決めたら二度と変更できねぇからな。慎重に選べ。」


セットは、そう言い残して、サユキと共に去って行った。


それから、しばらくは誰も口を開かなかった。

これから一体どうなってしまうのか、不安で仕方なかった。


「ん!?何かいい匂い。」

「本当だ。そういえば何も食ってなかったな、俺ら。」

「確かに、今日は何も口にしていませんね。」


「あんたら新入りだろ。早くこっち来て飯でも食え。」


青いツナギの中年男性が声をかけてきた。

見てみると、どこからか青いツナギがゴソゴソと出てきて列をなしている。

すぐにアモンたちも、その列に加わった。

鼻を刺激する匂いの正体は、焼きそばだった。

一人一人に配られる量は少なかったが、皆、満足そうだった。


「これだけの量しか食べれないと痩せるな、間違いなく。」と、タヌキが言ったのを聞いて、カジが笑い出した。

それを見てアモンも思わず吹き出した。

やはり腹が空いていると気持ちにも余裕がでない、ということなのだろう。


ここでの暮らしは決して辛くはなかった。

恐らく通常の刑務所より、居心地はよいだろう。

ただ眠る場所には困った。

夏の暑さが夜になっても引かずに、寝苦しい夜が続いた。

アモンたちは簡易性のテントで暮らしていた。


「しかし暑いな。」

「本当だよ、たまんねえよ。」

「死ぬ。」


しかし、それを除けば他は我慢できた。

簡易シャワーの個室もあり、もちろん水道も引いてある。

食事も日に二回。

やることもないので退屈といえば退屈ではあるが、起床時間も消灯時間も、細かい規則もない。


「楽勝で乗り越えられるかも。」と、カジはアモンとタヌキに言った。


「そうだね。私は結構、限界に近いけど、何とかなりそうだ。」


「俺も。刑期が一年だから、ちょっと辛抱すれば――。」


その時だった。

急にあちらこちらから声があがった。


「刑期一年?あんた何いってんだ。」

「俺なんか、もう三年も前に刑期終えてるんだけどな。」

「俺だってそうだ。」


それは、まるでアモンたちを責める様な物言いであった。


「ちょっと冗談はやめてくださいよ。」

アモンは少し声を張り上げるように言った。


「まあ、そのうち分かると思うけど、ここにいる全員が――終身刑なんだよ。」


青のツナギの一人が、今度は哀れむように言った。


「ふざけるな!私は、私は冤罪なんだぞ。それで死ぬまでここにいろと!?」


タヌキは、かなりヒートアップしていた。


「ワハハハ!冤罪だってよ。」

「おっさん心配すんな、ここにいる奴は全員――冤罪だ。」

「そういうことだ、諦めな。」


青いツナギの人々はタヌキに対し、一斉に声を上げた。


この発言に対して青ざめたのは、アモンとカジである。


「嘘……だろ?」

「ああ。きっと嘘だ。こいつら暇つぶしに俺らをからかってんだよ、アモン。」


しかし青いツナギの連中は、それ以上なにも言わなかった。

その後、テントに戻った三人に会話する余力は、もう残っておらず、それぞれ横になって眠れない一日を過ごしたのであった。


――六日目。

この日は空を灰色の雲が覆いつくしていた。

明日には、どの色を選ぶか決断しなければならない。


アモンは二人より少し早く起き、テントを出た。

昨日の青いツナギの言葉が頭から離れない。

本当に自分は死ぬまで、ここで暮らすのだろうか、と。

そして、ふと周りを見回して、違和感を覚えた。

いつもなら、その辺りに座り込んでいる青いツナギが誰も見当たらない。


「誰もいない?」


すると、一人の青いツナギが姿を現し、アモンの前に現れた。

男は長身で細身、焼けた肌に伸びた髪を後ろで束ねていた。

首もとには銀の骸骨がチャラチャラと揺れていた。

そして、男は唐突に、

「今日は品定めが行われる。」と言った。


アモンは何も答えずに、頭の中にクエスチョンだけが浮かぶ。


「もうすぐ赤いのが、君たち新入りを見学にくるんだ。そして、午後からは黒いのが来る。いいかい、奴らをよく観察し疑問に思ったことがあれば遠慮なく質問するんだ。君たちのこれからが懸かっているんだ。真剣に向き合うんだ。ちなみに、ここの他の連中は巻きこまれたくないんで身を潜めさせてもらっている。それじゃあ。」


「あの!お名前聞かせてもらえませんか?」


突然のアモンの問いかけに、男は一瞬面食らったような表情を見せた。


「俺の名前なんて聞いたって何にもならないよ……城だ。城一真じょうかずまだ。」


「俺、アモンって言います。」


「アモン君か。覚えておこう。それじゃ――グッドラック。」


そう言い残して青いツナギの男は、片足を引き摺るように歩きながら、どこからへと消えていった。


アモンは咄嗟に思いついた。

きっとここにカジが、いたならば彼のことをこう呼んだだろう、「ジョー」と。


アモンにはジョーが、ここの他の人々とは何か違うと感じた。

それが何なのかは分からない。

この先、どうなるかも全く分からない。

一つ一つの壁を乗り越えていくしかないだろう。


アモンはテントに戻り、カジとタヌキを叩き起こしに戻った。


曇り空のこの日は強い陽に照らされることは無かったが、代わりに強く湿気を帯びた空気が全身にまとわりつく、不快な一日の始まりだった。


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