黄色会議
アモンとタヌキが黄色、「ハッピーイエロー」への入団を許されて三日が経っていた。二人はサイダー先生の元で変わらぬ暮らしをしていた。いや、この日に限っては少し違った。
昼間、運悪く赤に見つかってしまった青の一人が集団に暴行を受け重症を負ったのだ。
彼の手当てをするサイダー先生とタヌキの手伝いにアモンは追われていた。
ようやく落ち着きを取り戻せたのは、もう陽が暮れた頃だった。
外はもう暗くなっていた。そこへ、三日ぶりの訪問者がやってきた―――ジョーだ。
ジョーは診療所に入ってくるなり、
「アモン君、タヌキさん。さあ行くぞ。」
「どこへ?」
「どこへ?」
二人は声を揃えてジョーへ質問した。
「今日はハッピーイエローの緊急会議を行う。他のメンバーも集まっているんだ。時間がない急いで。」
ジョーは二人を急かした。アモンとタヌキは言われるがまま立ち上がり、診療所を出た。
サイダー先生は、行かないのですか?というタヌキの問いかけに、
「私はもう引退しているようなものだ。今はジョー君が黄色のリーダーだ。」と、少し寂しそうだった気がする。
夜のプリズンエイトは、ずいぶんと冷え込んでいた。
三人は、最低限に設置された街灯を頼りに歩いた。
赤のエリアは遠くからでも、はっきりと分かる程の電気が灯っていた。こことは大違いである。
ふと、そのことをアモンは思い出していた。
そして、黒の地区の夜は一体どうなんだろう、という疑問が頭を過った。
しばらく歩くと、あの瓦礫の山へと辿り着いた。
ジョーは、おもむろに瓦礫の山の麓辺りにある、瓦礫を取り除き始めた。ふと背後に気配を感じた、アモンは恐る恐る振り向いた。
「わぁああ。」
思わず声を上げたアモンが見たものは、人だった。
その人は突然、
「ご苦労様であります。ずっと見張っておりましたが異常はありません。」と、敬礼しながら言った。
――サルだ。
「報告は結構だが、静かにな、サル。」
ジョーは静かにサルを叱った。
その後しばらくジョーは瓦礫を堀り続けた。
そして、その手が止まると、瓦礫の下から現れたのは鉄製の観音開きの扉であった。
「これから地下に潜るよ。暗いから気をつけて。サル、見張りを頼んだよ。」
ジョーは慣れた様子で扉を両手で開き、中へ。ぽっかりと開いた暗闇へアモンとタヌキも続いた。
扉の向こうは、いきなり地下へと通じる階段だった。外よりも冷たい空気が流れていた。どこかで水の滴る音が反響して響いていた。
先頭のジョーが懐中電灯で足下を照らし、それを頼りにアモンたちも一歩ずつ慎重に階段を下りる。
細い下りの階段を下りきると、左右に分かれたT字路にぶつかった。
ジョーは右側の通路へ。三人の足音だけが辺りに響く。
百メートル程、歩いていると通路は突然終わりを告げた。
行き止まりの壁には鉄製らしき扉があった。ジョーは、その扉に手をかけ開く。
扉は錆びているのかギィーっと鈍い音を立てて開いた。
扉の向こう側には明かりが灯っていた。
そして、無数の人の気配があった。その空間は相当に広いようであった。部屋の隅々まで明かりが届いていない。
ジョーは女性だと思われる名前を呼んだ。
「美華さん。明かるくしてくれ。」
「はーい。ちょっと待っててね。」
どこからか可愛らしい女の人の声がした。その直後、今度はゴォーっと機械音が鳴り響く。そして、その場は昼間の様に明るくなっていった。
「おっ!新入り君たちですね。どうです、このバルーン型の投光機は。すっげえ明るくなったでしょ。」
今度は声の主が、はっきりと見える。アニメの声優さんの様な甲高い声の持ち主は、綺麗な大人の女性であった。クールビューティーといえるだろう。その顔立ちと声には大きなギャップがある気がする。。
「彼らの紹介は後で、だ。まずは皆に報告しなくてはならない事がある。さあ、アモン君、タヌキさん。席に座ってくれ。」
ジョーは二人を着席させてから、皆と対面するように立った。
アモンは、すぐ後ろに椅子があることに、ようやく気づいた。
ふと、見るとそこには何十という椅子が整然と並べられていた。
その席の殆どに人が座っていることに、今の今まで全く気づいていなかった。
それで、その光景を目の当たりにした瞬間、思わず「わっ!」と、声を洩らした。その声に一瞬、皆の視線を感じたアモンは気恥ずかしい気持ちになった。
アモンは古びてガタがきているパイプ椅子に腰を下ろした。
辺りは本当に明るくなっていた。よく、夜間の道路工事現場に置いてある、バルーン形の照明は四方に配置してある。しかし、凄まじい威力である。後ろに座っていた人々の顔まで、はっきりと見えるほどだ。
アモンは落ち着かない様子で辺りを見回していた。
ジョーは先ほどの女性と、まだ何やら打ち合わせをしている様子だった。
そんなアモンの目が、ある一点で止まった。その男の顔は殆ど見ていない。それよりも彼のツナギの色にアモンは反応したのだ――黒である。いきなりの黒との遭遇にアモンは思わず、席を立とうとする。しかし、その直後の一言でアモンはおとなしく椅子に深く座った。
「皆、集まってもらって感謝する。今日は全員に話しておきたかったのだが、都合が悪くて来れなかった者もいる。彼らには後日、機会がある時に話しておこう。では本題に入る、レッドドリンクについてだ。」
ジョーの一言にその場に緊張が走ったようであった。
皆が彼に注目しているのが、最前列に座るアモンにも感じ取れた。
自分も、その一部だという気は、まだあまりしなかった。




