カジの行動
アモンは一人眠れずにいた。
テントの中にはアモン一人だけである。
タヌキは、サイダー先生の所で今日は泊まり込むと言って出て行った。
カジは……どうしているのか分からない。
たまにフラフラと帰ってきては、すぐに眠った。
そして起きたらカジの姿はいつも、そこに無かった。
アモンは、ここにきてようやく自分の気持ちに気づいた。
――孤独だ、と。
そんな思いをしていたアモンの元へ突然、彼が現れた――カジだ。
「あれ、アモンまだ起きてたのか。タヌキさんはいないのか。」
「カ、カジ。どうしたんだ急に?」
「どうしたもこうしたも、帰って来ただけだぜ。あっ!もしかしてお前、寂しかったんじゃねーの。」
「な、なに言ってんだよ。そんな訳ないだろ。」
そんなことを口にはしてみても正直嬉しかった。
アモンの中では既にカジを友だちとして見ていたからだ。
それを自分が全く知らないハッチとばかり、つるんでいたのに焦りを感じていた。
そのことを口が裂けても言えるはずがなかった。
「なあ、アモン。実は俺の兄貴が、ここにいるかも――いや居るんだ。」
アモンは絶句する他なかった。
カジは座り込んで続けた。
「ここに入ってからずっと思ってた。兄貴がいるんじゃないかって。でも探す宛もないし、むしろ居ない確率のほうが高いだろって考えていたんだ。でも、ある日ハッチと知り合って考えは変わった。あいつは情報屋みたいなことやってるから情報通でな、兄貴の話ししたら一緒に探してくれたんだ。」
アモンは「じゃあ、どうして俺も誘ってくれなかったの」とは、言えなかった。
「それでようやく手がかりを見つけた。どうやら兄貴は黒に居るらしい。」
黒!?
アモンは激しく動揺した。
「本当に?」
「ああ、ハッチの話では間違いないそうだ。だから俺は明日、黒狼會へ行ってみようと思うんだ。」
「どうやって!?普通に行っても殺されてしまうぞ。」
アモンは以前ジョーが言っていたことを思い出していた。
青が赤や黒の地区を訪ねるのは、もはや自殺行為だ。
「それくらい分かってるよ。ハッチがさ黒のツナギを用意してくれるんだ。」
またハッチか。
アモンは正直なところ、その名にうんざりしていた。
「何とか兄貴を探せるように頑張ってみるぜ。」
本来なら俺も行こう、と言わなければならない場面であるだろう。
だが、アモンにはその気持ちは皆無であった。
「お兄さんって、どうして捕まっちゃったの?」
「……さあ。俺も詳しくは知らないんだけどさ、ハハハ。」
どうやらカジは自身の罪や家族の罪を言いたくないらしい。
アモンも最初はよく、色々な人に訊ねていたが最近では少々煩わしく感じていた。
それで初対面の人には絶対に、その質問はしないと決めていた。
明け方ゴソゴソとテントを出て行ったカジ。
アモンは、一言だけ、
「気をつけてな。」と、声をかけた。
カジはアモンが起きていることに驚いた様子で、
「悪い。起こしちまったな。じゃあ行ってくる。」と、まだ早朝の静まり返ったブルーゾーンへと消えて行ったのであった。
その夜、サイダー先生の元から帰ってきたタヌキに、カジの事を話した。
「そうか、そんなことが。まあカジ君がそう決めたのなら仕方ないことだ。我々がとやかく言えないな。」
アモンは何だかモヤモヤとした気持ちを胸にかかえていた。
急に胃酸が逆流してくるような、気持ち悪さだ。
「俺、病気かな。サイダー先生とこで診てもらおうかな。」
そう言ってタヌキを見ると、すでにガーガーと鼾を立てて眠っていた。
アモンは、ハァーと深くため息を吐いて今日も眠りにつくのであった。




