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プリズン8  作者: 田仲 真尋
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紫の住みか

アモンはジョーと共にセットの案内で紫――いわゆる模範囚たちが暮らす地区を見学に向かっていた。

その道中、アモンは気になっていたことの一つをジョーに訊ねた。


「あの、ジョーさん。ち、ちょっと訊いてもいいですか?」


「ああ。」と、ジョーは片足を引きずり歩きながら答えた。


「そ、その……足。」


「これか。これは赤のリーダーにやられたんだ。あいつには大きな恨みがある――なんてね。もう結構昔のことだから忘れたよ。」


ジョーは、はにかみながら答えたが、その奥底にある複雑な心境をアモンは読み取るこたができなかった。


しばらくすると、セットは立ち止まり、

「ようこそ我が家へ。」と、自慢気に一軒の家の前で立ち止まった。

木造の平屋である。

屋根は瓦葺きではなくブルーシートが掛けられていたがブルーゾーンに建つ家々よりかは立派な造りであった。

周囲には似たような家が数軒並んでいる。

どうやらここが……。

「セットさん、ここの呼び名ってあるの、紫の?」


「無い。俺らは組織化されている訳じゃないからな。まあ紫地区でいいんじゃね。」


かなりこじんまりした地区である。

聞いたところによると紫は、およそ二十人前後らしい。

このプリズンエイトの入り口、つまりこちらからいえば出口の一番近くに位置する。

本来、刑務官たちが行うべきであるプリズンエイト内の案内や維持、報告などを彼らや緑のツナギの人々が担っているのだという。


「ここの刑務官たちは中を巡回したりしないんですね。」


「基本的に奴らは中で何があっても入ってこねえ。たとえ殺人があってもだ。だが例外もある。それは中に銃器が持ち込まれた場合だ。もし大量に、この中に銃みたいな武器が流通してしまったら、それが自分たちに向けられる可能性がある。だから神経を尖らせているんだ。だが、それでももしプリズンエイトの中に銃器が発見された場合は武装された特殊部隊が突入してきて、武器の所持者は問答無用で――バン!だ。」


アモンは生唾をゴクッと飲み込んだ。

だが冷静に考えてみれば、この中にどうやって武器なんて持ち込まれるんだ?と、想像してみた自分が馬鹿らしく思えた。


「ここで抗争が起きようが、その辺に落ちてる木材や鉄パイプでやり合ってるうちは刑務官の出番はなーし!ってわけだ。ああ、でも監視だけはバッチリやってるから気をつけな。」


セットは上空を指した。

そこには何機かのドローンが忙しく飛び回っていた。


「まあ監視つっても殆どが赤とピンクだけどな。」


赤を監視するのは大切である。

ピンクを監視するのは、やや羨ましいと、アモンは素直にそう思った。


「俺の家でも上がるか?茶くらいなら出すぜ。」


セットの厚意に「はい」と、返事しようとしたアモンの視界に奇妙な光景が映りこんだ。


「セットさん、あれ何ですか?」


アモンが見た光景は、このプリズンエイトの中では異質であった。

何本もの気が整然と並べて生えている。

角度を変えて見てみると更に驚きであった。

木々は二列に、ずらりと並び立っている。

まるで街路樹のように人為的に並べられていた。


「あの木は桜だ。そしてあの回廊がピンクへの入り口。桜回廊への門だ。どうだ近くまで行ってみるか?」


「行けるの?」


「もちろんだ。ピンクは青には寛容だ。しかも俺が一緒なら安心安全だぜ。それに運がよけりゃ誰かと会えるかもしれないぜ。アモンはハッピーイエローを目撃した強運の男だからな。運命的な出会いが待ってるかもよ。さあ、どうする?」


セットの煽り文句にアモンは手を挙げて、

「い、いきます。行きたいです。」と答えた。

そして、そんなアモンの隣にはまたしてもジョーが静かに手を挙げていたのであった。



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