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久しぶりの連載です。
よかったら、お立ち寄りください。
長い陸路での移動を終え、彼らはボートへと乗り移った。
三人掛けの座席の真ん中に彼は腰を下ろした。
「なあ、お前名前は?」
通路側に座った若い男が、なれなれしく声をかけてきた。
「ア、アモン。」
「やっぱりそうか!お前ハーフだよな。」
若い男……といっても自分と、そう変わらない位の男は興奮したように声をあげた。
「い、いや、阿門は名字で……名前は五朗。」
「なんだよ。バリバリ日本人じゃん。あっ!俺は梶。梶次郎っていうんだ。カジでいいよ。因みに今年21だけど、お前……アモンは?」
「同じだよ。俺も今年21。」
アモンは、同い年のわりには落ち着きがない奴だなと、呆れていた。
「ちょっと君たち静かにしてくないか。」
窓際の座席に座っていたヨレヨレの、くたびれたスーツを着た小太りで頭の薄い中年男は不機嫌に言った。
「あっ!すんません。ところで、おっさん名前は?」
カジは反省するどころか、そのままの勢いで質問した。
「わ、私は田貫三朗と申します。」
「タ、タヌキ!?ってか見たまんまじゃんか、うける!」
タヌキは、また不機嫌そうな顔をしたが、慣れているのか、カジの発言を聞き流した。
「なんか皆、似た名前ですね。」
アモンは自分でも気づかないうちに、ポロっと言葉をこぼした。
しかしカジもタヌキも、あまり興味がなさそうであった。
「ところでさ。アモンは何やらかしたんだ?」
「……窃盗……。」
「なんだよ、しょぼいな。で、タヌキさんは?」
「しょぼいって。じゃあカジは何でここに?」
アモンは、少しむきになってカジに詰め寄った。
だが、カジは、
「俺?うーん……教えない。ねえねえタヌキさんは何?」
「私かい、私は――人殺しだよ。」
アモンとカジは、ばつの悪そうな顔で黙りこんだ。
そんな二人を見たタヌキは、
「冤罪だけどね。」と、ぼそりと呟いた。
船での移動は長く感じられた。
アモンたちの手には錠が掛けられている。
ふと船内を見回すと、自分たちの他に三人。
中には女の子も一人。
アモンはカジに小声で訊ねてみた。
「ここって私語厳禁じゃないんだね。警察官も何も言わないし……なんか、自由だね。」
「お前馬鹿か!?」
そう言ってカジは手首に枷られた手錠を見せた。
「よし!そろそろ到着だ。みんな降りる準備をしなさい。」
アモンたちは、ぞろぞろと船を降りた。
目の前には高く聳え建つ壁。
ここが、どこかの島だということは知っていたが、島の全容は全く分からない。
それに、この島の場所だって見当もつかない。
アモンたちは壁の手前にある三階建ての建物へと連行された。
そこで、まず書類を手渡され、中身を読むこともなく署名のみをさせられた。
「あ~あ、やっぱ坊主頭になんのかな?」
金髪の、ちょっと長い髪のカジは心から嫌そうに嘆いた。
「いいじゃないか、坊主くらい。」と、タヌキが慰めるようにカジの肩を叩いた。
「おっさんは、ハゲてるからいいけど、俺は嫌なの!」
「なんだと貴様!私のどこがハゲなんだ!」
二人のやり取りを見ていた皆の視線がタヌキの頭部に注がれていたのは、いうまでもなかった。
アモンは何故、自分がこんな所にいるのか、未だに不思議で仕方なかった。
それは自分が本当は何もやっていないからである。
――冤罪だ。
検察官からは、
「初犯なんだし、大した罪にはならないよ。でも、君がいつまでも罪を認めようとしないなら、事態は悪い方へ行くかもしれない。今のうちに認めて反省するのがベストだ。君が本当はやっていないのは、理解しているから。」と、言われアモンは渋々、罪を認めてしまった。
この場所がどういう場所かは分からない。
だがアモンは、まだそれほど深刻には事態を見ていなかった。
それをこれから、アモンは嫌という程、思い知らされるのである。
ここ最近の経済状況は、世界的に下降現象を続けていた。
もちろん日本だって、そうだ。
その影響は景気を悪化させ、さらには治安の悪化にも多大な影響をもたらした。
国内の刑務所はすでにオーバーフロー状態になっており、受刑者たちの受け入れを出来ない状況である。
政府は、ある島に目をつけた。
そして、そこに大きな監獄を築きあげた。
そこは、まともに裁判すら開かれず、ぶち込まれた老若男女、軽犯罪者、重犯罪者、そして冤罪者たちが共存する、混沌とした場所であった。