始まりの続き
「それでは気を取り直しまして、次は世界に対する日本の立ち位置の見直しのテーマに付いてお伺いしましょう」
「宇働さんはJスクエアが宇宙航空研究開発機構、通称JAXAと共同で衛星ロケットを打ち上げたのはご存知でしょうか?」
「ハイ、勿論。確か過去2年間で8機のロケットを打ち上げて、全て成功だったと記憶しております。気象部門と通信部門を強化するとの事でした」
「ええ、その通りです。確かに強化できました。只、それ以外の目的を持ったパーツも一緒に運ばせていたんです」
「なんか又怪しくなってきまようです」
「ええ、別に隠すつもりは無かったのですが、公にしたら直ぐに戦争の準備だ、何だと騒ぎ立てるお国も有りますから。正式な問い合わせがあればお答えする準備はしていたのですが、聞かれもしないのに発表する必要は無いとマザーが判断しました」
「なんかスパコンに責任転換されているようにも映るんですが、え?はい、ええ気のせいのようです。それでいったいどんなパーツを運ばせたのですか?」
「砕いていえば、日本の守り神を作る為のパーツです。2ヶ月ほど前、彼らは合体して宇宙ステーションと成り、稼働を始めました。ステレス性も有りますから誰も気付いていないでしょう。ハッブル望遠鏡にも映らないでしょうね。名称は国民の皆さんからの公募したいと考えていますので、仮の名でニフティーと呼んでいます。古代エジプトの守り神の名前から拝借しました。
ニフティーは常時日本上空の成層圏に静止しています。そこから文字通り守り神として日本を見守っている訳です。サイズは直径20m、高さ3mの円柱形です。中で5体のアンドロイドが任務に当っています。ニフティーをサイズアップしていく事も彼らの仕事の一つです」
「その守り神のニフティーは具体的にどんな事ができるのでしょう?」
「一番の特長は我社が開発したレーザー砲を搭載していることでしょうか、これは太陽光をエネルギー源としています」
「レーザーですか、なんかSFの世界です。正直言って」
「いいえ、現実です。某日、私が所有する無人島で森の中の雑木一本をピンポイントで狙い、その一本だけを消滅させると言う実験を成功させています。計30回照射実験を行い、全てがパーフェクトの結果を得ています。犯人の凶器だけ狙い撃つと言う事も可能です」
「ピンポイントで狙えると言う事は、それだけズーム機能も優れているいると言う事でしょうか?」
「ええ、その通りです。海辺で寝そべる美女のおへその形まで分かりますよ」
「別にそこで美女限定にする必要が有るのかしら?」女王様は相変わらず手厳しい。
「世界の皆さんに発表しておきます。ニフティーに攻撃を加えようとしても、お金の無駄遣いになりす。ミサイルは発射した時点で消滅する事になるでしょう。核ミサイルに至っては、発射したエリアに放射能の雨が降る事に成るでしょう。でも安心して下さい。まかり間違ってもこちらから先に攻撃する事はありません」
「今現在、日本が世界を敵に回している状況ではないと言う事で宜しいんですよね」
「さっきから言っているでしょ。守り神だって、ふりかかる火の粉を払うだけです。ちなみにニフティーには気象観測機能も、通信衛星機能も兼ね備えていますから、ヒマワリ達はお役御免です。携帯電話会社が日本中に建てた基地局もお払い箱になって行く事でしょう」
「ニフティーが日本上空を制したと言って良いんでしょうか?」
「平たく言えばそういう事です。空を制すれば、地上も海上も、ついでに海の中まで制する事が出来ます。ニフティーのレーダー機能は、それおも可能にしています。日本領海内に潜航中の潜水艦の艦長さん、速やかに出て行ってください。さもないとお仕置きです」
「ちょっと待って下さい。まさか日本の潜水艦まで攻撃するんじゃないんでしょうね」
「勿論、ちゃんと識別できますよ。それに攻撃じゃなくて、お仕置きです」
「お仕置きですか?」
「そう、例えばラップ音を大音響で鳴らすとか、逆立ちさせるとか、キリモリさせるとか、色々あるでしょ」
「え、そんな事も出来るんですか?キリモリって?」
「ええ、体操選手のウルトラ難度なみにヒネリ回す事も出来ますよ。実際、海上自衛隊の協力の基実証済です。乗組員の方々からはブーイングの嵐でしたけど・・・そこはそれ、私には神妻真白と言うアーチストの妻がいますから」
「それで、私のミニライブが実現する運びとなった訳ね。それも、事後承諾と言う形で・・・」
「なかなか、テーマの本題に入らないようなんですが」
「え、そうですね、立ち位置の話ですね。実はもう入っていると言って良いんです」
「え?どうゆう事でしょう」
「日本の立ち位置を決める前の下準備の話をしていたんです。宇働さんもお化粧する前に下地のクリームなんか塗るでしょう」
「ええ、それは勿論、お前は左官屋かってツッコミが入るくらいに丁重に・・・」
「別の例えをすれば、基礎工事を手抜きしてその上にビルを建てても砂上の楼閣と成ると言う事です。ニフティーは下地材とも言えるんです。日本は第2次大戦の敗戦以降、戦争を放棄したにもかかわらず、日本全国に米軍の基地が点在し、自衛隊はその下請けともとれる状況です。日米安全保障条約を受け入れた結果が今の日本の姿です。アメリカはアジア大陸への防波堤として日本を位置付けていると言って良いでしょう。
今の時点でニフティーの守備範囲は日本の領海内に止めていますが、アジア大陸全土にまで広げる事は充分に可能です。企業秘密なんで、今は可能ですとしか言えませんが。ただ、それが実現したらいったいどうなるでしょう?」
「いきなりクイズですか、あ、ハイ」
「別に手を上げなくてもいいんですが、せっかくなので、ハイ宇働さん」
「米軍の基地が不要になって来る」
「その通りです。さすが宇働さん」
「誰にでも分かるっつーの」これは妻のツッコミ。「なにが、さすが宇働さんよ」こっちはジェラシーだろうか?
「ニフティーがアジア大陸に睨みをきかせられるようになれば、日本に基地を置くアメリカの大義名分は消えてなくなります。アメリカの傘はもう必要が無いと言う事です。日米安保条約も右にならえです。
アメリカから真の意味での独立を果たす事が、世界に対する日本の立ち位置を決める為の下地に成ると言う事です。下地を固めてから、貿易を始めとする経済面の立ち位置を決めていく事になります。
過激な言い方をすれば、外交面を含めての戦争が始まると言いてもいいでしょう。恐らく、世界を跨ぐ戦いに成るでしょう。第3次大戦と呼ばれる事に成るかもしれません。ただし、血が流れたり、命が失われたりする事の無い戦争です」
「成る程、これが神野さんのお考えになる 世界に対する日本の立ち位置の見直しと言う事ですね。第3次世界大戦とは穏やかじゃありませんが」
「日本は世界における唯一無二の船頭に成らなければいけないんです。船頭多くして船山に上るの船頭です。今の世界は船頭が多すぎるんです。アメリカ・ロシア・・・はては中東のテロリスト達まで国を名乗り船頭に成ろうとしている。これじゃいつまで経っても紛争は無くならないし、世界平和なんて絵に描いた餅となっています。食べれる餅をつく事が出来るのは日本人だけです。その為にも日本は世界から認められるような民族になる必要がある訳です。そこで、教育の改革と言う事項が絡んできます」
でも一筋縄には行かないでしょうねと言いながら、宇働さんは期待と不安をいりまぜた眼差しを向けてくる。
「勿論、簡単に事が運ぶなんて考えてもいません。日本人の中にも世界を征服する気か、なんて言い出す人も出て来るかもしれません。近隣の国々は、さもありなんです。政府の要人がとある神社に参拝しただけで、非難声明を出してくる国々です。ヘタしたら忠告を無視してミサイルを打って来るかもしれない。これは冗談ですが・・・でも自国の上空のイニシアティブが他国に握られていると言う状況は面白くないでしょうね。逆の立場に成れば私もそう思うでしょう。何とか阻止したいと考えるのは当然の事です」
「それでも神野さんは日本が船頭にならなければ成らないとお考えなんですね」
「そうです。その通りなんですが、ここでちょっと視点を変えて地球温暖化の話をしましょう。我社が開発したDEESは今現在、日本においても供給を制限している状態ですが、いずれリミッターを外す日が遠からずやってきます。日本の次は世界です。Jスクエア社が鎖国を解く日がやって来る訳です。
DEESは皆さんもご存じの通り、CO2削減に対して絶対的アドバンテージを持っています。車や発電用に回されている化石燃料の消費を止める事ができたなら、地球温暖化問題は放っておいても解決への道を辿っていく事でしょう。18世紀後半にイギリスで始まった産業革命以降、我々は色々な恩恵を受ける事が出来るようになりましたが、他の地球上の生物達にとって、そういった人間達の進歩は、はた迷惑の一言に尽きると言っていいでしょう。勿論、何百年も同じ生活を続けている一部の人達は除きますけど・・・」
ここで僕はストローに口を付ける。話はここから佳境に入る。 「地球温暖化を止めると言う事は、世界のパワーバランスを崩すと言う事でもあります。これまで化石燃料の輸出に依存していた国々にとっては、大打撃を受ける事になります。
いずれ枯渇し、国策の転換が迫られる。その日が早まっただけだと、穿った解釈をする事も出来ますが、ハイそうですねと行かない事は宇働さんもお判りでしょう」
「はい、オイルマネーで我が世の春を満喫している人達には、到底受け入れる事が出来ない事でしょう。フェラーリの運転席で自国の将来を憂いているアラブの王子様なんて、想像する事すら出来ません。中には賢明な方もいらっしゃるでしょうけど」
「それらの国々の国民も贅沢な生活をしていると聞いています。その生活を支えていたオイルマネーを稼げなくなるとなれば大変な事です。どんな抵抗にでるのか、どんな結末になるのか、想像できなかったでしょうね、今までは」
「え、今これまではと仰いましたね。これからは可能だと?」
「ええ、マザーが混乱を最小限に抑える為の方法を導き出しています。その一部を紹介しましょう。それらの国々を緑地化し、広大な農業用地を確保すると言う事です。我社は既に、砂漠に雨を降らせる技術開発に成功しています。人間にとって大切な衣食住の中で、食を確保できれば、パワーバランスが崩れた時の摩擦を抑える事に貢献できるでしょう。
中東に限った事では有りません。世界には飢えた人々が大勢います。餓えた人々は食料を巡って争いを起こします。個人の争いが部族になり、部族の争いが国になる。絶える事のない負のスパイラルです。人間、満腹になれば無用な争いはしなくなるものです。腹が満ちたライオンは、目の前のウサギを襲わないんです。
贅沢な暮らしを送っている人は生活レベルを下げる事を嫌います。もっと、もっとと欲しがる人もいます。欲望は果てしなく続きます。富が足りなくなれば、よそから奪おうとします。民が飢えていたなら、より一層拍車がかかります。
世界で起こった戦争の多くがこのパターンに入ります。これに宗教が絡むと泥沼化します。仲間を殺されたら報復が始まります。親を殺された子供が復讐に走ります。沼はどんどん深くなっていきます」
「宗教紛争を解決する道が見えないと、サジを投げている学者もいます。この手の問題は非常に奥が深いと言えるでしょう。ジハードと呼ばれる自爆テロも後を絶たない現状です。神野さんの頭の中には具体的なビジョンが描かれていますか」
「非常に難しい。難しいけど終わらせなければならない。終わらせる為には時間がかかる。今はそれだけしか言えません。
宗教問題はデリケートです。この問題を解決するには、神の領域に入っていく必要があります。盲目的に信仰している人達と話し合うには、多くの時間とエネルギーが掛かるでしょう。その点、日本人は楽です。理由は・・・分かりますよね」
「確かに、自分の宗派を知らない若者が多いですし、中高年の人達の中にも自信満々に答えていた人は少数でした。これは以前、私がMCを担当した番組での話です」
静かだなと思ったら、妻はすーすー寝息を立てている。もう少しの辛抱が出来なかったようだ。イヨさんが毛布を掛けて出て行った後、僕は顔を近づける。セミロングの髪からシャンプーの香りがした。
「えーと、お時間も残り少なくなってしまいました。まだまだお伺いしたいのは山々なんですが、最後に憲法の改正に付いてですが」
「憲法の改正に付いては、今更改めて、お話ししなくてもいいでしょう。
ご存じの通り、日本には立法権と言う統治権が有ります。司法権、行政権と並ぶ三権の一つです。日本の政治家達は、この権利を上手に使ってこなかった歴史が有ります。
戦勝国から着せられた憲法を頑なに守ってきたと言えるのではないでしょうか?確かに憲法自体は素晴らしいものです。津々浦々まで張り巡らされた通信網、郵便網、舗装された道路、多くの学校等々、戦後の日本の復興、経済成長を支えたのは、この憲法が在ったればこそと言えるでしょう。日本人に生まれてきて良かったと、多くの人が感じる事が出来る国に成れたのも、この憲法のおかげだと言えるかもしれません。でも、時代は変わり、世界の状況も変わってきています。どんなに素晴らしい法律でも、不具合が生じれば、改正するか、新たな法律を制定する必要性が出てきます。倭国新党はその舵取りをします。あくまでも舵取りだけです」
「舵取りだけと言いますと?」
「最終的には国会投票による決定と成りますが、国を総意を決めるのは国民の皆さんに成ります。国民投票によって意見を集積し、国策を決めて行くと言う事に成ります。これまでのように、ただ単に政治家を選ぶだけの選挙じゃ有りません。直接自分達に跳ね返って来る事案も多いでしょう。少し気が早いでが、皆さん投票に参加しましょう。投票率が100%に近づいて行くにつれ、日本は成熟して行きます。未来の理想国家への階段を足並み揃えて昇って行きましょう」
「丁度、時間となってしまいました。神野さん本日は誠に有難うございました・・・」