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卑弥呼の復活  作者: 沢 真人
6/15

始まりの続き

「一日でも早くネット投票に一本化して行きたいですね。これまで選挙のたびに浪費されてきた少なくない税金の削減にもなります。又、投票を義務化する案も検討していかねば成らないでしょう。投票率が50%台なんて寒すぎです」

「義務化という事はそれに違反した場合、何らかの罰則が有るという事でしょうか?」

「罰則に関しては現時点でどうこう言っても始まりません。しかし罰則を設けなくても国民の意識は高まって行くと思いますよ。日本人は元来優秀な民族なんです。世界でも有数のね」

「日本人には男女を問わず武士道精神が宿っていると言った外国の著名人もいました。一方では車が走っていないのに、赤信号と言う理由だけで道を渡らない不思議な国民と揶揄する人もいましたが・・・」

「そうですね、赤信号で渡るのは大物お笑い芸人さん位のものでしょう。それでも一人では渡らない」

 いかん、宇働さんのヨコ道トラップに掛かってしまったようだ。根が茶目っ気たっぷりの人である。右エクボがいつも以上に凹んでいる。僕は話を立て直す。

「えーと、これからお話しするのは選挙改革のコアと成る部分です。大ナタを振るうような事になります。出血しますよ。お気を付けて」

 宇働さんのエクボが元に戻る。

「まず、これまでの選挙区制度を一旦撤廃します。一票の格差問題が裁判沙汰に成っている状況を打破する為と言う大義名分もある改革です。白紙に戻した後、10万人単位でエリアの区分けをします。

 北から順にエリア番号を振り分けます。南の沖縄には1200番台の番号が付く事になります。エリア別に選挙で選ばれた人がエリア長になり、その地区を管理していく為の権限が与えられます。ただし、オンブズマン機能を持った秘書型アンドロイドが行動を共にするのが条件です。

 運転手にも、SPにもなりますから便利ですよ。ただし、その首長に問題ありと判断したら、すぐさま解任できる権限を持たせますから悪い事は出来ません。又、何もしない無能な人も一緒のカテゴリーに入れられます。

 エリア長には特別公務員の資格が与えられます。特別と言っても首長手当がついた名誉職と言う位置付けです。任期は1年です。被選挙権はやはり25才が妥当でしょう。

 エリア的に県を跨ぐ地域も出て来るでしょう。離島みたいに10万人未満で一つのエリアと成らざるを得ない地域も有ります。そこら辺は臨機応変にとなりますね。又、従来県知事、市長、町長、村長と呼ばれていた人達は失業です。只、やる気のある人にはエリア選に出馬して行政に返り咲くと言う選択肢が残されています。地図上の県や市町村の線引きは残りますが、実質あって無いものとなって行くでしょう。エリア長は国の指導下に入って貰いますが、国からの上位下達と言う構造に成るのは極力避けたいと考えています。この制度を導入した場合、次にやって来るのが政治改革です」

「お話は選挙改革から政治改革に入る訳ですね。これから本格的に血が流れると・・・」

「そうです。流血事件です。捜査一課の腕利き達を呼んで下さい。なんて冗談の一つでも前フリにしたくなる程のハードな内容です。

 僕は一拍、間を空ける。

「衆議院も参議院も廃院にします。両院合わせて717名の議員さんがいますが、はっきり言って多すぎです。我々が目指す新政治体制においては二院制は不必要です。法案を通した後に成りますが、次回の参議院選挙に合わせて衆参同時に解散させます。参議院は全議席です。文字通りの解散です、復活総選挙は行いません。総理大臣制も廃止し、大統領制に移行させます。

 国会議員がいなくなると言うことでは有りません。新たに呼び名を変えて定数240名程の新議院を創立します。この240名の皆さんには従来の国会議員の仕事の他に、エリア長5名を束ねる仕事もやって貰います。

 この240名の中には宗教団体を母体にした政党の方たち等も含まれる筈ですから、一党独裁と言う形は避けられるでしょう。

 当然野党の方達は反対なさるでしょう。妻を独裁者呼ばわり、もとい、私達を独裁夫婦と野次る声が飛び交う光景が目に浮かぶようです。でも私達は慎始敬終の夫婦です。最後までやり遂げますよ。日本の将来の為にもね。倭国新党のメンバーには予め通達し、了解を得た上で、かん口令を敷きましたので、国民の皆さんには初耳だと思います。今度の国会でこの法案を審議させ、通過させます。今の倭国新党には充分可能な事です。新議院で過半数を獲得できた暁には、憲法改正の仕事が待っていると言う事に成るでしょう」

「70年以上続いた政治の形が変わると言う事ですね。確かに大ナタです。でもその振り降ろされるナタを止めようとする人達にはどういった対策をお考えですか」

「先程エリア選の時にお話ししたように、やる気のある人は再起をかけて出馬すればいいんです。前回落選した人達にも大いに頑張って貰いたいものです。皮肉に聞こえたら謝ります。倭国新党の党員及び予備軍の人達にはこの新議院選挙か、エリア長選挙のどちらかにエントリーするように言ってあります。どちらにエントリーするかは党員集会で決める事に成るでしょう。又、各大臣を補佐する仕事も選択肢の一つに含まれています。その人選は宇働さんにやって貰いましょうか」

「え、なんで、なんでそこで私の名前が出て来る訳ですか?冗談が過ぎます神野さん」

「ハイ、冗談です。すいません、その人選は我社のスパコンのマザーが行います。本人の了解が得られた時点で決定となる運びです」

 この男はまったく何考えてんだって顔で一瞬僕を睨み付けた後、表情を緩ませる。やっぱりナイスの人だ。

「せっかくですので、今ここで名前を決めませんか、新議院じゃピンときませんから」

「そうですね・・・現時点では捕らぬ狸の皮算用なんですけど・・・宇働さん何か案がありますか?」

「え、また私に振ります?ま、仮の名と言う事で宜しければ、神野さんと奥様に共通している文字から取って<神議院>と言うのはどうでしょう」

「神議院ですか、それって何か大そう過ぎませんか?政治を私物化していると言われそうですし」

「じゃあ、同じ発音で上と言う字を当てたらどうでしょう」

「成る程、上の字を使ってカミギインですか・・・でもそれってアメリカのパクリとか言われませんかね・・・うーん」

 後日、別の番組で、この時僕が見せた優柔不断さが可愛かったと、宇働さんは言ってたらしい。

「へー、人をたらした後は母性本能をくすぐりにきましたか」

妻の目が又厳しくなっている。

「ホントに迷ってただけなんだって、別に他意はない」

「でも結局この名前を採用しましょうと言ったのは、宇働さんへのオベンチャラかしら」

「仮で採用しますって言ってただろ、詮索のし過ぎだって」

 ムキに成って言い返しながら妻の顔を覗き見ると、いつの間にか口角が上がっていた。それもダブルで・・・

「有難うございます。仮にでも採用して頂いて本当に嬉しいです。弓子感激です」

 そう言えばフルネームは宇働弓子さんだったと思いながら、弓子感激は古すぎますよとクギをさすのは忘れない。

「先程触れました大臣の件なんですが、大臣の数はもう少し増やしたいと考えています。もっと多岐に向けての細分化が必要と考えているからです。

 又、当選回数を基準にした大臣選考も見直します。と言うか政治家から大臣は選びません。畑違いの部署の大臣になって飾りにされたり、官僚達との確執問題を起こすような大臣は要らないという事です。就任インタビューでこれから勉強しますとか言う人は、はなから論外です。

 新しい大臣は外部から官僚経験のない有識者を招聘する形になるでしょう。しがらみが無くて、経験豊富な人が対象に成ります」

「今のお話をお聞きすると大臣に成られる人は、ある程度お年を召した方々と成るのでしょうか?」

「結果的にそうなるでしょうね。マザーには莫大な量の個人情報が蓄積されています。マザーが厳選した候補者と面談し、最終的に党員投票で決定する運びになるでしょう。大臣体制が変われば次は各省庁の改革です。血の海になるやもしれませんよ」

血の海ですか、それは穏やかじゃ有りませんねと言いながら下の方で腕時計を指さす。時間は大丈夫のサインなのだろう、ADが両手で丸を作る。こちらは分かり易い。見れば宇働さんは国内メーカーの腕時計をしている。国営TVのアナウンサーは外国製は不味いのだろうか?そんなくだらない妄想は宇働さんの言葉で断ち切られる。

「私の方からご説明します。今日本には内閣府をはじめ、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、環境省、防衛省の11の省と、その下に警察庁や検察庁等の18の庁が有ります。その中の復興庁は省の方に分類されていますので、12の省と17の庁と言う事に成る訳ですが、先ずは省の方からお伺いします」

「先に根本的な事からお話しましょう。どの省庁にも共通する事ですが、官僚さんの大好物の天下り制度を全廃します。一人もれなく禁止です。今、現在天下りしている人達は早期退職して頂きます。世間常識の範囲内での退職金なら、不問に致します。不必要と判断された箱物は没収して、有意義な再利用先を捜します。

 数年間在籍しただけで退職金をウン千万と貰い、更に渡り歩くと言う慣習は、先程お話した社会主義国の崩壊の一因である、一部の人間が富に群がると言う図式に当てはまります。ガン細胞の一種ですね。ガン細胞は速やかに取り除かなくてはいけません。国病日本を一日も早く健康体にしなければならないのと言う事です」

 ガン細胞ですか・・・これは一段と手厳しいと言いつつ、TVに映らないように手であおる。クロ宇働の本領発揮である。

「警察とか自衛隊とかに限らない事ですが、ただ単に一流の大学卒で国家公務員一種試験に合格したと言うだけで、キャリアと呼ばれ昇進試験を受けることなく出世して行くと言う仕組み自体がおかしいんです。知能は高くても、使い方を間違えているトップが君臨する、粗悪な組織を生んだ事例もあるんです。

 その下に群がる人間達も、類は類を呼び、友は友を呼ぶ。と言う構造が成り立っている状況なんです。勿論中にはホントに優秀な方もいらっしゃいます。でもそいう人に限って何故だか出世競争に遅れてしまうケースが多いようです。

 警察組織のキャリアの場合、いきなり警部補からのスタートです。後はトントン拍子で上に上がっていきます。見習い期間はあっても、本当の意味での下積みを経験出来ないんです。年下の経験の少ない上司が年上のベテラン刑事に指示を出す。上手くいかないケースを避ける事は出来ないでしょう。

 不満を抱えたノンキャリアの中には裏金作りに精を出す不届き者まで出てきました。当然です。組織造りを根本的に間違っているので、上手く回って行く訳が無いんです。中には正義感にもえる優秀な刑事や警察官も大勢いらっしゃいます。今の日本の治安を支えているのはそう言った人達なんでしょう」

「確かに少し前にその手のドラマや映画が有りましたね。事件は会議室で起こっているんじゃ無い、現場で起こっているんだって、人気俳優さんが叫んでいたシーンが甦ってきました」

 結構テレビっ子なんですねと茶化すとハイTVの人間ですからと胸を張る宇働さん・・・うん。手強い。

「どの省庁においても大臣の役割が大きくなってきます。大臣は政治家から選ばないと言いましたが、実はこれが重要なんです。専念して欲しいんです。わき目もふらずにね。政治活動をする必要が無いから可能になる事です。勿論、一人で隅々まで目を光らす事は困難でしょう。この為に一人の大臣に対して三人から五人の補佐官を配置しようと考えています。それでも手が足りない様であれば、AI補佐官の登場となりますが、その辺は臨機応変と言うで・・・」

「AI補佐官と言うのはクローンイヨさんの事でしょうか?」

「基本はそうですけど、実はニュータイプが既に完成しているんです、顔やスタイルも数パターン用意してあります。今後、多岐の分野に亘って配属していく事に成るでしょう。医療や看護、介護、治安、防衛・・・エトセトラです」

「今サラリと防衛と仰いましたが、まさか、戦闘型ロボットとかじゃ無いですよね?」

「え?そうきますか。大丈夫です。いくらなんでも9条をいじって戦闘国家にしようなんて考えてもいませんよ。あくまでディフェンス用です。テロの防止がメインになります。今、テロリスト対策はハムと呼ばれる公安の人達が任務に当っていますが、いまだにスパイ天国なんて言われている始末です。

 撲滅していきますよ。テロリストだけじゃありません、日本に紛れ込んでいる各国のスパイやマフィア、果てやヤクの売人まで徹底的に。これは外国人だけに限った事では有りません。日本人を含めて、津々浦々、隅から隅まで、これまた徹底的にね。反社会的組織の方々は今から看板を下ろす準備をしておいた方がいいでしょう」

「貴方命捨てる気満々ね。こんな事言ってたら命がいくつ有っても足りないじゃない」

 妻の問い掛けには緊張感が見られない。それは・・・緊張感たっぷりに同じ内容の事を聞いてきた宇働さんへの答えを知っているからである。

「大丈夫です、バリア張りますから。マシンガンで撃たれても、プラスチック爆弾投げられても平気なヤツです。詳しい事は企業秘密なんでお教え出来ませんけど、どうしてもと言う方は国立競技場の高橋さんに聞いてみて下さい」

 えー高橋さんが知っているんですか、再インタビューが必要ですねと宇働さんは真剣な眼差し。ボケているなら大したものだ。

「とにかく、手術が必要だと言っているんです。メスを振るってウミを出し、傷口を縫い直すという作業を進めなければならないという事です。

 次に医療、看護、介護についてお話しておきましょう。この分野にもAIアンドロイドが活躍する時代がやってきます。お医者さんの絶対的人手不足、看護師達のヘビーローテーション、介護士達の労働環境等々、全て解決できます。例を挙げれば、看護師さんを9時18時の勤務体制だけにする事も可能になってきます。

 無論、万一に備えて夜勤のシフトを残したいと言う事であれば、それはやぶさかではありません。ちなみに医療部門に関してもJスクエアでは既に大手の企業と提携して専門の部門を立ち上げています。今は臨床実験の段階ですが、遠からず皆さんに新技術を提供できる日がやって来るでしょう。

 新薬の開発も同時進行中です。不老不死の薬は無理としても、老化の進行を遅らせる位の事は出来るようになると思っています。ガンの特効薬や、風邪の予防薬等、今まで世界に無かったものを作る出していく事も視野の中に入っています。

 えーとまだまだお話を掘り下げたいのは山々なんですが、2時間枠では時間が足りないようです。次のテーマに行きましょうか?」

 ADがマキのサインを送っている。

「番組の進行までお気遣い頂き有難うございます。取り敢えずマフィアや、ヤクザの皆さん、神野さんの命を狙っても無駄だと言う事ご理解いただけたでしょうか?でも神野さんバ、バリアって、何か私頭が痛くなって来ました」

 ME・TOOの一言である。おまけにヤクザとまで言っている。

「貴方達、いい勝負だわ」女王様は今のところ、10対10のドロー判定のようである。

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