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卑弥呼の復活  作者: 沢 真人
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始まりの続き

第二章 始まりの続き


 倭国新党は今回のW選挙で両院とも4分の3以上の議席を獲得し、衆参のネジレを取った。彼女が獲得した比例での票数は勿論の事、殺人的スケジュールで全国を飛び回り各候補の応援に駆け付けた彼女の効果も大きかったし、勘の良い雑誌記者が彼女の事を卑弥呼の再来と持ち上げた事で、高齢者達まで知名度を広めた事も拍車をかけた。

 絶対与党に成れば、後はマニフェストを実行に移すのみである。彼女は所信表明演説で改めて次のマニフェストの早期実現を誓った。

一、幼児教育を含めての教育制度の改革。

一、福祉制度の見直し。

一、社会主義的資本経済への移行。

一、選挙制度と政治制度の改革。

一、世界に対する日本の立ち位置の見直し。

一、これらを実行する為の憲法の改正。

 以上がマニフェストのコアである。

このコアから広がる枝葉も数多い。特に教育制度に関しては、一日も早く取り掛からなければ成らない。大人達への再教育も必要となって来るだろう。日本を変えるには日本人を変えなければならない。基本はこれなのだ。日本を変え、世界の国々を変える為の苦難の日々が始まった。彼女に掛かる負担も大きい。


 それじゃVあけ行きます。5秒前、4,3・・・

土曜8時、某国営TVのスタジオに僕は居る。2時間の枠を使って生放送すると言う。インタビュアーは看板女子アナの宇働さんである。好感が持てる人物だった。

「それでは改めてご紹介しましょう。JスクエアCEOで、倭国新党のスーパーバイザーでもあられる神野京一郎さんです」

 スタジオスタッフの間から拍手が起きる。10分程の紹介VTRが流れた後だったので<改めまして>なのだろう。

 一週間前に出演OKのメールを送ると、会社を含めてのPVを取りたいと言うので撮影を許可した。それを編集して流したのだろう。今更会社の宣伝をする必要は無い程Jスクエアは巨大になっていた。

 自社の規模は勿論の事、提携及び傘下にした企業数も数多い。だから今回のオファーに応えたのは一に二も無く妻の為である。歴史を変えようとする妻に、少なくない敵が出て来るのは避けられない事だった。

 どんな大病院でも、どんな名医でもメスを振るえば出血する。その出血量を減らす事が僕の役目の一つだった。

「神野さん、ご出演して頂き本当に有難うございます。最初のオファーから約2年、今回お受けして頂いたのはどういった理由からでしょうか?」

 澄んだ瞳を見開いて宇働さんは聞いてくる。飾りのない人だ。

「いやー三顧の礼ってやつですよ。なんせ僕はコーメイちゃんの生まれ変わりだから」

「は?コーメイちゃんって、もしかしたら諸葛孔明の事でしょうか?」

「そう、諸葛亮とも言うけどね。三顧の礼になぞらえて、あなた方のリクエストにお答えしたって訳です」

 妻もTVを見ている筈である。おふざけはこれぐらいにして置こう。

「ご存じの通り妻は日本のトップです。日々頑張っている姿は皆さんもご存じの事と思います。そんな妻との夜の営みなんかを暴露しに来ました」

いかん、いつもの癖で下ネタにまで行ってしまった。宇働さんは口をぽかんと開けている。

「冗談ですよ冗談。気にしないで続けて下さい」

「神野さん、貴方は今までマスコミ関係から逃げまくっていましたね。そんな貴方が初めてTVに出るって事で世間の注目も大変高いんです。それなのに貴方、夜の営みって、あなた・・・私はっきり言います。貴方は私のハートを掴みました。飾りの無い屈託さ。ファンになりたいくらいです」

 ナイスな人だ。

「勿論、実を言うと僕も貴方のファンだったんです。相思相愛ですね」妻の嫉妬が少し気になったが大目に見てくれるだろう。

 


 リアルタイムで見てたわよ。おかえりなさいや、御免なさいの前の妻のセリフである。 

 右の眉が少し上がっている。妻が怒っている時に見せるサインだ。番組では大事な処は充分フォローした筈だし、その前に問い詰めなければならない大事な事も有る。でも妻の先制パンチに気勢をそがれた僕は仕方なしに話を始める。その話題に触れさせないのは何か考えがあっての事だろう。


「で、どうだった?テレビ映りは良かったかい」

「相変らずのイケメンだったわよ。よ、このスケコマシ」

「スケコマシって・・・どうせならいつものように人たらしって言ってくれないかな」

「ハイハイ見事な人たらしぶりだったわよ。何が相思相愛よ」

「うん?え?もしかしてヤキモチ焼いてくれてるの?」

「嫉妬も、ヤキモチも焼いてないって。只2時間もお話していた宇働さんが少し羨ましいってだけです」

「お互い忙しいんだから仕方ないでしょ。でもそう言えば最近一緒にいる時間が減ってるよね。いいでしょう、この件に関しましては前向きに善処しましょう」

「政治的に言えば前向きに善処って言葉はあんまり当てにしないでねって意味なんですけど・・・ま、いいかやっぱりちょっぴり焼いてたのかな?よしハグ3秒で許して上げる」

 本社ビルの屋上のペントハウスの中のテラスルームで二人は向き合っている。ガラス張りのルーフから見える満天の星空が間接照明にもなっている。大事な事はまだ言い出せないでいる。


「お疲れのところ大変申し訳ありません。神野さんに対して幾つかお聞きしたい事が御座います。なにぶん初耳だったお話も御座いましたので。宜しいでしょうか」

「ハイ何なりと。ただしお手柔らかにお願いしますよ」

 妻がタブレット端末を立ち上げる。どうやら録画していたらしい。

「貴方の悪い癖で話が横道に逸れていたから少々、編集を掛けさせてもらったわよ」

「お飲み物をお持ちしました」

「あ、有難う。そこに置いといて」

 家庭用のプログラムを追加されているイヨさんが入って来て話を中断させる。オリジナルイヨちゃんでは無いが、彼女もマザーと呼ばれるスーパーコンピューターと繋がっている。家事もこなせるAIアンドロイドだ。

 オリジナルと違うところは喜怒哀楽機能が少し劣る事ぐらいか。動力は勿論小型化されたDEESだ。体温機能も付いている。ちなみにイヨさんと言う名前は卑弥呼の後継者と言われている{いよ}さんから引用している。

 グラスを合わせた後、妻は話を再開した。

「まず、ここね。再生するわよ」

「で、倭国新党のマニフェストには神野さんの思考も色濃く反映されていると考えて宜しいんですね。先ず教育改革に関しての具体的なお考えを教えて下さい」

「世の中相変わらず犯罪が無くならないですよね。刑務所も必要だし、刑事事件の裁判も無くならない」

「それは教育が悪いせいだと?」

「そう、生まれ落ちたばかりの赤ちゃんに悪人が居ますか?居ないでしょ、人格構成には周りの環境が大きく影響してきます。子供を育て上げる事が苦手な親御さんもいるでしょう。だからそういう親達も含めて教育していく必要が有る訳です。僕は3才から20才までを義務教育期間にしたいと考えています」

「3才から義務教育ですか?」

「そう三つ子の魂百までと言うでしょ、鉄は熱いうちに打てとも言う。幼児教育を変える事でその後の小学校教育も変わって行く。小学校が変われば中学、高校と連動して行く。 

 その為には新しいスタッフ育成も必要となって来ます。この手の話は長くなるので後程お話しするとして、我社のせいで出ている多くの失業者に対する救済プロゼクトの一つなのです。新しい職種を生み出せば新たな雇用が生まれる。行く行くは派遣制度も撤廃したいと考えています」

「では20才までと言うのは大学も義務教育という事でしょうか?」

「3才から9才までの6年間を小学生期間、9歳から12才までを中学生期間、13才から16才までを高校生期間、17才から20才までを大学生期間と考えています」

「えーと、ちょっと待って下さい神野さん。色々、聞きたい事がてんこ盛りなんですけど。12才から13才までの1年間と、16才から17才までの各1年間が空白になっています。これはどういった訳でしょう?」

「お気付きなられましたか、今からご説明致します。この2年間は親元を離れての合宿期間と考えています。12才からの1回目、ちなみにタイムズファーストと我々は名付けています。この1年間は国内における様々な場所での共同生活を体験させます。

 勘違いしないで欲しいのはこれは徴兵制度では無いという事です。野山を駆け回りさせたり、サバイバルキャリアを積ませたり、身を守る為の護身術(空手、柔道、剣道、合気道)の鍛錬や農業や漁業等の実地体験等もカリキュラムに入って居る物です。

 メンタル面とフィジカル面の両方を向上させます。勿論正規の授業も受けて貰います。我社のスパコンが監修したプログラムを提供します。可能な限り自炊もさせます。

 海が近くて耕作放棄地と山が有る場所に施設を建設します。日本には沢山候補地が有ります、条件が合えば無人島さえも候補に上がるでしょう」

 宇働さんの瞬きのスピードが気になったが構わず話を進める。

「16才からの2回目は海外が舞台です。この期間は1回目にも増してハードです。なんせ日本語が通じない国での合宿ですから。ここで現地の人達とのコミュニケーション科目が追加されます。日本が世界のリーダーシップを任っていく為に欠かせない授業です。一人でも多くの<世界人>を育て上げる事がこのタイムズセカンドのコアの一つです。

 そしてこの期間に各自の適性を見極めます。どうしても個人差が出て来るでしょうからね。どちらの期間も医療面のサポートは万全の体制を取ります。セカンドピリオッドに関してはセキュリティー面のサポートも必要に成って来るでしょう。これらの業務はそれぞれ医療系と戦闘系をプログラムミングされたクローンイヨさん達が担当します。その為の量産設備は既に整っています」

「イヨさん達の活躍は既に国民の多くに周知されていますが、更に活躍の場が広がるという事ですね。それでは17才から20才までの事をお聞かせ下さい」

「これからの話は私の個人的な意見として聞いて下さい。私は大学と言う教育機関を根本的に変えて行きたいと思っています。何故ならタイムズセカンドまで終えた子供達に必要なのは専門的な知識と経験です。従来の大学の様な教育機関よりも専門学校の様な教育機関の方が適していると考えています。

 学校の選択権は基本的に個人に持たせます。倍率が高くなれば当然試験形式を導入しますが、従来の筆記試験形式だけで無く、実地と面談等を含めての総合的評価が基準と成るでしょう。海外で活躍できる人材を育て上げる為の教育機関とも位置付けられます。

 ちなみに従来私立と呼ばれている学校は行く行くは国の傘下に入って貰います。新しい校舎も建設します。教育の充実が国を変えていく為の重要なファクターの一つと言うのが私達二人の共通事項です。倭国新党は実現させますよ。妻は慎始敬終な人です。私も全力でフォローします」

 はい、こことポーズボタンを押した妻は聞いてくる。

「貴方の教育理念には私も賛同しているし、今日初めて聞いた枝葉の部分に関しても納得できる。でも私はいつから{しんしけいしゅう}な女になったのかしら?」

「君は一度決めたら最後まで手を抜かずにやり遂げてきた人でしょ。だから使った。初志貫徹でも良かったんだけど」

「難しい言葉を使えば良いってもんじゃ無いのよ。視聴者には分かり易く伝えなきゃ」

 イヨさんが2本目のワインを持って来た。

この部屋を含めて屋外も360度モニターされ、全ての情報はイヨさんに集められる。この部屋だけ解除する事も出来るが、今は稼働中にしている。妻がポーズを解除した。

「それでは倭国新党とJスクエアは一心同体と言う事ですね」

「基より僕たちが夫婦と言う理由からでは無く、倭国新党は行政の核としてJスクエアは経済の核と成って日本の将来を築いて行く為の共同体と言う事です。僕の考えは妻の考えであり、妻の考えは国策に成ると言う事ですね。子供達と並行して大人達の教育にも力を入れて行かなければ成りません。現在就学中の学生さん達は最優先です」

「大変興味深いお話でした。色々お聞きしたい事が有るんですが、時間に限りが有りますので次に進ませて頂きます。ちなみに順番は和国新党が発表しているマニフェストに沿って進行していきたいと思っています。それでは福祉に関する事をお話し頂けますか」

「これはもう一つのマニフェスト・社会主義的資本経済が絡んで来る事ですが、福祉に関しての問題点はぶっちゃけお金です。国の予算が足りない事も一つの要因ですが、民間の経営者達のモラルの問題から来るサービス面の低下、スタッフ達の劣悪的就業環境、個人的経済面の理由で施設に入れない老人。

これらの問題は、ちょっと乱暴な言い方に成りますが、お金の問題は殆どの場合お金で解決出来るという事です。

 学校同様、全ての施設を国有化すればいいんです。老人達が同等の待遇を得られるように私営の施設を国営化し、同一規格にすればいいんです。足りない地域には新設出来るだけの予算を組むんです。スタッフ達はみなし公務員として国がギャラを支払うシステムにします。これは教育関係者も同様です。雇用問題の改善にも貢献出来るでしょう。ちなみにこの計画が進行すれば年金制度の横並びと言う見直しも必要となってきます」

「年金問題の話まで行きましたか。確かに老後に不安を抱えている人は大勢います。神野さんの話を聞いて希望の光が見えた方もいらっしゃるのではないでしょうか」

 宇働さんは、予備軍の一員として一日も早い実現を願っておりますと言いながらメモに目を落とす。

「それでは先程フライングされた社会主義的資本経済のお話ですが」

「フライングって、相変わらず歯に衣着せぬ人ですね。嫌味に聞こえないのは貴方の人徳の成せる技って奴でしょうか?」

「これは大変失礼致しました。お話に引き込まれてつい地が出てしまいました。それでは改めまして、え?あ、はい、あ、そっか、重ねて失礼致しました。ここで奥様でいらっしゃいます上妻真白総理のVTRを流させて頂きます。インタビューにも応じて頂いているそうです、それではご覧下さい。我々はブレイクタイムです」

 ここからである。僕が問い詰めたかった大事な事の問題のVTRだ。妻はと見ると、頬をピンクに染まらせる事だけが今の仕事と決めたようだ。

 コンサートの映像や、トーナメントで優勝した試合の映像の後、オープンカフェでのインタビュー映像が流される。

 締めの質問に子供ができた事をサラリと答えている。遅れていたから気に成っていたと言い、今日の検査で分かったと言う。妻の口角が上がっている。

 どう驚いた?真白渾身のサプライズ返しの術なのですと言いながらグラスを向けて来る。

「私達の子供は私達だけのものじゃ無いでしょ、だから先に全国放送で発表したの」

 どうやら僕は暴走列車に乗り遅れたようだ。悪びれる事を知らない妻のグラスに合わせながらそんな事を思った。

「ご懐妊の儀の行事も、サプライズに対するご意見も後回し。続き行くわよ」

 僕が問い詰めたかった大事な事は水に流れて行った。

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