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卑弥呼の復活  作者: 沢 真人
2/15

始まりの始まり

「まずは僕の事から話そうか、自己紹介も兼ねてね」

オープンカフェは12月というのに寒さは感じられない。この季節には珍しい風向きと陽だまりのせいだろう。

 

「あらためまして僕の名前は神野京一郎かみのきょういちろう。肩書はCEO、表には出てないけど実質この会社のトップ。僕が立ち上げた会社と言ってもいい。ホームページに載ってる社長は僕の叔父さん。表向きは彼が仕切ってるようにしている。

年は君より5才上の28才。君が小学校に入学した時僕は6年生って事。そしてその年の夏、僕らは出会っている。

 僕が最初に久しぶりと言ったのはそういう事。でも君にはその記憶が無いはず。それは僕が君に掛けたがおまじないが効いているって事。そして僕にはその手の才能があったって事だ。才能がじゃなくて才能もだね。

 僕は自分で言うのもなんだけど、色んな才能に恵まれてきた。人より抜きんでてね。勉強も運動も容姿も小さい頃からそうだった。君と同じようにね」

「色々お調べになっていらっしゃるみたいだけど、あなたは私をどこまでご存じなのかしら?あなたと最初に出会ったのはいつ?どこで?

 小学一年生の私は単独で行動するのは難しい年齢よ、群衆の中でなら分かるけど。でもそうするとおまじないの件で解せない状況が出てくるわね。そもそも何故私の記憶を消そうとしたの?」

 もうタメ口である。またホタル達が飛び始めている。

「一度に質問し過ぎ。シナリオありきの国会答弁じゃないんだから」

「じゃ私の事どこまで知ってるの?」

「その質問には最後にお答えするとして、いつ、どこでからについてお答えししょう。 君の町では8月の20日頃夏祭りがあるよね。当時7才になった君はご両親と一緒に花火見物に来ていたよね。そしてそこで君は10分間迷子になった。

 犯人は僕。下手したら誘拐犯になる。だからおまじないを掛けた。キスまでしちゃってたし・・・」

「記憶を消して正解だったわね。もし覚えていたら誘拐だけじゃなくて、猥褻罪まで加わっていたでしょうから。キスだけで済んだのかしら?」

「話した後のお別れのキッスだよ。それもホッペに、オメデトウって言って」

「そういう事ならそういう事にしてあげてもいいけど。オメデトウと言うのは私がその日、7才の誕生日だったからかしら?」

「そういう事。プレゼントを上げる訳にもいかなかったからだからそのポッペにチュー」

「それならお礼を言わなくちゃいけないわね,でもあなたもその頃まだ小学生でしょ、もしかして近くに住んでいたの?」

「近くに住んでいた訳では無いんだ。実は友達のお母さんにお願いして車に乗せてもらったんだ。一緒に花火見に行きましょうって言ってね。片道1時間程かけて君の住む町にやってきた。そして二人が花火に夢中になっている時、僕は君に会いに行った」 

 又ホタルの数が増えてきた。面識もない人間に合う?何故私の誕生日を知っている?たかだか12才のマセガキちゃんが?

「僕と君は本当に似てる。性格とかは別にしてね。君はこれまで何か大切な決断をしなくちゃいけなった時、迷った事はある?無いよね。有る筈が無いんだ。

 そんな時、君には心の声が聞こえてくるし、心の声に相談する事だってできた筈だから。そう僕と同じようにね。

 僕も声を聞く事ができるんだ。実際、声を聞いたのはこの時が初めてだったけど。声は言うんだ。君に会いに行けってね。7才の誕生日を祝ってあげなさいって。場所も時間も教えてくれた。でも大勢の人混みの中でどうやって探すんだろうって思っていたら、その心配はいらないと言う。

 二人は引き合う事が出来るんだって。7才になった女の子にも声が聞こえ始めるようになるんだって、だから誘拐とかじゃなくって逢い引きだよね。そいう事で、僕に罪は無い」

「貴方も心の声が聞こえるの?それも私が聞いてるのとおんなじ声が」

 それなら彼のこれまでの行動は納得が行く。いかざるを得ない。もしかして私のウイークポイントまで知っているのだろうか?それはちょっと・・・困るけど。

「残念ながら僕は君の全てを知ってる訳じゃ無い。だから今こうして君と合っている。声が言うんだ。僕にとってキーパーソンと成るべき人物が面接に来るようにするって、僕が12才の時出会った女の子だって、僕は嬉しかったよ。いつもより1時間以上早起きした位にね。自慢じゃないけど今日は上から下まで全部新品だよ。君には関係ないかも知れないけどね」

 確かに関係は無い。でも意気込みはかって上げるし、気持ちも分かる。何故だか知らないが、私も上から下までそうしていたからだ。

「私達みたいな人は他にもいるのかしら?」

「多分、いないと思う。いれば声が教えてくれている筈だから。ま、これから現れる可能性も有るかもしれないけどね。それよりお腹すいたでしょう、お食事にでも行きませか、何か食べたい物はある?」

「そうね何でもいいけど、気分はコッテリ中華系ね」

都内の一等地にあるチャイニーズレストランは値段が上等な分、コック達の腕も上等だった。

 二人は他愛もない話をしながら食事を楽しんだ。アルコールも入って私は次第に壊れていく。彼からの僕の部屋に来ないかいと言う誘いに素直に頷いている。

 私のウイークポイントはコレである。アルコールが入るとサイドブレーキが効かなくなり、フットブレーキは甘くなるなるのである。

 彼が住む部屋は都心のまだ真新しい高層マンションだった。おまけに最上階である。リビングの大きな窓の下には走る車のヘッドライトとテールランプが川の流れの様に見える。低いテーブルを挟んで二人はソファーに腰を下した。

 それから私は日付が変わるのに気づかない程に彼の話に引き込まれていった。彼の話は長期的であり、壮大だった。

 前に感じた人たらしの才能は本物のようである。彼の話に引き込まれていく自分の心を私は止める事が出来なかった。普通なら到底信じられない様な内容でも彼が話すと実現可能に思えてくる。

「それじゃ本題と行きますか」彼のこのセリフで始まった話を私は電子手帳に記録した。 

 手帳にはこう記した。

 ①彼は世界のパワーバランスを破壊する程の発明品の特許を持っている。この  開発には声の力も加わっているらしい。

 ②それはこれまでのエンジンに代わるもので、車の動力だけでなく発電も効率  よく出来るシステムで、そのプロトタイプはすでに完成している。

 ③大量生産体制の為の工場用地は既に収得済みで、近々に着工すると言う。

 ④資金面に関する点も問題無し。既に国内大手メーカー数社との提携も大詰め  に来ている。

 ⑤以上のプロジェクトを半年以内に軌道に乗せる。結果、そこから得られる利  益は天文学数字になる。

 ⑥そしてその資金を基にして政党を作り、政界に打って出る。新しい政治家を  育成し5年をめどに衆参両院での過半数を獲得し、絶対与党と成る。

 ⑦政党名は倭国新党とし、倭の国の女王、卑弥呼の継承者足る君は、被選挙権  の資格を得るのを待ってその政党のトップと成り、日本のトップと成る。

 

 パワーバランスの事も、新エンジンシステムの事も、天文学数字の事も確かに驚かされたが、そんなことはどうでも良かった。

 問題はその後である。政党?絶対与党?倭国新党?あまつさえ、卑弥呼の継承者って?

「夢物語にしては良く出来てるわ。私も一度日本のトップに立ってみたかったの」

 2本目に入った赤ワインで私は既に酔っていた。彼の話にこれ位の対応ができる程に。リトマス試験紙なみに頬の赤味も変化し始めてる頃である。

「まっ無理もないか、いきなりだしね。でもいずれ君にも解る時が来る。そしてこの話がプロローグに過ぎないって事もいずれ分かるだろう」

 同じペースで飲んでいる筈なのに彼の顔には変化が見られない。むしろ呑むほどに素面に戻って行く、そんな感じだった。

「とにかく今日はここまでにしよう。時計もテッペン回っちゃたし、疲れたでしょう、タクシー呼ぶ?それとも泊まっていくかい?

 着替えを含めて、お泊りセットは一応用意してあるけど。ただし君の趣味嗜好まで分からなかったから、無難なヤツしか用意できなっかたけど」

 無難なヤツとは下着の事だろう、はっきり言って用意が良すぎる。声の指示でも受けたのだろうか?それならそれで、受けて立つまでの事である。

「私のナイトガウンはシャネルのNO5だけよ、でもその無難なヤツは使わせて頂くわ。ベットは二つあるの?」

 今日初めてあった男(厳密に言えば二度目だが)に対してこんなセリフを吐けるのも(もしかして彼を求めている)と思うのもきっとアルコールのせいだ。 

 アルコールに責任を負わせるのは何時もの癖である。私の逃げ道は正月の都心の道路並みに空いている。

「生憎ベットは一つしか無い。僕はソファーで寝るから大丈夫」

 君はベットで、僕はソファー。よく有るシチュエーションである。ドラマのヒロインはここでどんなセリフを言うんだっけ?(じゃ先にシャワー浴びてきていい)そう、コレだ。私は思いついたセリフを口にした。

 その後の展開は、官能系のドラマのようには進まなかった。私はその気だったけど・・・結局彼は朝までソファーで寝ていた。私もベットの寝心地が良すぎたのか、肉食系のメヒョウに変身する事も無く、朝まで大人しく眠った。

 エスプレッソとクロワッサン、赤い容器のヨーグルトで朝食を済ませた私達は、彼の会社に向かうべくタクシーを呼んだ。彼は仕事に私は愛車を引き取りに。 

 入社は4月になってからと言い、その間はメールで連絡すると言う。春になるのが待ち遠しいと言いながら踵を返す彼を見送りながら、駐車場に向かった。

 愛車のスカイラインGTRは朝の光を浴びて深紅のボデイを煌かしている。

ノーマルでも充分なポテンシャルを誇るのに更なる改良とコーテイングを加え、フルエアロでドレスアップされた彼女は一晩野ざらしにされてご機嫌斜めかもしれない。名前もある。メリーさんだ。塗装屋の親父さんがその昔、CMで使われていた事を教えてくれたのでそれにした。

 メリーは私の数多い友達の中で数少ない親友の一人。スタートボタンを押すと彼女の雄たけびが聞こえてくる。機嫌はいいようだ。私が日本のトップになるんだって、どう思う?もちろんメリーは答えない。こんな時は声も相手にしてくれない。私は独り言を言うしかなかった。

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