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卑弥呼の復活  作者: 沢 真人
15/15

続きの終わり

それでは始めて下さい。お時間は90分です。よろしくお願いします。

 今日は京一郎と二人、雑誌の対談の為にゲスト二人とスタッフ達を自宅に招待している。ゲストの一人は、元国営放送のアナウンサーで、今は分かり易い解説で、様々な分野を掘り下げた冠番組を持つ、初老の男性である池中明さんと言う方だ。

 もう一人はタケコDXさんと言い、こちらも性別的に分けると男性なのだが、いわゆるオネエなので、いつもゆったりとしたワンピースをお召しになっている。100キロ超えの体躯で、歯に衣着せぬ発言で人気者になっていた。二人とも業界用語で言うところの数字を持っている人達だった。

 私はながら属なので、テレビを見ながら何かをすると言うのはしょっちゅうなので、二人の事はよく知っている。お二人とも政治的なキャパシティーも持った方たちだ。前々から一度お話をしたいと思っていたので、この企画は私にとっても渡りに船だった。

「肩書じゃなくて、名前で呼んで下さい」席に着くなり京一郎はそう言った。私達は結婚しても夫婦別姓で名乗っているので、京一郎は神野さん、私は上妻さんとなる。タケコさんは私の事は下の名前で呼ぶのかしら?

 和気あいあいの雰囲気で始まった対談は、タケコさんの爆弾発言も無く、終始穏やかな内に時間が来てしまった。タケコさんは対談開始直後から私の事を真白ちゃんと呼び、夫の事は京一郎さんと呼んでいつものタケコワールドに引きずりこんでいった。

 池中さんは流石に私達の事を苗字の方で呼ばれていたが、タケコさんにつられてか、次第にいつもの池中節が出始めた。時々、突っ込んだ質問を投げて来るのだが、その都度、タケコさんの「そんな事、記者さん達の前で言えるわけないでしょう」とのツッコミにより気勢を削がれていた。

 私は意図的に色んな質問をして、池中さんのいつもの名セリフの「いい質問ですね~」の言葉を期待したのだが、遠慮なさったのか、私の質問が悪かったのか、最後までそのセリフを投げてこられる事は無かった。

 対談の内容としては、和国新党に関する話が多く、二人ともおおむね党の事を好意的に受けとってくれており、最後にエールまで送ってくれた。

 対談が終了すると、池中さんは慌ただしく次のお仕事へと向かって行かれた。流石に数字を稼げる売れっ子さんは忙しいようだ。

 もう一人の売れっ子さんと言えば、次の仕事まで3時間ほど時間が空くと言う。せっかくなので、お茶でもしませんか?と言う京一郎の誘いに、言葉では「え~そんな~」とか言いながら満面の笑みで承諾していた。

 タケコさんは当然お茶だけでは済まないので、故郷納税局から回ってきた地方の和菓子の創作品の試食をお願いした。一通り食べ終えた後のタケコさんの感想は<どれもこれも、素晴らしく普通の味>との事だった。

 京一郎が30分ほど席を外すと言って出て行った後、タケコさんの本領発揮の時間となった。

「ところでさ~真白ちゃん、あんた一体どこであんないい男捕まえたわけ?」とまずは軽いジャブから。

「捕まえたんじゃなくて・・・引き寄せられたと言ったほうがいいかしら」

「あら、まぁ、随分と文学的な表現ね。そもそも、最初に出会ったのはいつの時なのよ」

 私は迷ったが、結局小学生の時の話は省略する事にした。本人自体がオマジナイかなんだか知らないが、記憶が無いんだから、しょうがないし、一々説明するのも面倒だった。

「就活の一環で、京一郎の会社の面接に行った時よ」

「面接って、あんた当時プロゴルファーに成るの、成らないのって、騒がれていたんじゃなかったっけ」

 そこを突いてくるとはタケコの情報量恐るべし、これ又、説明すると長くなりそうなので「腰を痛めて、やめちゃったの」と逃げをうった。

「あら~そうだったけ?」と疑いまなこのタケコさん。やはり一筋縄ではいかない人だ。

「で、面接の時に一目ぼれってわけね」と勝手に決めつけてきたので「ええ、そうよ」といなしておいたら、「やっぱり~、いい男だもんね」と納得顔。そいう事にして置こう。その方が話は脱線しない。

 その後、最初のデートはどこ?とか、キスは何回目のデートで?とか、人畜無害で、当たり障りのない女子会(?)トークみたいな時間は過ぎていった。

 かなり遅れて芸能界にデビューしたタケコさんの話には、波乱万丈の人生に裏打ちされた含蓄が感じられる。おそらく、人に言えないような経験もしてきたに違いない。それを全ての話の肥やしにしているように感じられる。

 京一郎がそろそろ戻って来そうなタイミングを見はらかってか、タケコさんが急に声のトーンを落として「あのさ、これ前からお会いできたら一度聞こうと思ってたんだけど」と尋ねてきた。

「あなた達二人が持てる力を全て悪い方に使っちゃうとさぁ・・・世界征服とかできちゃうんじゃないかしら?」

 どうやら女子会トークは終了のようだ。

「私、色んな人から話を聞いて、色んな所から情報を仕入れた上で聞いているんだけど、本当にそれは可能な事なの?」

 う~ん、と私が唸っていると京一郎が戻ってきた。タケコさんは、今、真白ちゃんに聞いていたところだけど、と前置きをして京一郎にも同じ質問をした。

 こういった話は京一郎が専門分野なので、私にとっては渡りに舟、あとは男二人に任せよう。

「ええ、やろうと思えば出来ると言えますよ。只、今直ぐと言うのは無理としても、そうゆうオペレーションのもと、予算案が可決され、国家プロジェクトとして発動させた場合、2年以内には、世界中のどの国からでも着手できるでしょうね」

 京一郎が制限を付けながらも、あっさりと肯定したので、流石のタケコさんも口をあんぐりとさせていた。

「でも、これはあくまで架空の話として言いますけど、仮にそれをやったとしても、世界征服なんて言わせませんよ」

「え~、じゃなんて呼ぶんですか?」

「世界平和統一です」

「そっか、昔話でも、立派な王様が治める国は、全ての民が平和で楽しく暮らしていましたとさってそう言う感じになる訳だ」

「ええ…まぁ、そうですね」

 少しニュアンスが違うのか、京一郎はちょっとだけシドロモドロに答えた。でも、確かに例をあげれば、戦闘物のテレビ番組では悪党が世界征服をたくらみ、正義のヒーローがそれを阻止する為に戦うと言う構図がスタンダードである。悪政で国民を苦しめている国王は悪の総帥と言えなくも無い。

 又、お互いの国をけん制する為に、地球の破滅を招きかねない核兵器を持っている事も、悪の組織のカテゴリーに分類されるのだろう。

 南米のとある国などは、麻薬の組織が国を牛耳り、政府はただ手をこまねいているだけと言う。さしずめ真っ先に退治しなければ成らないと言えるのかもしれない。又、地球温暖化対策に一向に取り組もうとしない大国の連中も、大きなカテゴリーの中では同罪と言えるのだろう。

 昔見たアニメの番組で、こう言うストーリーがあった。

 ある日突然神様がお告げをする。

「一週間後に、一万年に一度の審判の日が来る。この星に生きている皆の者の意見を聞こう。その中で一番多かった願いを一つだけ叶えてやろう。みなの者よ~く話し合うが良い」そう言って神様は去って行く。

 一周間後に再び現れた神様は、皆の意見を聞く。

 人間達は喧々諤々の意見を交わし、紆余曲折をへて、結局世界平和と言う意見に落ち着く。人間の代表者が神様に切々と訴える。

 黙って聞いていた神様はやがて、「お前達の考えはよ~く分かった。これから一時間後にお前達の願いを叶えてやろう」・・・と、そして一時間後、人間達は誰一人残らず、地球上から姿を消してしまうと言う物語である。

 神様は人間だけに意見を聞いたと言う訳では無かったと言う事である。

 それは言うまでも無く地球上の森羅万象の生き物達にとって、人間が唯一、地球に害をもたらす不要な存在と言う結論に至ったと言う事だった。


 まだ文字も持たず、やっと火を使えるようになった頃の人間達は他の生き物達と同じ速度で歩んでいた。それがいつの間にか暮らしが便利になるにつれ早足になり、産業革命が起きた後には駆け足に成ってしまっていた。

 化石燃料を浪費し、地球の温度を上げて異常気象を頻発させ、あまつさえ地下実験と称して核爆弾を爆発させるに至っては、地球の怒りをかうのは致し方ないと言えるだろう。

 人間は余程の事が無い限り、一度味わってしまった生活レヴェルを落とす事に抵抗を感じる。

今更、電気や車の無い生活なんて成り立たないところまで来てしまったとも言える。後戻りが困難なら、これから先の歩み方を変えていく事が必要に成る。次の世代の為にも、私達の世代に課せられた問題は大きい。

 どんなに節電を心がけている人も、たった100年程で地球が何十億年もかけて蓄えてきた化石燃料を使い切ろうとしているこの時代に生きている以上避けられない事なのだ。 

 対岸の火事とか、自分が生きてる内は大丈夫だとかそんな考えでいると、その内ワクチンの製造が出来ないようなウイルスが蔓延し、人類が滅亡してしまうような日が訪れないとは言い切れないのである。

 翡巫子が私達の孫を産めるような年頃になった時に安心して子育てが出来ないような世界になっていたとしたら、それは人類の敗北と言えるのかもしれない。

「そんな世界にはしないからね」私はその日の夜翡巫子を寝かせつけながらそう呟いた

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