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卑弥呼の復活  作者: 沢 真人
10/15

始まりの終わり

あたり前のことだが、流石の私達をもってしても、自然現象までコントロールする事は出来なかった。北極に近い、辛うじて人間が住めるような環境の小さい町で、私達はオーロラのウエーブが繰り広げられるのを待っているのだが、3日たってもオーロラのオの字も現れなかった。この宿も今日が最終日である。

「いい加減にしてよ」私はボヤキながら荷物をまとめる準備をしていた。

「マ~ァ、オ~」

「うん?」 

「マ~マ、オ~」「マ~マ、オ~」

「あなた!、あなたちょっと来て」

「うん?どうした」

「翡巫子が、翡巫子が今、マ~マ、オ~って」

「え、嘘だろ、まだ3ヶ月ちょいだぞ」

「でも、今確かに・・・」

「マ~マ、オ~」

「ホントだ。確かにマ~マと言ったな」

「でしょう、やっぱりこの子って、この子って・・・」

「パ~パ、オ~」

「あ~、今パパって言ったぞ」

「え~嘘でしょう、パパっても言えるの?ママだけでいいのに」

 翡巫子は盛んにマ~マ、オ~とパ~パ、オ~を繰り返していたが、単純に喜々として自分の顔を覗き込んで来る両親にしびれを切らしたのか、オ~と言った後で窓を指さした。つられてふり返った私達の目に飛び込んで来たのは一筋の光だった。

 地元の人達は後程「こんな大判振る舞いのオーロラを見るのは、生まれて初めてです。

貴方達は神のご加護を受けました。少し時間がかかりましたけど・・・」と語った。この国の言葉を理解するだけの語学力を持っていた私は、地元の言葉で「アリガトウ、ウレシイワ」と返し、「一言余計だけど」と言う言葉は、日本語でつぶやいた。

 私達の北欧の思い出は、子供の成長に一喜一憂する親ばかぶりも含めて、天体に繰り広げられたオーロラと供に、SDメモリーの残量を減らした。

 何年掛かっても良いから、いつか多くの日本人の心の中に、こんなオーロラのような輝ける日が訪れる事を私は祈った。


 翡巫子は1才の誕生日を迎えた。私達はお忍びで実家に戻り、5人だけのささやかなパーティーを開いた。勿論、私の実家である。

 京一郎は俗にいう天涯孤独の身である。幼い頃に両親と死に別れ、兄弟もいないと言う。「今までは一人ぼっちだったけど、今は真白がいるから・・・」

 何回目かのデート(富士登山がデートととらえる事を前提としての話だが)の時、山頂での京一郎のセリフである。

「一回しか言わないから」で始まった京一郎の話は「今までは一人ぼっちだったけど」に続き「僕と結婚して欲しい」の正式なプロポーズで締めくくられた。

 それ以来、身の上話が京一郎の口から語られることは無かったし、私もわざわざ、聞こうとはしなかった。でも、私の好奇心はいつでもネコを殺せるぐらいの余力を残していた。

 母と二人で洗い物をしていると、背後で気持ちよく酔っぱらった父の「そう言えば京一郎君は昔は・・・」と言う声が聞こえてきた。私は耳をそば立てる。

 「いや~お父さん、僕の過去の話なんて聞いてどうするんですか」

「ま、一人娘のダンナさんと言う事もあるけれど、個人的に男、神野京一郎にも純粋に興味があるというか・・その~」

「お父さん、もしかして、そっちの気があります?」

「何を言っとるのだ京一郎君、ワシは母さん一筋だよ。浮気もしたことが無い、ノンケの田舎親父だよ」

「ホントですか~怪しいなぁ。浮気の一つや、二つあったでしょ」

「それゃ~ワシも一応男の端くれとして、浮気の一つや二つって、こら、無いと言っとるだろ」

「ハイ、ハイお父さん、そう言う事にしときますから、まぁまぁ飲んで下さいよ。今日は翡巫子の誕生日ですよ、僕の生い立ち話なんて、場がシラケるだけですって」

「う~ん、何か誤魔化されているような気もするのだが・・」

「お父さん、しつこい男は嫌われるって、昔から相場が決まってますよ」

「そうか、嫌われちゃかなわんな。ほら、京一郎君も飲んで、飲んで」

 ネコは、どこかへ行ってしまった。今頃肉球でも舐めている事だろう。

 

 翡巫子はベビーベットで寝息を立てている。洗い物を終えた母が覗き込んで、夜泣きもしなかったのかい、この子はと感心している。

「一度だけ泣いた事ある。その時、駄目よママが眠れないでしょと言ったらそれっきり」

「へ~お前も手の掛からない子だったけど、この子はお前以上だって事ね、なんだか、いい意味で末が恐ろしいよ」

「そういう時は末が楽しみって言うんだよ。末が恐ろしいに、いい意味なんて無いの」

「いくら無学の私でもそのくらい分かってるって、楽しみを通り過ぎてるって言いたいの」

「ふ~ん、分かったわ。そう言う事にしときますか」

「そうそう、そう言う事にしときなさい、それより真白、仕事の方はどうなんだい?」

 母はB型である。お花畑を土足で踏み荒らすのは得意技だ。今も、さり気なく本領を発揮している。

「仕事ってお母さん、私が普通のOLさんじゃない事は知ってるでしょ。昨日、課長にセクハラされちゃってさ~なんて話は出来ないの。コッカキ・ミ・ツです」


 襲撃事件後、犬を散歩させていた女性はすぐさま任意同行され、取り調べを受けていた。 つい、うっかりリードを放してしまったと言い張る女性は、頑なに事件との関連性を否定していた。首輪もいつもと同じで、爆弾が仕込まれているなんて、夢にも思いませんでした。いったい誰が・・・と泣き崩れたらしい。

 そんな中、背後関係を調査していた刑事の一人が、彼女の父親の会社関係に疑問を感じ、SPを通してUSOの借用を打診してきた。

 USOとは、簡単に言えばウソ発見器である。Jスクエアが独自で開発した脳内をスキャンできる装置だ。臨床実験では既に、海馬に溜め込まれた記憶を探り出す事に成功していた。

 USOは後々、陰謀を企てている害虫達の駆除や、隠れテロリストの摘発で活躍する事になる。名付親は・・聞かなくても分かる。

 京一郎の事はさて置き、女性の方からの情報が欲しかった私は、快くそれに応じた。ここだけの話、SPにUSOの事をそれと無く仄めかすように指示を出したのは私だった。 

 一応、打診を受け、それに応じたと言う形を取らないと、後々面倒な事態が起きそうな気がしたからだ。

 USOが探り出した情報で、父親関係のバックに有力な容疑者が浮上したが、その人物が現職の大臣と知り、刑事達はたたらを踏んだ。

 内閣を改造する時、人事を一新したかったのだが、諸々の事情により、横滑りで残さざるをえなかった大臣の一人だった。

 物的証拠も無い状況では、刑事達も動きようが無い。私の、後はこちらで処理しますの言葉に、表面上は悔しがってはいたが、内心では、胸をなでおろしていたはずだった。

 京一郎の大きな声では言えない情報網もそうだが、USOも表舞台に出せる代物では無かった。口傘の無い連中が、やれ、倫理がどうだとか、プライバシーがどうだとか、色んな事を言ってくるのは目に見えている。ウソも方便ではないが、全てを白日の下にさらすと、「大人って、大人って、汚い」とか言う子供達も出て来る。それも面倒な事である。「キ・ミ・ツなの」

 そしてもう一つ、国家機密にしておかなければならない事がある。受刑者達を収容する施設の事である。

 私達に対するテロ行為は、国家に対するテロ行為である。当然、執行猶予はつかない。しかし、全員無期懲役にして、不安を閉じ込めておく事は出来ない。

 裁判所は、殺人と殺人未遂を基本的に違うと判断する。動機と行動は一緒なのに、結果の出来、不出来に左右される判決が慣例となっているからである。それはさておき、私達が括目したのは動機の方だった。

 動機が無ければ、行動は起こらない。その考えは二人とも共有していた。その動機を作らない為の教育改革であり、社会主義システムとのコラボレーションだった。

 でもこの二つは、短期間で成し遂げられるものでは無い。

 日本と言う国が生まれてから、今日に至るまでの間に降り積もったオリが人の心を腐敗させ、戦争や犯罪等に走らせてきた。今、日本にはびこる害虫達は、そういう歴史を積み重ねて生まれてきたと言えるだろう。海外からやってきた害虫達もいるが・・・

 そういった人間達は得てして他の人より強い。一流の大学を出た優秀な人間も含まれる。そういった連中をただ単に処罰するのではなく、更生させて、社会復帰させる為に考え出されたのがRPPだ。

 RPPとはリサイクルピープルプロジェクトの略だそうだ。訳せば人間再生計画と言ったところか。

 この施設は既に小笠原諸島の無人島の一つに建設されている。地上一階、地下三階、収容可能数一〇〇〇名の規模のものだ。そこで1ヶ月間収容された人間は、京一郎曰く、連続殺人犯の凶悪な犯人でも虫も殺せなくなるそうだ。どんな方法でやっているのかは<知らない方が良いと思うよ>のお言葉に素直に従った。黒いものを白くするには、それこそ大きな声では言えない事をやっているのだろう。私がそれを知る必要は無い。お天道様の下を大手を振って歩けるのようになるのなら、本人達も不満は無いだろう。

 京一郎襲撃事件の関係者達は、栄えある第1号の収監メンバーとなった。

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