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卑弥呼の復活  作者: 沢 真人
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始まりの始まり

   第一章 始まりの始まり

 

私は幼い頃から突然変異とよく言われていた。父親にも、母親にも、まず顔パーツからして二人との類似点が殆ど無かった。二人と血縁関係のある親戚の人達の中にも、私に似た人はいなかった。

 父も母も晩婚だった。若い頃、選好みし過ぎて婚期を逃したのだと言う。

お互い、しょうが無く手を打ったと言い合う似たもの夫婦である。しかし結婚写真を見る限り、選好みをしていたという事に関しては疑問が残る。

 初産が高齢出産だった母は、私を産み落とした時点で二人目を諦めざるをえなかったそうである。そんな訳で一人っ子の私は、二人のあふれるような愛情を注がれながら成長していった。東大に合格した時も、人に担がれて出場したコンテストでミスキャンパスに選ばれた時も、二人の喜び方は尋常では無かったようである。

「なんで俺たちの子がこんなにも綺麗で,可愛くて、頭まで良くて・・・」私が大学を首席で卒業した時の祝いの席で、父は感極まって号泣した。

 性格も変異な方だったと思う。私は色々な性格を使い分ける事ができた。ちいさい頃は「いい子」を演じていた。そうする事で回りの子供達とのギャップを回避していた。

「子供と言う着ぐるみを着た大人」この言葉が一番私と言う人間を表現していた。とにかく私は何をするにしても他人よりも抜きんでていた。

 運動神経も、母が勧めた習い事にしても、手抜きをしても他の子供達との差は歴然としていた。小学校の低学年の時、酔った父に担ぎだされた夏祭りののど自慢で並み居る大人達を差し置いて優勝した事もあった。

 歓喜した父の顔は今も覚えている「お前歌手になれ、歌姫に成れるぞ」と言う言葉にはうなずけなかったけど。

 私は完璧だった。それは今も変わらない。年齢を重ねるごと更に磨きがかかっていた。 

 そんな私は今、目の前の三人の男たちに対峙して面接用のパイプ椅子に腰を下ろしている。磨きこまれた窓の外には東京の空が広がっていた。

 人事担当の面接官たちはこなれた質問を投げてくる。私は彼らの質問に無難に答えていく、時が進み終了の時間が近づいて来る。

「最後に一つだけ聞かせて下さい、面接自体は終了です」

 真ん中に座っていた男が聞いてきた。私は軽くうなずいて、少し身構える。多分あの事を聞きたいのだろう、履歴書を正直に書いた事を少し後悔した。デジャヴが始まる。私は返答の準備をする。

「あなたは公務員試験の上級一種にも、司法試験にも合格されてますね。何故、うちのような会社の面接を希望されました?」

 この担当者は前に受けたマスコミ関係の担当者にも増して険しい顔で聞いてくる。額に浮かんだ三本の縦じわが<本音を言え>と言う心の叫びが聞こえてくるようだった。

 私は一旦頭を下げ、右の口角を少しだけ上げて答える。

「けっして冷かしなどではありません。御社のカリスマと呼ばれる堀沢社長の下で働かせて頂き、微力ながらも御社の発展に貢献したいと思い面接を希望させて頂きました」

「ではあなたは先程、面接を受けるのは我社が二社目とおっしゃいましたが、前社も同じような理由で受けられたのですか?」

 大きなお世話である。答える必要は感じられなかったが、ここで言葉を荒げる程私は子供では無い。プイライベートを盾にして戦っても何の得にもならない。穏便に逃げを打った方がスマートチョイスだろう。

「私、あがり症なので御社を受ける前に一度予行練習をしたいと思いました。前社の方には大変申し訳無いのですが・・・生意気な奴だと思われても致し方ありません。ただ、そこまでして御社に採用して頂きたいと言う気持ちだけは受け取って下さい」

 三馬身程差をつけて逃げ切った競走馬の心境はこんな感じなのだろうか?ドアを閉めた時、私の口角は両方とも少し多めに上がっていた。はっきり言って冷かしだった。

 卒業までの暇つぶしに三社に履歴書を送っていたのは、思いで作りの一環であり、回りの学生達と同じ思いを経験してみたっただけなのであった。そもそも私はどこかに就職して給料を貰わなければ生活できない人間では無かった。

 大学に入学してから始めた株式投資は順調に口座の残高を増やし、今ではその多くはゴールドバーに形を変えて貸金庫の中で眠っていた。

 オープンテラスでエスプレッソを飲みながら三日後の事を考えていた。三つ目の会社の事だ。正直少し迷っていた。

 ゆっくりと飲み終えたカップをソーサに戻した時、私が出した答えは(晴れたらGO)だった。

 最後に選んだ会社の規模は以前の二社に比べて遥かに小さなものであり、従業員数も少なかった。所在地は都内とはいえ、かなり郊外に有り、私は久しぶりに愛車のステアリングを握った。深紅のGTRは一路目的地に向かって駆けていく。

 三階建てのビルだった。ビルに比べて釣合いが取れないくらいに広めに作られた駐車場の片隅に車を止めた。五年前の会社創立時に建てられたのだろう、ビルはまだまだ新築の名残を残していた。

 私より幼く見える感じの良い受付の女性に来訪の意を告げると、三階の小部屋に案内された。

 お掛けになってお待ち下さいという言葉に甘えて高級そうな椅子に腰を下ろた。ひじ掛けまでついたその椅子はまるで見栄っ張りのIT関係の若いトップが好みそうなデザインをしていた。

 テーブルを挟んで、同じような椅子が色違いで置いてある。私は違和感を覚た。これまでの二社と比較するまでも無くこの会社は変わっていた。どう考えても面接会場には見えない。そもそもその言葉も当てはまらないようだ。

 私以外に面接に来ているリクルートスーツの若者たちも見当たらない。私の右の口角が自然と上がる。今日の天気に感謝した。(ドライブがてらに訪れたこの会社で最後に面白そうな思い出が作れそう。ついでにエスプレッソでも出てきたら最高なんだけど)

 ノックの後、先程の受付の女性が入室してくる。彼女が押すワゴンを見て私はますます違和感を覚える。

 白いカップの中でエスプレッソは湯気をあげ、おかわりもどうぞと言わんばかりにエスプレッソマシーンまで乗せられている。私は思わず首をかしげる。

 そして彼女が言った次の言葉で、私の頭の中で?マークが子作りの指名に燃えるオスボタルのように光り輝きながら飛び回る。

「本日の担当者であるCEOは少し遅れております。その間これをお飲みになってお待ち下さい。私はこの後、別件の仕事がありますのでお代わりはセルフでお願いします。それではこれにてアタシはドロン致します」

 ?マークのホタル達はポッカリと口を開けた私を見て、ますます激しく飛びる。

突っ込みどころ満載の受付譲が、それこそドロンするかの如く足早で出ていっ後、私は一つ深呼吸お・ち・つ・け・わたし

 CEOが担当?CEOって、もちろんその言葉の意味は知っている。

しかし、おかしい。ホームページに載っていた恰幅のいい男性には、社長と言う肩書が付いていたはずである。

 いつ変わったの?それに遅れるって?面接者が何らかのアクシデントで時間に遅れるという事はあっても、面接官がその場にいないってどういうこと?そしてエスプレッソ、お代わりはセルフ?偶然にも私も同じマシーンを持っている。

 この手の家電でこのメーカーがNO1って事も知っている。専門店並みの風味を出せるって事も知っている。でも私は面接会場に来ているはずである。受付嬢がこの後別件の仕事って、私にいちいち報告する事なの?

 アタシはドロンしますって言う言葉に関しては、もう何も思い浮かばなかった。ホタル達はそれぞれ相手を見つけたようである。ガンバレ『脱少子化』

 きっと自由な社風なのだろう。シリコンバレーのIT関連の会社はGパンでもOKと言う、この会社もそれらに倣って受付嬢がクノイチになってもOKなんだう。

 厳しい顔で写っている社長も実はツンデレで、おやじギャグ好きの愉快なオッサンかも知れない。きっとそうだ。私は自分が出した結論に口角を上げる。今回は左の方もシンクロタイムである。

 ノックと同時に開けられてドアから男が入ってきたのは1杯目のエスプレッソを飲み終わった時だった。

「やあお久しぶりです。遅れてしまって申し訳ない」男の言葉に私の頭の中で本日2回目のホタルの乱舞が始まる。数も増えているようだ。

 久しぶりと言うからには何処かで逢った事があるという事だろう。しかし私にはこの男の記憶がない。勿論話した事も、手をつないだ事も無い。ましてやその以上の関係があったとかなど考えられない。

 気の合った仲間達と朝まで飲んで記憶を飛ばした事は無い・・・と断言できないのが少し心配だが。

 でも、変なのである。目の前の男はイケメンなのだ。これ程のイケメンとならへべれけに飲んだとしても記憶に残らない事は考えにくい。でも思い出せない(きっとドッキリ系なんだ)私は取り敢えずそう結論を出した。 

 それならそうで受けて立ちましょう。なんせ自由な社風が売りなんでしょうら。大股で席に向かう男を見ながら私のプロファイリングが始まる。

 年齢は30歳前後、着ているスーツは高級だが、その下のTシャツとスニーカーにはとあるスポーツメーカーのロゴが入っている。時計も、アクセサリー関係も無し。

 服装に無頓着なB型だろうか?第一印象は性格は明るくて、どちらかと言えチャラ男系が少し入っている。大人としての威厳みたいなものは感じられなかった。ただ、どことなく、人たらしの雰囲気が感じられた。

「どうぞお掛けになって下さい」一旦腰を上げていた私に声をかける。面接が始まったようである。

 さっきのセリフはやっぱりギャグだったのだろう。ただ、私が塩対応した為ツカミとしては失敗している。それを取り戻すかのようにジャブを打ってくる。

神妻真白こうづまましろさん、あなたが弊社を希望された理由を教えて下さい」

「はい御社の将来性と自由な社風に大変魅力を感じました」

 私は無難に答える。ジャブにはジャブで、この対応でいいだろう。

相手の右口角が上がった。(よしいける次こい)私はスイッチを切り替える。エデイマーフィか、ウイルスミスモードか?チャップリンモードは今回は無し。

 それから小一時間、私は彼からの質問やボケ、時にはツッコミにも耐えた。

ドッキリの収録の尺ならならもう十分だろうと思い始めた時、突然カットの声でも掛かったかのように、彼はクルリと椅子を回して背中を向けた。(どうせならもう半回転すれば、「ハイもと通り」だったのに)そう思う私は少々、悪ノリし過ぎている。

「上妻さん」

 背中から聞こえる彼の声はこれまでと違って低いバリトンボイスだった。(お前はお笑い芸人か)私の悪ノリは止まらない。

「さっき僕が久しぶりと言ったのはギャグじゃ無いから、僕らは以前一度出会ってる。君は忘れてしまったのかな?」

 両方の口角を下げた私は最初に貰った名刺を見直してみる。やはり記憶に無い。

「やっぱり思い出せないか、おまじないがホントにきいちゃったのかな」

「おまじない?ですか、失礼ですけど私にどんなおまじないを掛けたんですか?」

 振り返った彼は私に微笑みかけながら、そっか、そうなんだとつぶやく。

「場所を変えよう 話は長くなる」私の返事を待たずに彼は立ち上がる。

「場所を変えるって・・・その前に面接は終了ですか?」

「面接?そっか面接だったね。うん終了。そして君は合格。ハイおめでとう」

 私の戸惑いは止まらない。「有難うございます。これからは御社の為に身を粉にして一生懸命頑張らせて頂きます。って訳にはいかないでしょ、ハイ合格って」

 でもノリツッコミは忘れない。少し甘いけど、そんな事よりもおまじないの件が気になる。(毒食わば皿までね)私は彼の後を付いていく事にした。悪ノリはまだ続いている。


「まずは僕の事から話そうか、自己紹介も兼ねてね」オープンカフェは12月というのに寒さは感じられない。この季節には珍しい風向きと陽だまりのせいだろう。

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