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宿場町の夜

 山道を登り、クヌギに似ているが微妙に違う木々の森を抜けて尾根に出ると、急に視界が開けて、すこし道を下ったところに町が見えた。

「あれが狼の肛門か」

 町から少し西に進むと、その先は大きな谷がぱっくりと口を開き、西への道を隔てていた。その谷の、東と西が唯一狭く窄んだその場所に、大岩の如きその砦は立っていた。

 ゴッドハードの関所……狼之肛門(ヴォルフスアナル)

「ゴッドハード……神ハードとは。いかにも争いが絶えなそうな名前だね」

「?」

 にやにやするぼくをシャロンは不思議そうに見ていた。

「なんにせよ、日暮れ前に宿場町に着けて良かったです」

「だね」

 ぼくらは馬でゆっくり尾根から下っていき、ゴッドハードの宿場町に到着した。


 町が暗く、奇妙にうらぶれて見えるのは、夕闇のせいだけではなさそうだった。夕日を背にしたその砦は、いかにも恐ろしげで、大きな不気味な影を町に落としていた。

 ぼくらは馬を預け、まずは質屋に行って、山賊どもから奪ったアクセサリーや宝石……山賊だけあって宵越しの銭は持っていなかったが、金持ちから略奪したのか、装飾品はそれなりのものを持っていて、特に首領のそれはかなりの額になった……を換金し、宿をとった。

 宿屋の台帳は、英語のような、英語でないような、よくわからないファンタジー文字で書かれていた。台帳を書いている間中、宿屋の女将はまずぼくの身体をマジマジ見て、それから股間を無遠慮にチラチラ眺めてきた。ファンタジー世界のこういう宿屋というのは風俗店的な役割も持っているから、見たことのないほど立派なぼくのトロールボディに興味津々なんだろう。ぼくはサービスで一物をテーブルのうえに

 どんっ!

 と載せ、トロールデスサイズのそれをじっくり女将に見せた後、

「おっと失礼。疲れのせいで、うっかり置いてしまったよ。重いのでね」

 おもむろにしまった。

 女将は眼を見開いて、食い入るようにその一連の動作を見ていた。

 ……ちょっとサービスが過ぎたかな? こいつは夜はちゃんと部屋の鍵を閉めとかんと、めっちゃ夜這いさわれるかもしれんなぁ!

 シャロンはその行為にはさすがに呆れて、かなりしらけた冷めたい眼でぼくを見ていた。ぼくはちょっぴり背筋がぞくぞくした。

 ……その冷たい視線、いいね!


 お金がもったいないので、部屋はひとつしかとらなかった。

 狭い個室に、ベッドはひとつしかない。

「シャロン、ベッドに寝るか?」

「いえ、わたしは椅子で」

「そうか。じゃあ、遠慮無く」

 ぼくは荷物と熊皮を脱ぐと、早速ベッドに寝転んだ。

 ふたり用のベッドも、トロールボディには一人分にしかならない。

 しばしの休憩の後、ぼくらは酒場と化した食堂でミートローフ四人前と豚肉の煮込みスープ……ルーローファンに掛かってるあれのようなもの……を食べ、ワインを軽く一樽ほど飲んだ。

 風の谷の村が異常なのかと思ったが、街道といい、ここといい、ぼくトロールの存在を気にするものはたいしておらず、せいぜい体格のいいあんちゃんぐらいの対応だった。ほかのトロールをいまのところ見掛けてはいないが、案外この世界ではトロールは慣れ親しんだ存在なのかも知れない。

 ぼくらは食べ終わると部屋に戻った。

 ぼくはベッドに寝転がると、今日までのことを回想した。

 転生して素晴らしいトロールボディを手に入れたこと。村を襲撃して村人達を死なない程度に半殺しにし、みんなの目の前でかわいい村娘を蹂躙して悔しいけど感じちゃう感じにする計画は失敗してしまったけど、山賊相手の初陣はなかなかうまくいき、トロールボディを使いこなすコツをつかんだこと。それによって村人達にタナボタ感謝されたから仕方ないから村のことは見逃してやったこと。生ぬるい村人達のトロールへの反応に落胆し、エルフの存在に歓喜したこと。村を出発しようとしたら厄介者扱いされてるシャロンビッチを案内人として押しつけられたこと。馬での心地よい疾走。清々しい旅路。

 まるで無知で無教養な暇人が、その日その日にその場しのぎでいい加減に書いているようなガバガバなファンタジー世界だけど、いまのところ、それほど悪くないような気がしていた。

 ふと見ると、シャロンが椅子にもたれて眠りについていた。よほど疲れたのだろう。薄いシーツ一枚でくうくう寝息を立てている。精力絶倫のトロールのぼくに一日ついてきたんだ。そりゃ疲れるかもな。これならぼくの魅力的なトロールボディに発情して、獣と化して逆レイプをしかけてくる心配はなさそうだ。

 ぼくは自分の熊皮を持ってきて、そっとシャロンにかけてやった。……こいつも可哀想なヤツなのかもしれない。村の恩人とはいえ、厄介払いに旅のトロールに押しつけられるとは、よっぽど普段の村での素行が糞ビッチで傍迷惑だったんだろう。

 馬とか牛とかとヤッてるかもしれないし、病気とか怖いから夜の相手はしてあげられないけれど、せめて温かくして寝るといい。ぼくは優しいトロールスマイルでそっとシャロンの頭をなでてやると、その手を酒でアルコール消毒してからベッドに戻って寝た。

 ……夜中、熊皮の獣臭とトロールスウェットが良い感じ混じり合った芳醇な香りにシャロンは相当うなされていたようだが、そのために起きるのも面倒だし、そんな義理もないので、ぼくはそのまま深い眠りについた。

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