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旅立ち……街道に出る

 翌朝、ぼくは山賊達の死体から奪った武器や道具……手斧、ショートボゥ、籠手や肩掛けの鞄など……をフル装備し、これまた山賊達から奪った馬で村を出た。

 最初は、昨日、ぼくトロールに仲間の馬を殺されたのを見ていたため、完全にブルッてしまい、旅立ちを拒否していた馬だったが、丁寧に毛並みのツヤ掛けやブラッシングをし、村人に用意させた新鮮な夏野菜のエサをやり、耳元で「言うこと聞かないと、おまえも馬刺しにして食べちゃうぞ」と優しく囁いてやると、以来、ちゃんと言うことを聞くようになった。

 やっぱり、心を尽くして相手をすれば、たとえ動物でも誠意は通じるんだね。

「お待ちくだされ!」

 いざ、風の庄と、馬の手綱に手を掛けたところで、村長が声を掛けてきた。

「人の世に不慣れな緑の肌の方には、なにかと案内が必要でしょう。……シャロン」

 見れば、旅支度をした村長の娘が、馬を連れてそこにいた。

「シャロンです」

「孫は馬の扱いも達者で、土地勘もあります。きっとなにか役に立つでしょう。緑の肌の方には余計なお世話かもしれませんが、よろしければ同行をお許し下さい」

「好きにしろ」

 もう人間の田舎娘とかどうでもいいわ。

 いまは、ぼくを待っているエルフ国のハーレムのことで頭がいっぱいだ。

「ハイヨー、シルバー!」

 ぼくは手綱を打ち鳴らし、颯爽と愛馬シルバー(黒)を走らせた。


 舗装されていない山道を、馬で駆け下りていく。

 吹き付ける風が心地よい。

 道が道なので震動がなかなかケツにくるが、このトロールの強靱無敵の足腰をすればなんということはない。

(む……)

 振り向けば、後ろにシャロンがつかず離れずでついてくる。

(たしかに、言うだけあって馬の扱いはたいしたものだな)

 というか、前世で馬に乗ったこともないぼくでも簡単に馬を操れてるし、案外、馬に乗るのって簡単なのかも知れない。ファンタジーって、そういうものなのかもしれない。

「み、緑の肌の方……!」

 なんとか併走しながら、シャロンが話しかけてくる。

「その呼び方、気に食わないな。ぼくのことは『やつぎさま』か、『先輩』か、『お兄ちゃん』か、『トロールさま』と呼べ」

「は、はい、えっと、トロールさま……!」

 意外と素直に従ってくる。

 ……つ、つまらん。もっと気持ち悪そうな顔するとか、あからさまにドン引きするとか、恐怖におののくとかさー……

「もうしばらく行くと街道に出ます。そしたら、そこからは一度、西に向かって下さい!」

「わかった」

 なんだかわからんが、とりあえず、地理的なことはシャロンに従っておいたほうがいいだろう。

 それにしても……なんなんだこいつは。

 ぼくは不審な眼をシャロンに向ける。

 シャロンは、ぼくと眼が合うと、あからさまに顔を赤らめ、顔を背けた。

 ぼくは、その反応にまた、いらついた。

 ……それが、うら若い乙女がトロールに対してする反応か?

 さっきの受け答えといい、もっとゴミを見るような、汚物を扱うような、やりたくないことをいやいややっている感じを出すのが普通なんじゃないのか? トロールだぞ?

 まるで恋する女の子のような反応じゃないか。

 ぼくは、はっとした。

 ……こいつ、もしかして。

 かなりのビッチなのかもしれない。

 ただでさえ西洋世界というのは、いやらしいことやエロいことをはじめるのが東洋と比べて早いという。そして、田舎というのは文化的水準が低く、やることもないのでヒマだから、みんな若いうちからいやらしいことやエロいことをする比率が高いという。夏祭りや花火大会や収穫祭やハロウィンやクリスマスやお正月などのたびに、出会ってエロいことやいやらしいことをしているのだ。シャロンもそういうクチなのかも知れない。

 ……言われてみれば、こいつ、出会ってからずっと、ぼくのトロールボディを熱い視線で見つめているような気がする。

 ……もしかして狙っているのかも知れない。

 この逞しく雄々しく強靱で生命力に満ち溢れたぼくトロールの身体を。村男や豚や馬や触手やスライムなんかに飽きて、初めて眼にした魅力的なトロール男性の身体に興味津々、よだれズビビッなのかもしれない。

 ……糞ビッチが。

 村娘やエルフを襲うために執念を燃やすぼくだったが、それはあくまで清純で汚れを知らない乙女が対象あり、百戦錬磨のビッチはその標的ではないのだ。

「あ、あの……トロール様……」

 おそるおそる、シャロンが話し掛けてくる。

 なんだ? いやらしい誘いかな?

 ぼくがどうやって断ろうか思案していると、

「出会った時から、ずっと聞きたかったのですが……」

「ん?」

「そ、そんなに下半身を露出させて、さ、寒くはないんですか?」

 シャロンはちらちらとぼくの股間を見ながら、顔を真っ赤にして問いかけてくる。

 ……たしかに今、というか、ずっと、ぼくは下半身丸出しだ。

 でも、それがそんな大したことだろうか?

 むしろ、トロールとしては大変自然な姿なのに。

「これがトロールの正装だから」

「そ、そうですか。大変失礼しました……」

 そういうと、シャロンはうつむいて、すこしスピードを落とした。

 ……もー、ビッチ! ひとの股間ばかり見て! いやらしい!

 ぼくは心の中で、少年漫画の、いやらしいこと毛嫌い系幼馴染みヒロイン風に、小さくシャロンを罵り、見えてきた街道を西に曲がった。

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