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饗宴……そして、エルフの庄へ

 その夜、ぼくは村人たちに盛大にもてなされた。

 村の広場は飾り立てられて、松明で明るく照らされ、並べられたテーブルには豪華なご馳走……巨大な肉や、ぼくが昼間殺した馬の馬刺し、パイやチーズ、サラダにケーキ、ワイン……うまそうな食い物がところ狭しと並べられた。

 ぼくは上座に着かされた。

 どこからともなく音楽が流れて、宴が始まる。

 村人達はぼくのところに代わる代わるやってきて、ぼくを褒め称え、トロールボディに見とれたりお触りし、酒を振る舞い、ガキどもはポーズをせがんできた。だれもが明るく嬉しく楽しそうだった。そんな風に歓待されて、悪い気はしなかったが……内心ひどく不服だった。

 ……こうじゃ、ないんだよね。

 トロールってのは、もっとこう、忌み嫌われて、気持ち悪がられて、迫害されていなければならないんだよね。それがあって、はじめてトロール側からの破壊、逆襲や、襲撃、仕返し……そういうことの、やってやった感、してやった感、くやしいけど感じちゃう感、醜く汚らしいだけど逆らえない感が生きてくる。

 しかし、村での扱いはまるで来賓……英雄扱いだった。

 ぼくは歓迎されすぎて逆に気持ち悪くなってきた。

「どうかなされましたかな?」

 苦悶の表情のぼくに、村長が問いかけてくる。

 ぼくは逆に問うた。

「なぜ、ぼくのような、緑の肌の、恐ろしい化け物をこのように丁重に扱うんだ。醜く強いものが恐ろしくはないのか?」

 村長は、胸を張っていった。

「この風の谷の村、たしかにしなびた、辺鄙な村ですが、ひとを見掛けや、肌の色などで差別する愚かなものは、だれひとりとしておりません。まして、この村の窮地を救ってくれた恩人が相手となれば、当然のことです。むしろ、いくら感謝しても感謝仕切れぬぐらいです」

 ……いや、そういう問題じゃないし、そういういい感じの話、いらないから。

 やっぱり、ファンタジーとはいえ、田舎の人間では駄目なのかも知れない。田舎の、ただの人間では、前世の現代日本の人間とたいして変わらないのかも知れない。

 ぼくは、ふと思い出した。

「……エルフ」

 そうだ。エルフがいた。耳がぴんとして、風にたなびく金髪美しく、気位が高く、気が強く、ファンタジーエロマンガにはよくよく現れる完成された幻想生物。トロールと並び、西のトロール、東のエルフと言われるくらい、欠かせない存在。

 やつらなら……ぼくの不満を解消してくれるかもしれない。

 トロール? ふん、醜い下等生物が。死になさい→くっ、このわたしがトロール如きに……→悔しい、でも身体がいうことを利かない!→ああ〜〜っ!

 ……この夢のコンボを体現して見せてくれるかも知れない。

「村長、このあたりにエルフの村はないのか?」

「エルフ? はて」

 ぼくは村長にエルフについて詳しく説明した。

 金髪であること、耳がとんがっていること、長命、森を住み処とし、弓の名手で、鉄や人工物を嫌い、気が強く、誇り高く、アナルが弱い……

 だが、村長はいまいちピンとこない感じだった。

「うーん、ちょっと、分かりかねますなぁ」

 わからない?

 もしかしてこの世界、エルフがいないのか?

 ファンタジー世界なのに……

 せっかく、トロールになれたのに……

 ぼくは絶望に目の前が真っ暗になりそうになった。

「ひょっとして、緑の肌の方が言っているのは、風の民(ウィンディアン)のことなんじゃないですかね」

 村長の隣で話を聞いていたご意見番的老人が、口を挟んできた。

「知っているのか?」

「ええ……風の民(ウィンディアン)。この大陸の先住民的な古い種族です。昔は大陸全土を住み処に静かに暮らしていましたが、東側から人間達が大挙してやってくると、そのほとんどは虐殺され、奴隷にされたり殺されたりして、次第に数を少なくしていき……いまは住み処を追われて、大陸の西の端の森に小さな庄を作って暮らしていると聞きます」

 やった、やったぞ!

 風の民(ウィンディアン)! これは良いことを聞いた!

 そうと分かれば、こんな田舎のしなびた村で、どうでもいい山賊ぶっ殺して、どうでもいい村人どもに感謝感激されてる場合じゃねぇ!

 速攻で西の森に行って、エルフを襲っていろいろ楽しんで、そこで弓のロングレンジのエルフ&棍棒のショートレンジのトロールの両方の力を受け継いだオールレンジのトロールキッズどもをたくさん作りながら英気を養い、その後、大陸支配しているつもりでいい気になってるであろう、人間の王族の姫とか姫騎士を襲わなければ! こりゃあ、大目標が出来た!

 ぼくは目の前のご馳走を口の中にほうりこめるだけほうりこんでワインで流し込み、明日に備えて、とっとと寝ることにした。これから、忙しくなるぞ!

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