VS山賊 3
首領は我が眼を眼を疑った。
……なんてこった。
今日の狙いは田舎の小集落。下調べ通り、男達も狩りに出掛け、老人と女子どもしかいないしなびた村。本当なら軽くひねって、昼過ぎには戦利品を金に換え、酒をしたたか飲んで笑ってるはずだった。いつも以上に楽な仕事。
そのはずが、どうだ。
突如として現れた緑色の皮膚の巨漢が、手製の棍棒を振り回しながら、配下を一人、また一人と打ち倒し、こちらに向かってくる。すさまじいパワー。すさまじい速度。しかもただ倒しているだけじゃない……一人目は乗っている馬ごとしばき倒し、馬共々、動かぬ肉塊に変えられた。つぎのヤツからは丁寧に、馬だけ残して馬上から吹き飛ばしていく!
飛ばされたヤツらは鮮血撒き散らしながら空を舞い、家や地面に叩きつけられ、地元のトマト祭りで投げられるトマトのように潰された。
一体全体なんだというのだ。
首領は、迫り来る緑の悪魔にハッと我に返り、慌てて手綱を繰った。惚けている場合ではない。子分達がやられている隙になんとしても逃げなければ!
だが、その時すでに、悪魔は頭と耳の後ろに迫っていた。
「おい、おまえ」
すぐ側で悪魔の声。
馬を走らせようとするが、動かない。
振り向けば、緑の悪魔は馬の腹をがっちり抱えこんで、ホールドしていた。馬のほうも、完全に抵抗するのをあきらめている。
「……はい」
首領は素直に返事した。
「その毛皮……いいな」
緑の悪魔は、首領の熊の毛皮を物欲しそうに見つめていた。
「あ、あの、良かったら」
「脱げよ」
「あ、はい……」
首領は、慌てて毛皮を脱ぎ、緑の悪魔に差し出した。
緑の悪魔は嬉しそうに熊の毛皮を身に纏う。
巨漢に真っ暗な熊の毛皮を纏い、血まみれの棍棒を手に持つその姿は、完全に森の悪魔そのものだった。
「どうだ。格好良いだろう?」
「はい、大変良くお似合いです!」
首領は揉み手で答えた。
緑の悪魔は満面の笑顔を浮かべた。
首領はほくそ笑む……命乞いのタイミングはいまだ!
「あ、あの、助け──」
「だろう? じゃあ死ね」
振り切られた棍棒が、首領の頭を打ち飛ばした。
シャロンは、唖然として、目の前の光景を見つめていた。
おそろしい山賊達を、突然現れた、悪鬼の如き強さの緑の巨漢が、みんな殴り殺してしまったのだ。これは安心していいのか、それともこの巨漢を新たなる脅威として恐れればいいのか……困惑していると、祖父が口を開いた。
「あ、あれは、『緑の肌の方』……」
「え? おじいちゃん?」
祖父は震えながらも、眼を輝かせて彼を見つめた。
「間違いない、伝説の、『緑の肌の方』じゃ……『そのもの、緑の肌をまといて、収穫の日に降り立つべし。失われた風との絆を結び、ついに人々を緑の豊穣の地に導かん』……」
小さな頃から聞いていた、この風の谷の村に伝わる歌だった。
「あの、伝説の……?」
シャロンがもう一度振り返って見ると『伝説の緑の肌の方』は、山賊の首領の首を振り回しながら、『エイドリアーン!』『ナンバーワーン!』と謎の呪文を唱えながら雄叫びを上げ、激しくドラミングしていた……