VS山賊 2
ぼくは眼に入ってくる光景に、思わず手に持つ棍棒を振り下ろし、近くの土壁を打ち砕いていた。トロールのパワーと、雨に濡れて放置され、硬くなった枯木で出来ているであろう棍棒の圧倒的威力に、土壁は音を立てて崩れ去った。
だが、それでも怒りは収まらない。
……なに、してくれてんだよ。
山賊達への激しい怒りが、緑の身体に熱をたぎらせていく。
……ぼくが、やりたかったのに。
雄叫びを上げて村人をビビらせるのも、ヒャッハーも、作物に火をかけるのも、懇願する老人をいたぶるのも(前世では高齢化社会で散々いじめられた)、強気な女子を恐れ、戦かさせるのも(前世では女性優遇社会で散々いじめられた)、怯える獲物の前であやしい踊りを踊ってさらなる恐怖のズンドコに叩き込むのも!
みんな……ぼくが一番にやりたかったのに!
それが楽しみでるんるん気分でここまでやってきたのに!
いまからやっても、なんか……模倣犯っていうか……パクリみたいじゃねえかよ! めっちゃ……めっちゃ二番煎じな感じになっちゃうじゃんかよ!
怒りに震えるぼくトロールに、山賊達が胡乱げに近づいてくる。
「なんだ、この緑色ォ!」
「カッペが! 邪魔する気かァ? 殺してやろうかァ!」
「待て、なかなか目立って格好いいかも知れん……おい、その肌、なんの染料を塗ってやがんだ? ちょっと教えてみろ」
「聞いてんのか、コラァ!」
先頭の賊がぼくの眼前に槍を突き出して威嚇してくる。
ぼくは、突き出された槍を即座に掴むと、
「あ、てめえ! ……うわっ、ウッソォ!」
腕に思い切り力を込めて槍を引き寄せ、力ずくでそいつを馬から引きずり下ろすと、そのまま槍ごと宙に放り、
ずこん!
「ぐげえっ!」
棍棒でトスバッティング感覚で打ち飛ばした。
「こいつ……ふざけやがって! 殺せっ!」
熊皮の首領の怒りの一声に、山賊達はそれぞれの武器をこちらに向けて、飛びかかってくる!
「なにが殺せ、だ……いちごショートケーキのいちごを横からさらうような真似しやがって……おまえらのほうこそ皆殺しだっ!」
ぼくは真正面に迫ったショートボゥの男の馬……ボゥは使わす、馬で踏み殺すつもりだ!……の鼻先目掛けて棍棒を思い切り振り切った! 成人トロールのパワーが何馬力に相当するか知らないが、ともかく棍棒は馬の顔面の骨を打ち砕き、勢いそのまま騎乗の男の肩も砕いて打ち落とす!
しまった……!
その時、ぼくは急に冷静になって、とんでもないことをしてしまったことに気がついた。さすがに熱くなり過ぎていた。
……たとえ山賊とはいえ、馬に罪はねえ。
殺すなら山賊だけだ。
ぼくはBe cool,Be cool....と頭の中で唱えて、肩を砕かれて落馬した男の頭をスイカの如く打ち砕いてトドメを刺し、倒れた馬に謝罪の視線を送った。
すまん、馬。
馬の耳に念仏というし、意味があるかどうかわからないけど、あとで馬刺しにして、食べて供養してやるからな!