狼之肛門 肛門拡張 1
宿場町を離れ、舗装済みなのか、自然のままでそうなのか知らないが、岩剥き出しの道を崖に向かって歩いて行く。石をひたすらに積み重ねて築かれた厳めしい城砦が、そこに鎮座していた。結構早めに宿を出たはずなのに、砦の前には既に人の列が出来ていた。
しかたなく、ぼくらはその最後尾につく。
居並ぶ人々は、みんな一様にうつむき、暗い顔をしている。
「みんな暗いな。どうしてだろう」
「それはそうですよ」
シャロンが当然とばかりに言う。
「ここの主のヴォルフガング代官は大変きまぐれで厳しいお方。機嫌をそこねたらどうなってしまうかわかりません。噂では、無礼を働いたものは谷に突き落とされたり、その場で処刑されたりしているそうで……トロールさまも、なにとぞお気を付け下さい」
「へー」
代官はどうやら、一番権力を持ってはいけないタイプの人間みたいだね。
「ところで、トロールさま」
「ん?」
おずおずと、シャロンが聞いてくる。
「あの、見たところトロール様は通行許可証などはもっていないようなんですが……どうやってここを通るつもりなんでしょうか?」
困り顔のシャロン安心させようと、ぼくは満面のトロールスマイルで応えた。
「大丈夫。話せばわかるよ!」
「え、でも……」
「話せば、わかるよ!」
「はあ……」
なにか釈然としない感じだったが、そういうものかとシャロンは納得した。
結構な早さで列は進み、日が高くなった頃、とうとうぼくらの番になった。
大門を抜け、兵士の言われるままに進む。
「次、入れ」
「失礼します」
ぼくとシャロンは砦の大広場に通された。
なんか面接みたいだな、なんて思いながら、辺りを見回す。
石造りの謁見場……そこに整然と並ぶ、二十人ほどの兵士。
その先の台座に偉そうにふんぞりかえって座る薄髭面の壮年男……こいつがおそらくヴォルフガング代官なんだろう……は、死んだ眼をした端正な薄衣の少年達に囲まれ、ワインをテイスティングしつつ、クラッカーとチーズをパクッしながらそこにいた。
「通行証を出して、名前と職業を言え。なんのためにこのゴッドハードの砦を抜けて、アルツェンダガの道を行く」
ぼくはトロールコミュ力を全開にし、トロールスマイルでハキハキと答えた。
「通行証はありません。名前は八木梢吉。職業はスーパー・トロールです。西の森の風之民に……」
「待て、なんと言った?」
耳が遠いのかな?
「名前は八木梢吉。職業はスーパー・トロールです。西の森に住んでる風之民に会うために」
「そこではない。なんだって?」
「スーパー・トロールです」
「そこでもない」
「スーパートロールは、通常のトロールとは違う伝説のトロールです」
「そこを掘り下げて聞いとらん。通行証がないだと?」
「はい」
兵士達が、一斉に槍を構える。
みな、重そうな鈍色の鎧を纏っていて、なかなか強そうだ。
「……それはここをどこか知っての狼藉か?」
「でも、風之民に会いに行かなきゃならないんです」
ヴォルフガングは呆れて言った。
「そうか。……男は殺して門前に晒せ。女は好きにしていい」
「え?」
ヴォルフガングの合図に、兵士たちがみんなしてぼくを槍で突こうとしたので、ぼくは慌ててジャンプで避け、
ガン! ガン! ガンッ! ガンッ!
槍の上を伝って、モグラ叩きの要領で棍棒を使って兵達の頭をぶっ叩いた。
あるものは首が兜ごと胴にめり込み、あるものはひしゃげ、あるものはなんとか繋がってはいたがとれそうで、あるものは完全にとれて転がった。
「いきなりなにすんだい。話を聞け」
「殺せえええええええええええ!」
代官がヒステリックに叫び、残りの兵たちも一斉にぼくに襲いかかってきた!
兵達が、槍をひたすらに繰り出してくる。
それをかわしながら……ぼくは棍棒で兵達の頭を狙う。だが、さすがに兵隊として修練を受けた連中。山賊とは違い……そう易々とは頭をブチ抜かせてはくれない。
いや、ぼくは馬鹿か。わざわざ好きこのんで面積の小さい頭部を狙うこたぁないだろ。突き出される槍を掴み、引き寄せて胴を打ち払う。
ガゴン!
いい音はするが、浅い。衝撃だけだった。内臓破壊には至らない。
……鎧相手じゃちょっと棍棒だとキツいかもしれない。
仕方ないから動きの止まったそいつを掴んでそのまま振り回し、槍を受け、他の兵達に投げつける。密集してた兵達がボーリングのピンのように吹っ飛んだ。
「うぬら、退けい!」
一際大きな鎧兵が、ぼくの前に出る。
兵達がどよめく。
「グロッケン兵長!」
「ふん、こんなミドリムシの小僧ッ子……ワシのトゲトゲ棒で一捻りだわい!」
グロッケンと呼ばれた鎧兵は、手にした鉄棍……棍棒というより金棒と言った方が近いか……地獄の鬼の獄卒の持っているようなそれをふりかざす。
「……それ、いいな」
「死して大地と還れ!」
ぼくは振り下ろされる金棒を寸でで避け、グロッケンの頭をぶっ叩いた。
木の棍棒は砕け散ってしまったが、代わりに兵長の首は兜ごとねじまがった。
「ひいいいいいいっ!」
「ば、化け物おおおおおおおおおっ!」
残りの兵達が散り散りに逃げ出す中、ぼくはグロッケン兵長の金棒をいただいた。
ちょっと素振りしただけでも、十分、それが大変いいものだというのがわかった。でも念のため、残りの兵士達と、ヴォルフガング相手に、試し振りをしておこう。




