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回想・ぼくは如何にしてビッチを嫌い、処女を愛するようになったか 2

 そのうち勤め先にも嫌がらせをされるようになった。

 最初はイタズラ電話やファックス程度だったが、そこから会社の壁への落書きや投石など、行為は次第にエスカレートしていき、ついには製品にもイタズラされて取引先にまで迷惑がかかる事態に発展し、最終的にぼくは会社をクビになってしまった。

 人事部長に自分の無実潔白をひたすら訴え、必死に抗議したが、部長は苦しげにこう言うだけだった。

「たしかにきみの言うことが本当で、きみは本当に無実かもしれない。でも、現実問題、こうやって会社や取引先に被害が出てしまっている以上……悪いけど、会社側としてはきみを処分するしかないんだよ。……昔、ノーパンしゃぶしゃぶで政治家がたくさん辞めさせられた事件があったでしょ? あれだってね、辞めさせられた議員の中には全然関係ない議員もいたんだよ。でも名前を出されてしまって、辞めざるをえない状況に立たされた……わかるかい? 社会じゃ実際はどうか、なんてことは大して問題にならないんだ。そういう因縁をつけられてしまうこと、それ自体が問題なんだよ。そういう風に出来てるんだよ。わたしもつらいんだよ」

 人間さえ使い捨ての時代。

 不況で職にあぶれた人間はたくさんいる。不安要素がある社員はクビを切ってしまっても、代わりはいくらでもいるのだった。

 悔しかったが仕方がない。ぼくはめげずに就職活動をやり直し、仕事を探したが、どこの職場へ行ってもなぜか既に悪評が伝わっており、無実を主張しても信じて貰えず、それどころか逆に厄介者扱いされて、いじめられてやめさせられることさえあった。

 あとから知ったが、同級生ビッチが所属していた売春グループは、地元の有名暴力団の下部組織で、そこら中に子飼いの連中……暴走族上がりのチンピラや半グレDQN、その田舎特有の先輩後輩つながりや、携帯やSNS、メール文化などの発達と共に昔以上に強固になったダチのダチネットワークの仲間たち……がおり、ぼくの勤めた会社にも、そういう連中の手が回っていたのだった。

 暴力団というのは金と面子が全ての連中だ。糞ビッチでも利用価値があるうちは大事な金づるであり、徹底的に大事にされる。逆に、余計のことを喋ってかれらの組織売春や薬物の流通に支障を来す可能性のあるぼくは、組織にとって邪魔な者がどうなるか、見せしめにするためのいいオモチャであり、格好の標的だった。

 いい加減に頭に来て、DQNやビッチと直接ぶつかって警察沙汰になったことも幾度かあった。イタズラや嫌がらせ、不法侵入の現場を押さえ、とっつかまえて警察に突きだしたりもしたけれど、何度突きだしても、次から次に別のDQNやビッチがやってくるのだ。彼らの世界で、なめられたり、標的にされるというのはそういうことなのだ。しまいにはおまわりさんもあきれて「あなたのほうになにか問題があるんじゃないの?」などとこっちが疑われる始末。

 いつでもだれかに監視されているような、みんなに馬鹿にされ、疑われているような、だれもかれも敵のような気持ちで過ごす毎日。そんな精神のすり減っていく日々を繰り返してるうちに……ある日、ぼくの心はいきなりぽっきりと折れてしまった。仕事探す気力も、なにをする気も失せ、ニートになって……引きこもって、ネットとゲームとオナニーと睡眠だけに明け暮れる、怠惰で無気力な日々を送っていた。相変わらず家を監視され、投石されたり、大声で野次を飛ばされることもあったが、もはや怒る気力も失せていた。

 そこから先のことは、朦朧としていて記憶がない……きっと、そのうち発狂しておかしくなるか、DQNやチンピラといざこざになって刺されるとか、糞ビッチのところに仕返しに行ってDQN仲間に返り討ちにあったりとか、なにかして……そして死んでしまったんだろう。

 そうして、今、ファンタジー世界にトロールとして蘇っている。


 ぼくは窓の外を見た。

 空が明るくなり始めている。

 白み始めた空の中、取り残された明けない夜のように、狼の砦の影が浮かんでいた。

 あれを越えた、はるか向こうの大陸の果ての森に、エルフたちが住んでいるという。

 見目美しく、聡明で、上品で、セレブで、長命で、弓の名手で、誇り高く、気は強く、アナルは弱く、処女で、淫乱……人間(ヒト)の理想を具現がした如き、幻想生物。前世でぼくを陥れた糞ビッチどもとは対極にある、新品ピカピカキラキラ処女種族。それが、ぼくのために、ハーレムを作って陵辱される日を待っている。

 ……これは、つらすぎる前世を乗り越えた、ぼくへの、神様からのご褒美なのかもしない。

 もう、前世でDQNやビッチたちにやられっぱなしだった、貧弱なぼうやのぼくとはちがう。ファンタジー世界ではたぶん最強の生物、完全無敵のトロールなのだ。全身に漲るパワー・オブ・トロールが、おまえならやれると教えてくる。もう、DQNもビッチもヤンキーもギャングもヤクザも敵じゃない。

 ……一刻も早くいかなければ!

 ぼくはシャロンを叩き起こし、女将にハンバーガー的なものとホットドッグ的なものを大量に……シャロンにもピーナッツバタートースト的なものを……作らせて朝食とし、急いで口の中にかっ込んで牛乳で流し込み、宿を出た。

 ギャルゲーヒロイン風にピーナッツバタートースト的なものを咥えたシャロンも慌ててその後に続いた。

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