目が覚めるとぼくはトロール
目を覚ますと、ぼくはトロールだった。
「な、なんてこった……」
驚愕に震える腕は丸太のように太く、てのひらは、バスケットボールを鷲づかみにするだけじゃなく、軽々握りつぶせそうな感じだ。色はめっちゃグリーン。足腰もめっちゃ丈夫。なにがあってもちっとも揺るぎそうもない。
おそらく青色の血は身体中をどくどくと巡り、筋肉はすさまじく、原始人ルックの申し分程度にまとった布の下に隠れた下半身には、エロマンガも裸足で逃げ出すほど立派なものがついている。
興奮で上がった息は、良い感じで生臭い。
ぼくは、狼狽えつつも、左右を見回す。
ここは……どこか異世界の山奥のようだ。日本ではない。植物の生態系があきらかに違う。ジャングルというほどには生い茂ってもおらず、適度に視界が開けていて、完全な未開の地でもないようだ。倒れていたところの近くには獣道でない道がある……池もあった。
ぼくは急いで池に近づき、その澄み切った水面に顔を映す。
そこに映っているのは、スキンヘッドで、愚かで好色そうな顔と、だらしなく垂れた舌……
これはあきらかに……
「や、やった! ト、トロールだ……トロール以外なにものでもない! 五反田で20代から30代のサラリーマン男性300人に聞きました・生まれ変わったらなんになりたいですか?のアンケートで、幼女、触手、スライムを抑えてダントツ一位のトロールだ!」
鳥山明がドラゴンクエストでデザインして一世を風靡し、日本のエロマンガの歴史を塗り替えた、あのトロールがそこにいた。
ぼくは歓喜の悲鳴を上げた。
思えば辛い人生だった。
生来からの気の弱さと心の優しのせいか、道を歩けばDQNやビッチに目を付けられ、目つきが悪い、喧嘩売ってるのか、ストーカーだろう、と因縁をつけられて金をたかられ、断れば暴力を振られる。学校や教室にも居場所はなく、常にいじめや迫害の的だった。
なのに……
前世の苦しみが神様に知られ、望みが叶えられたのか……ファンタジー世界のいやらしくて素敵な三大モンスター……スライム、触手、トロールのうち一つである、トロールに生まれ変われた。
神様、ありがとう。
産まれてきて良かった。人生捨てたもんじゃないね。
……いつまでも喜んでいる場合じゃない。
ぼくは溢れる涙を拭いて冷静になった。
とにかく山の中を歩き、武器になりそうな丸太を探す。
せっかくトロールになったのだから、なすべきことをなさなければ……
こうなったからには一刻も早く、お約束通りに近くの村や、エルフの街を襲って、欲望の赴くまま、好き放題、やりたい放題、非道の限りを尽くすのだ!