仮面の彼
カミルの朝は早い。
起きたらまず、本を読む。
サヤがカミルを起こしに来る時間になると、本を閉じて、寝たふりをする。
サヤが起こしにくると寝ぼけたふりをしてサヤをベッドに引き込む。
そして、抱きしめてその柔らかさを堪能する。
最近は、頬にキスをするようにした。
そして、ブルーノに邪魔をされる。
本当に邪魔な犬だ。もともと邪魔な犬だと思っていたが、人の姿になってますます邪魔になってきた、カミルは毒づく。
食卓に着くと、ブルーノに笑顔で嫌味を言われるカミルは新聞を見ながら、聞き流す。
サヤに連れられてきたアルフォンスとエアハルトを横目でみるカミル。
なよなよ王子と口うるさいガキも邪魔だ、と毒づくカミル。
サヤの作った食事を味わいながら黙々と食べる。
患者を診察室に案内するサヤは身体のラインに沿った白いワンピースを着ている。
これじゃないと、気合が入らないのだとか。
カミルはこのワンピースを気に入っている。
サヤが屈んだりした際に、パンツが微かに透けるからだ。
カミルだって男だ。
見てしまうんだからしょうがない。
目の保養だ。
しかし、仮面はなんて便利だったのか、と今になってカミルは思う。
仮面をつけていた際は、どんなに無遠慮にサヤをマジマジみても、ばれなかったのだ。
カミルがまだ仮面をつけていた頃、サヤと出会った時のことを思い出す。
村に診療所を作ったのはいいものの、コミュニケーション能力が低い、そして仮面をつけているカミルは村に馴染むことが出来なかった。
しょうがないから医師をしているカミルは特に気にすることもなかったが、商売にならないのだから困る。
しかし、ある時、村人が診療所に駆け込んできた。
怪我人が出たようだった。
必要な物を箱にいれて、その場に向かうと大きな犬が、血だらけの女性を背中に乗せていた。村人はどうしたらいいのか分からずに、遠巻きで見ている。
カミルは駆け寄り、犬から女性を降ろす。女性は生きているようだ。多く出血している部位を確認して、止血をする。
さらなる処置をするために、抱いて診療所まで運ぶ。
処置室まで入ろうとする犬を制止して、女性の服を脱がして処置を施す。
野犬に噛まれたのか、傷はたくさん体にあり腕からの出血は多かったが、大きな動脈を損傷していたり、頭部を怪我しているような様子はなかった。
とりあえず傷を洗浄して、抗菌薬を塗り包帯をする。そして造血剤を点滴した。彼女の意識が覚めるのを待つ。
半日くらい経ち、彼女が目を覚ました。
彼女は知らない言語でカミルに話しかけた。
流れ者、だ。
カミルは噂で聞いたことがあった。どこかの国が定期的に異世界から女性を召喚しているのだという。そして、定期的に召喚の失敗をするとも。失敗したら、女性は他の国に召喚されてしまうらしい。女性はなんとも不思議な言語を話すという。そういう女性は流れ者と呼ばれた。カミルは会ったことはなかった。
カミルは、昔、念のために作っておいた魔法石を使い、彼女に共通言語の魔法をかけた。
魔力がなくても、魔法石を使えば魔法は、使えるのだ。あまりに効率が悪いためにする人物はあまりいないが。
言葉がしゃべれるようになった彼女はみるみる回復していった。
そして、彼女の知識にカミルは驚くこととなる。
彼女は看護師であったのだが(看護師の職種はカミルの国にもある)、医療が発展していた世界にいたことがわかった。
彼女の知識は、カミルの向上心を刺激させて、医師として、さらに医療を深めるようになった。
そして、彼女の人当たりの良さ。
寄り付かなかった村人が診療所に来るようになり、カミルも医師として信頼されるようになる。
村人に信頼されて医師として自分を高めていくことが出来てきたカミルは、魔法使いである時よりも充実した生活となった。
そして、魔力がないただの人となったカミルを、医師として頼る村人が愛しく思えるようになってきた。
そのきっかけとなったサヤは、とてつもなく愛しい人となってしまった。
サヤと自分が暮らす毎日は。
まるで夫婦のようで、嬉しかった。
サヤが子供を拾ってきたときも、まるで自分達の子供のような錯覚に陥った。
サヤと子供と犬と患者と。
なかなか幸せではないか?とカミルが実感した時。
カミルの仮面がとれた。
そして、ライバルが3人増えた。
サヤに大人の包容力をアピールしたかったので、診療所にいることを許してしまったが。
サヤが作った夕食にありつく邪魔な3人を見渡してカミルは、また毒づく。
さっさと出て行け。