イワクツキ共との生活
「なるほど・・・。皆さん、大変な目にあってきたのですね。事情を知らなくて普通に接してしまって・・・すみませんでした」
サヤが眉を下げて言う。
「そんなっ!謝らなくていいです・・・。僕はサヤさんに本当にお世話になったのですから」
白い頬をピンクに染めてアルフォンスが言う。
「そんな、当たり前の事をしただけです。それで・・・皆さんは今後はどうされるんですか?」
沈黙になるが、1番にカミルが口を開いた。
「王都に俺の居場所はないと思っている。俺は必要とされているこの村に医師としてずっといる予定だ」
「本当ですか!?よかったぁ・・・。私事ですが、先生程素敵な医師に出会ったことがないので、よければ先生のそばで働かせてもらいたかったんです・・・」
微笑んで言うサヤから目をそらして何も言わないカミル。サヤはこの態度をよくされるので気にしていない。
「ナナシ・・・アルフォンス君はいるにしても、ええとポチ・・・ブルーノさんと、サミャ・・・エアハルト君はどうするんですか?」
「なっ!なんで王子はよくて、俺はいたらダメなんだ!」
「私もサヤのそばにいたらダメなのかい?」
怒ったような表情をするエアハルトと悲しげな表情をつくるブルーノ。
「だって・・・アルフォンス君は寝たきりだったから、まだベッドから動けない状態でしょ?これからリハビリとかしないとだから・・・。けど、二人は戻らないといけなかったりするのかなぁって思って」
「俺にあそこに居場所なんてない!ここにいる」
「私も王都はトラウマで・・・出来ればここにいさせてもらいたい」
決定権はカミルにある。
「・・・好きにしろ。ただし、いつまでもいさせない。仕事を見つけたらさっさと出ろ」
無表情でいうカミル。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
と丁寧にアルフォンス。
「言われなくても!」
と仏頂面のエアハルト。
「わかってるよ。私が出て行く時はサヤも一緒かもしれないけど」
と笑顔のブルーノ。
こうしてサヤと4人のイワクツキ共の生活が新たに始まった。
診療所に入院患者はいないので、それぞれ一人部屋となった。
※ ※ ※
サヤの朝は早い。
まず起きたら、ベッドに入り込んでいるエアハルトを体から引き離して毛布をかけてあげる。エアハルトは子供だった頃の癖なのかこうやってよく勝手に部屋に来てベッドに入り込む。
そして、サヤは、静かに寝ているアルフォンスの様子を伺いにいく。呼吸を確認して、毛布を肩までかけてあげて部屋から出る。
洗濯するために庭に出ると、筋トレをしていたブルーノがサヤに近づく。
「おはよう、サヤ。今日もかわいいね」
「うふふ、おはよう。ブルーノ、朝から鍛えてるなんて、偉いわね」
ブルーノの堅い茶髪をわしゃわしゃと撫でる。ポチの時の癖が出てしまった。
しかし、ブルーノが嬉しそうにしたのでサヤは気にしなかった。
ブルーノが洗濯物を干すのを手伝ってくれてお礼を言って離れる。
朝食を準備したら、カミルを起こしにいく。
「先生、先生、朝ですよ。キャッ」
カミルにベッドに引っ張り込まれる。前は時々だったが、最近は何故か頻度が高くなっている。
頬にキスされたサヤの小さい叫び声で、ブルーノが駆けつけてくれて救出してくれる。
アルフォンスの部屋に行くと今度は起きていた。
「おはようございます、サヤさん」
「おはよう、アルフォンス君」
頬をピンクに染めてサヤを見るアルフォンスに熱はないか、額を触って確認するが大丈夫なようだ。
朝食のため、車椅子に移動させる。
その際は、アルフォンスは下肢の筋力が弱いので、サヤの首にアルフォンスの腕を回してもらい、立ってから車椅子に移動する。
この移動をするたびアルフォンスは顔をますます赤くする。
食卓までアルフォンスを車椅子で移動させる。
次にサヤの部屋で寝ているエアハルトを起こしにいく。
毛布を蹴飛ばしてお腹を出して寝ているエアハルトを起こすと、寝ぼけまなこでサヤを見る。
「さや だっこ」
前みたいに抱っこはできないから、サヤはエアハルトの髪を撫でて体を起こして起きあがらせて手を引っ張る。
食卓には全員着席しており、エアハルトとサヤが加わることで朝食がはじまる。