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ようこそ診療所へ

気がついたら、森にいた。


気がついたら、犬みたいなものに囲まれていた。


気がついたら、全身に噛みつかれて血が出てた。


気がついたら、ベッドの中に全身に包帯を巻かれていた。





「先生、ナナシ君の血圧は変わりないのですが、脈がいつもより早いです」


「とりあえず様子見とけ、後で診察する」


「お願いします」


サヤ25歳。気がついたら、この世界にいて、すでに一年たちます。怪我をしていたところを発見した犬が、私を診療所に連れて行ってくれました。


診療所の先生の治療により、一命を取り留めました。それからは回復をしていき、住む場所に困った私。先生に頼み込んで、診療所に住み込みで働かせてもらっています。看護師をしていた為に、仕事はこなせています。


小さい村の診療所なので中々平和な生活をしています。村人も基本は健康であるために、診療所には一応入院はできるのですが今一人しか入院していません。

その一人とはナナシ君です。

何故、ナナシなのか?それは名前がわからないからです。私が診療所で働き始めてから半年たった時。森で倒れていた、と村人が診療所に連れてきました。彼は、大体18〜25歳くらいの青年でした。意識がなかなか戻りません。先生が診察しても、異常は見当たらない、とのこと。私が思いつく限りの病気に当てはめようとしても、そのいくつかの病気を調べる手だてはこの世界にないのです。いつか、意識が戻ることを祈って、村長とも相談して診療所でお世話することが決定しました。

金髪で色白、手足がすごく長いナナシ君の世話は私がしています。鼻からチューブをいれて栄養を補給したり、体を拭いたり、時には体をお湯に入れたり、オムツをかえてたり。

いい夢を見ているのか、お湯や体拭きが気持ちいいのか、よくわからないですが、時折優しく笑ってくれるのが私も大変嬉しいです。




診療所には、先生、私、ナナシ君が同居しているよう感じです。あ、もう一匹、ポチがいました。ポチは私が血だらけで倒れていたところを発見して診療所まで運んでくれた命の恩人ーー、いえ、恩犬です。

どこの犬かはわかりませんが、診療所に居ついてしまい、必然的に飼っています。

ポチは大型犬です。シェパードをさらに大きくしたような利発そうな見た目をしてます。実際、人の言葉がわかっているような、そんな動作をする利口な犬です。懐いてくれてて、私についてまわります。全身茶色の毛並みは私が定期的にブラッシングしてあげています。


先生の紹介もついでにしましょう。

先生はなにかよくわかりませんが、仮面をつけてます。一緒に暮らしているのに仮面をとったことを見たことがないです。まさにミステリアス。基本無口ですが、本当はすごく優しいことを知っています。医師としても、当然素晴らしくて、こんな見なりでも私はもちろん村人からも信頼を寄せられています。

仮面をしているから顔はよくわかりませんが、180cmを越えるだろう高身長と細身のスタイル、黒髪の直毛がサラサラしていて何となくイケメンな雰囲気が漂っています。



さて、診察室に人はこなさそうなので私はナナシ君の病室にいきます。

ちなみにポチは診察室と病室は、不衛生になってはいけないので入室は禁止しています。それ以外は自由にさせていて、基本私について周ります。




「ナナシ君、今日は暇だからお湯に入ろうね。あれ?顔赤い。脈拍も早いから熱があるのかなぁ?熱測るね」


36℃。


「あれ、平熱だわ。なんでだろう。とりあえず、お湯準備してお風呂入りましょう」


ナナシ君のベッドの横に持ち運び可能な簡易浴槽にお湯を入れたら、先生を呼びます。


「先生ー。ナナシ君大丈夫そうだからお風呂入れます。移動手伝ってくださいなー」


先生が音もなく病室にきて、ベッドから簡易浴槽までナナシ君の移動を手伝ってくれます。


「先生、ありがとうございます。また終わったら呼びますね」


先生は自分の書斎に戻っていきます。


「さてさて、風邪ひかないようにちゃちゃっとするね」


髪の毛を洗って顔を洗います。


「いつも言っちゃうけど、ナナシ君もかっこいいねぇ。あなたが目を覚ましたら、村中の女の子を虜にしそうだわ」


上半身、下半身と洗い、最後に泡を掛け湯で流します。ナナシ君の表情をみると口が少し笑っています。


「あら。気持ち良いのかしら。良かったねぇ。さてさて、移動しようかしら。先生ー。お願いします」


ベッドにバスタオルを敷いてあるので、濡れたまま移動してベッドで拭きます。


拭いたら、新しいパジャマを着せます。


「はい、お疲れさま。洗濯してこようっと」


シーツ交換もしていたので、古いシーツと着ていたパジャマを洗いに病室から離れます。

病室から出たら外で待っていたポチがいるので頭を撫でたら、しっぽをすごい勢いで振るのが可愛くて笑ってしまいました。

さて、庭で洗濯するために移動します。ポチも私の後を追います。



書斎の前で、勉強なのか本を読んでいる先生に洗濯しにいくことを言い、庭に行きます。



鼻歌を歌いながら洗濯物をして干し終わると、泣き声が聞こえます。

庭から出て泣き声がするところを探します。診療所から少し離れた林から、聞こえるようでした。

声がするほうに近づくと、木の根元に裸の子供がいました。

1歳くらいでしょうか。

まるで木の妖精みたいです。


その子を抱き上げて「よちよち」と体を揺らしてあやします。ちなみに私は小児科で働いていたこともあるので、こういうことはお手の物です。


あやしていると、子供は泣き疲れたのか寝ちゃいました。さて、どうしましょう。


「ポチ、この林にこの子の親はいそう?」


そう聞くと、ポチは鼻をクンクンと鳴らし地面の匂いを嗅ぎながら、私たちのそばから離れました。数分後に戻ってくると首を横に振ります。どうやら、この林にこの子の保護者はいないようでした。


とりあえず、診療所につれていくことにしました。



「ということなんです。先生どうしましょう」


私が困った顔で言うと、先生はため息をついてどこかに行ってしまいました。


先生の帰りを待ちながら、その子を診察室にあるベビーベッドにのせて、ナナシ君の様子を見に行きます。お風呂が気持ち良かったのか、ナナシ君は幸せそうに寝ています。


また、診察室に戻り、洗って乾いた包帯をクルクルと巻く作業をしていました。


そうしていたら、先生が役所の男性を連れて来ました。


「この子ですか?いやぁー見ない子だなぁ。一応、役所で1歳前後の子供の戸籍登録を確認したんだけど、いなかったんだ。内緒で産んだりしようとしても、この村で隠すのは難しいだろう。そうなると、他の村や町の捨て子である可能性が高いなぁ」


「そうなんですか・・・」


「ちょっと近隣の村や町に問い合わせてみるよ。それで・・・先生。非常に申し訳ないんだけど、ナナシ君みたいに援助をするから、身元が分かるまでここで預かってくれないか?」


「・・・俺は構わないが、一番忙しくなるのはサヤだ」


「サヤちゃんはどうだい?手が回らない時は、暇なオバサンとかに手伝いにいかせるから」


「私は大丈夫ですよ」



そういって、この子も診療所の仲間となりました。

名前は先生と一緒に悩んだ挙句に、先生の名前のカミルとサヤから取って、サミャの名に決定しました。ここにいる時の一時的な名前です。


なんか私たちの子供みたいですね、と先生に言うと無視されてしまいました。


サミャはおそらく1歳の男の子。喃語(だぁーとか)一語文(ワンワン)とかを口にします。時々、何かを私にムニャムニャムニャムニャと必死に訴えてきますが、よくわからないのでオムツかえたり離乳食をあげたり、遊んであげたりして対応します。

サミャは本当に木の妖精みたいな子です。髪は赤毛で、目がそれはそれは綺麗な翠で。

私にすぐ懐いてくれました。ポチと共に、おぼつかない足取りでヨチヨチと私について来ます。


こんな平和な毎日が続くと思っていました。







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