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夢の国RPG  作者: 天衝
1/3

trip to dreamland

この作品には、登場人物のセリフに色んな作品(主にドラクエ、FF)などの単語が出てきます。そういうのが苦手な人にはあらかじめ謝罪いたします。


「オイそこ! 眠いからってボケっとすんな!」


 キャプテンの掛け声に合わせて、体育館中に部員の掛け声が響き渡る。かくいう俺もそのうちの一人で、疲労と闘いながらも声を搾り出していた。七月、暑苦しい体育館の中に熱気がこもっている。


「ったく、何でこんな時間にまで……」


 そう言って俺の隣で宗哉そうやがボールを放った。茶色のボールは綺麗な放物線を描き、リングをすり抜けて籠状のネットを揺らした。床についたボールが、鈍い音を出して転がった。

 現在、バスケットボール部の俺たちは合宿を行っている。全五日のうちの四日目の夜、最も疲れきっている時間帯である。そんな中の夜練、疲れていないはずがない。初日や二日目の夜に部屋で遊んではしゃいでいたのが災いして、もはや眠気に負けてしまいそうだ。


「とか言いつつきっちり決めてんじゃねえか」

「まあ、こんぐらいはな」


 こんぐらい、とこいつはあっさりと言ってのけるが、俺たちが立っているのはハーフライン上だ。ゴールまでの距離は大分ある。まあ、熟練の選手なら可能だろうが、俺らはせいぜい高校一年生、それもバスケ歴おおよそ三か月、である。

 神道しんどう 宗哉は俺の幼馴染であり、親友だ。昔から大概のことが得意で、勉強もスポーツもトップクラス、ついでに言うと容姿端麗。そんな訳で女子から大人気、一部の男子からは白い目で見られていた。が、本人に全く女っ気がなく、最近では男子に敵はいない。ちなみに、ついたあだ名は“神童”である。

 それに引き換え俺はというと、昔っから平均的な少年だった。テストをやっても何かスポーツをしても中々パッとしない。かといって別に下手でもない。テストだったら平均点ぐらいだし、五十メートル走だったら、全国平均と誤差百分の三秒。逆に何かの神様に好かれてしまっていそうだ。唯一の救いは妙なあだ名が作られなかったことだと思う。

 そんな俺と宗哉がなぜ、同じ学校に通っているのか。答えは、宗哉が「進学校は詰まらん」と言って周囲の反対を押し切って俺と同じ所を受けたからだ。


「なあ宗哉、どうやったらあんな所に入るんだ?」

「真っ直ぐ放る、そんだけ」

「そんな無茶な……」

「まあ、とりあえずズレがあったら入らねえな」


 一見冷めている宗哉だが、昔からの付き合いからか俺には積極的に接してくる。実際俺自身も宗哉の事は一番の親友だと思っている。そのため、“神道の友達は親友の高木だけ”とか、“実はあいつらホモ”だとか言われたこともある。俺はそんな訳ないと否定するが、宗哉は言いたい奴らには言わせとけ、と放置している。


「やっぱり慣れと練習かぁ……」

「まあ普段通り、タカシンならやりゃあ何とかなるだろ」


 ついでに、タカシンとは俺のあだ名だ。高木(たかぎ) 新羅(しんら)、略してタカシンとなった。


「オイそこ二人! 無駄口叩くな!」


 手を止めて口だけ動かしていた俺達に、先輩から喝が飛んだ。ヤッベーと呟いた宗哉はドリブルをしてレイアップの練習に移る。

 さて、俺もやるかと思って、足元に転がってきたボールを拾い上げようとした時に、それは起きた。


「高木! ボール気をつけろ!」


 後ろの方から先輩の声がしたかと思うと、側頭部に衝撃が走った。痛みはほとんどなく、グラグラと揺れるような衝撃だけが襲ってきた。そして、視界が揺れて少しづつ意識も薄れてきた。それなのに、これはバスケットボールが当たったんだなー、とか悠長なことを考えていると、完全に視界は眩んだ。

 しかし、意識を失ったような感覚は俺にはなかった。ボールが顔に当たって、その勢いでその場にぶっ倒れただけだとその時は感じた。反射的に目を閉じてしまっただけで、それだけだ。実際、その直後に球が直撃したと思われる左側のこめかみやら頬やらに鈍い痛みが走った。

 だが、違和感を感じたのはその直後だ。夜間練習をしていたのは、普通に体育館での話だ。しかし、今俺の身体が横たわっている場所は、体育館の床よりも柔らかく、暖かだと気付いた。清涼な風が突き抜け、揺れた草が俺の顔を撫でたその時、ようやくその違和感が本物だと確信を持った。

 驚いた俺が急いで状態を起こすと、そこにはあり得ない光景が広がっていた。どこまでも広がっていそうな、緑の世界だった。地面は背の低い植物に覆われていて、遠くの方には森が見えた。頭上を、見たことが無いような鳥が飛びながら、甲高い鳴き声を上げている。

 後ろを振り返ってみると、小さな村が目に入った。藁ぶきの屋根の家が立ち並び、牛と思われる生き物が放牧されている。

 他に人がいることに気付いたのは、俺が話しかけられてからだった。


「おっと、最後の一人も起きたね」


 声のした方向に視線をやると、そこには三人の男女が立っていた。二人が男で、一人が女だ。俺より一回り年長の若い男の人と、筋肉質のがっしりした三十代には突入していそうなおっさん、そしてセーラー服を着た女子だ。


「誰、ですか……?」


 俺の口から出た言葉はそれだった。訊きたいことは色々とあった。ここはどこなのか、とか何が起きて自分がこんな所にいるのか、とか。だが、動揺しまくりの俺が最初に尋ねてみたのは、そんな質問だった。

 冷静になってから考え直すとセーラー服を着ているあたり、俺と事情は大して変わらないのだから『なぜ』を尋ねても答えられなかったのだろう。その意味では俺の質問は対して間違っていなかったと思う。


「誰……か。まあ一応自己紹介させてもらうと、羽賀はが 和人かずとだな。インセクターじゃないよ」


 後半の一言は別に求めてもいなかったのだが、彼は淡々とそう告げた。彼がその後に続けた自己紹介で、大学の二回生だとも説明した。ゲーム、アニメ、漫画、小説が大好きでメジャーなものには幅広く手を出しているようで、色んなことをフィクションをパロって説明する癖があるらしい。


神崎かんざき 貴音たかね、十八歳。それ以外の個人情報は秘密でーす」


 そういう風に淡々と名前だけを口にした彼女は、ふざけているのか素でそういう性格なのか、目の横にピースを横にして当てた。現実にこんなんをしてる人を見ると痛いと思うのは俺だけだろうか。


「俺は高島たかしま さとる。運送会社のトラックドライバーをしてる。で、君は?」

「高木 新羅。高一……です」


 この奇妙な状況で自己紹介をしている現状の中、ようやく俺の頭は落ちついてきていた。だが、落ちつけば落ちつくほど、次々と疑問が浮かび上がってくる。

 ここはどこなのか、なぜこんな所にいるのか、だがそれを訊いてみても、彼らは三人とも分からないと言ってのけた。


「俺達だってここがどこなのか知りたいし、何でこんなことになったのかも知りたい。分かっていることは俺達全員、『気を失ったらここにいた』、それだけだ」


 それだけ説明されても、こっちにとってはたまったものではない。余計に頭が混乱するばかりだ。そんな中、俺が導き出した結論は一つ。これは夢だ、きっと夢だ。そんな馬鹿げた話があるはずがない。

 これは夢である、そのように思いこんで安堵していると、急に俺はあることに気付いた。自分の右手が何かを掴んでいる、ということだ。何だろうと思って見てみると、そこには一本の剣が握りしめられていた。

 何だこれはと驚いたが、夢だ夢だと言い聞かせて、落ちついてそれを眺めてみた。紺色が地になっている刀身に黄金色の装飾が施されている。蔦が絡まり合うようなその文様は、それが剣ではなく芸術作品ではないかと思わせるほどである。手が握っている柄部分は、模様のついていない金色の柄である。


「この剣って何なんだろうね。とりあえず起きたら手に持ってたんだけど」


 そう言った羽賀は上にそれを持ち上げて、透かすように見上げながら観察し始めた。彼が握りしめているその剣は、俺が持っているものとはサイズも色も模様も全く異なっていた。

 一応確認してみると、残る二人も同じように剣を持っていて、どれも違った形をしていた。神崎という女子のものは、何の変哲もない形の剣の全身に金メッキを施したようなものだったし、高島というおじさんのものは、俺の身の丈ほどの大剣だった。逆に、なぜこれを見落としていたのだろうかというほどのサイズだ。


「まあ、とりあえずあそこの村に行ってみようよ」


 唯一手掛かりとなりそうなのはあそこだと思ったのか、神崎はそう言った。すぐ近くに見える村に、家畜が飼われているのだから、誰か話を聞けそうな人がいるのではないか、との事である。

 それもそうだと羽賀と高島さんの意見が一致する。が、その瞬間に高島さんの表情が曇った。


「何だこいつら……」


 険しい表情で彼が睨みつけた方角を目で追った。そこには、獰猛そうな灰色の動物がいた。犬、というよりも狼の方が近いだろうか。


「襲ってきそうだね」

「……だったらどうするの?」

これで何とかしろってことじゃない?」


 神崎と羽賀の二人で、闘うという意志が決定したようだ。二人とも目がマジになっている。

 一体こいつらの対応力は何なんだと俺は呆れかえる。よっぽどの天然さんなのか……それとも単に夢の中の人だからなのかな。

 だけど、そろそろ俺も少しその仮定に対して疑心暗鬼になっていた。本当にこれは夢なのか、それとも夢だと思っていたいだけじゃないのか、と。

 狼がそのしなやかな四肢を以て飛びかかってきた。俺は、理性が納得するよりも早くに剣を構えてそいつらを見据えた。

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