賭けの始まり
私は呆れていた。
セイレンと2人で、オルガが渡したリストの人物に聞き込みをしている間、この男はずっとここにいたのだろうか?
深く腰掛けて無表情のオルガはコインの山を創り上げていた。
「3と6」
そう言ったオルガはコインを半分ずつ数字の描かれたマスに動かす。
サイコロを使った簡単なゲームだが、シンプル故に難しいゲームだ。
ディーラーの手から離れたサイコロはオルガが賭けた3の目を出して止まった。
半分は消えたが、もう半分は倍になって戻った。
どよめきが起こる。
どうやら、13回目の当たりらしい。
イカサマでもしてるんじゃないかとも思ったが、そうではないらしい。
もしそうなら、カジノ側が何らかの措置を取るだろう。
「あの男が急いでいたのはこれが理由か。」
呆れたようなセイレンに私も賛同する。
人が苦労してる間に、なんて男だろう。
「おっ、来たか。お疲れ。ちょっと待ってな。」
私達に気付いたオルガが片手を上げた。
言いながらもコインの山を動かしている。
「いったい何をしているんだ?」
「何って賭けだよ。」
「見ればわかる。そういう事じゃない。」
小声で詰め寄るセイレンを、オルガはのんびりと相手にしている。
「そろそろ、か。6と6」
コインの山を、全て6のマスに動かす。
うろ覚えだが、あのやり方は当たれば3倍のはずだ。
真っ青になったディーラーが震えながらサイコロを振った。
1を上向きに落ちたサイコロは台の上で跳ね、6の面を見せて…
ディーラーがふらふらとし出す。
まだサイコロは止まらない。だが、もう結果は見えた。
あたりの野次馬も軽く悲鳴をあげている。
ドン!
台が激しく揺れ、サイコロが1を出して止まった。
いや、揺れたのは台だけではない。
カジノ全体が揺れている。
街が海に浮いている以上、高波で揺れる等は日常茶飯事だが、揺れ方が違う。
これは、砲撃だ!
ドン、ドンという重い響きが連続して鼓膜を撃つ。
「来たか。意外と遅いな。」
時計を見ながら立ち上がると、オルガは私とセイレンの腕をとって足早に歩く。
「お、おい!いったいどこに…!」
「お仕事の本番さ。もとから容疑者の絞り込みは済んでた。お前らが彼らの無実を証明したのさ。」
抗議するセイレンにオルガはそう言って階段を駆け上がる。
「なんだよ、その言い草は。」
(何処かの誰かにそっくりだ…)
「何か言ったかい?」
憤然とするセイレンがこちらを睨む。
声に出したつもりはなかったが、どうやら伝わってしまっか。
今度から気を付けよう。
階段を登り終えるとオルガは一目散に一際大きな扉を蹴り開けた。