ひとつの答え
地下の部屋から出た私達は、ヴァスティとは違うボーイに案内されて、本当の13号室へ案内された。
「さて、早速だが」
「その前にひとつ。」
「なんだい?なんか問題でも?」
セリフを途中で遮られたオルガが訝しげにセイレンに訊ねた。
「おおアリだ。…わたしもこの部屋に泊まらなければならいのか?あなたが指摘した通りわたしは女なんだか?」
睨むようにして答えるセイレンに、オルガはそんな事か、と溜息を漏らした。
「寝る時には俺が結界符を渡すよ。それでいいか?というか、それしか方法が無いんだが。」
「仕方ないか…」
渋々といったセイレンだが、それ以上何か言う訳ではなく、黙って座り直した。
「改めて、早速だが、手分して情報収集をするぞ。方法は各自の自由、夕飯までに集合って事で。」
オルガはそう言うと手早く書類を手渡してきた。
「1枚目が街の、2枚目がカジノの見取図だ。迷った時の参考にしとけ。3枚目が容疑者だ。ヴァスティはピン付けとけ。アイツは違ったからな。」
早口で説明していくオルガは時間を気にしているようだ。
何かあるのだろうか?
「そんじゃ、誰に話聞くかは任せる!」
そう言ってオルガは走りさった。
なんなんだ?
「結局こうなるのか…」
セイレンが少し気落ちしたように呟いたのが聞こえた。
むぅ。
確かにこの組み合わせで動くのは気まずい。
かといって、別れて動くのも場所を考えると控えたい。
よし。
「それじゃ、行こうか?」
私は少しワザとらしいぐらいに明るくそう言った。
「行くって、誰がどこにいるのかも分からないのにか?」
「いつものキミらしくないな。」
「む…何が?」
私の言葉にセイレンはむっとした表情になる。
「オルガがカジノの見取図を渡したって事は、だいたいの容疑者はココにいるって事だろう?別の場所にいるにしても、観光客なら行く場所は限られる。」
得意になって喋る私を不機嫌に睨んでいたセイレンだが、ある程度考えた後でおもむろに立ち上がった。
「わかった。じゃぁ、わたしはカジノ以外の、場所をあたるよ。マレウスはココにいるだろう容疑者を…」
「ちょっと、何を言ってるんだ。私達はココに来るのは初めてで勝手がわからない。下手に分かれるよりは、一緒に行動した方が良いと思うぞ。いつものキミならそう言うはずだ。」
慌てて引き止める私を、セイレンは乱雑に引き離した。
「分からないのか⁈こっちはキミと距離を空けたいって言ってるんだ!まだ告白の答えだって聴いてないんだ。ただでさえやり辛いのに、輪をかけて気が散るんだよ!」
喚くセイレンに対し、私は彼女の肩を掴んだ。
「それなら、聞いてくれ。」
「なっ!」
「私は今まで、セイレン・イルク・ドミナスという人間を『同性の友人』としてしか見ていなかった。だから、キミの告白に対する今の答えはNOだ。」
私の答えを聴いたセイレンは深く項垂れた。
今にも泣き出しそうな雰囲気だが、まだ言わなければならない言葉がある。
「…手を離してくれ」
震える声のセイレンを、私は正面から見つめた。
肩を掴んだ手は離さない。
「手を離せ!」
「ちゃんと人の話しは最後まで聴けよ‼」
暴れるセイレンに私は怒鳴った。
普段は大声など滅多に出さないので、セイレンは驚いたように固まってしまった。
「今の答えは、と言っただろう?私はこの間、やっとキミを女性と認識したんだ。だから…その、なんだ…これからキミの近くで、キミの事を、見てみたい。改めてキミとの関係を築き直したい。」
言った。
私は自分の答えをちゃんと言ったぞ。
なんか、考えていたよりもメチャクチャな感じだが、仕方ない。
もう言ってしまったし。
「それが、答え…?」
「あぁ。」
しばらく黙って考えていたセイレンは唐突に私に顔を近づけた。
「うわっ」
「失礼だな。いいか、よく聞けよ。自分の言葉にきちんと責任を持てな?マレウス。君はわたしの告白を保留したんだ。まったく、ズルいヤツだ。」
いつの間にか、私の肩がセイレンに掴まれている。
「君がそう言うのなら、わたしは待つ。ただし、この街を出るまでの間だ。それまでにはしっかりと答えを出すんだぞ?」
意地の悪い笑みを浮かべるとセイレンは私から離れた。
ドアノブに手をかけて、まだ動けないでいる私を振り返る。
「どうした?誘ったのは君なんだ。ちゃんとエスコートしてくれ。」
少し強引な展開でしたでしょうか?
とりあえず、次からはいよいよ本格的に事件の捜査です。