旅路
部屋に帰った私に一枚の封書がきていた。
捺印されているのは、《宝玉を守る龍》。
蒼海連合の特務監察官の紋章だ。
「なんでまた、こんなのが…?」
疑問に思い、開封する。
入っていたのは、一通の手紙とチケットだ。
『マレウス・ルード様。我々蒼海連合は貴殿の研究成果を高く評価し、ついてはその研究を我々連合の傘下で行われる事を希望する。貴殿にその気があるならば、指定の日時にてサルドの港に来られたし。』
言いたい事だけが書いてあるような手紙を不信に思いつつも、自分が評価されているという一文に、機嫌が良くなる。
蒼海連合といえば、『形なき覇者』と言われるほどの組織。
どうせなら、そういう場所で働くのも悪く無い。
それに、今は少しでもセイレンと離れていたい。
私は決断すると、すぐさま荷造りを始める。
そして…
アルガの月、碧の週。
レトール王国最大の港街、サルドに向かう乗り合い馬車に私は乗っていた。
なぜか目の前には、セイレンが座っている。
どうやら彼女…も蒼海連合からの招待を受けたらしい。
「なぁマレウス。わたしの事は嫌いか?」
「いきなり、何を言ってるんだ?嫌いな訳ないだろう。」
「フフ、不用意な発言は控えるべきだぞ」
薄く笑ったセイレンが何を言っているのか理解出来なかったが、直ぐに理解する。
同時に顔が火照る。
「…答えはでたか?」
私に視線を向けず、景色を眺めたままでセイレンが尋ねた。
私は答える事が出来ず、俯く事しか出来ない。
「人間というのは不可思議な生き物だな。嫌いではない相手をしかし、好きという感情で括る事が出来ない。感情があるが故に、すれ違い、軋轢を生み、憎悪する。でもな、マレウス。わたしは、キミが好きだ。」
セイレンの視線を、私は受け止める事が出来ない。
俯いてばかりの私にセイレンは何を感じただろうか?
乗客が2人しかいない馬車は、街道をゆったりと観光しながら進んでいた。
春を告げるナナリミ花が咲き、甘い香りが満ちていた。