告白
海上都市『ナグリム』
ここは世界中のありとあらゆる娯楽が集まる街だ。
麻薬、賭博、男女対応の娼館、狩り、買い物に美食…
この街では規制という言葉は意味を持たない。
あるのは、欲望と本能だけだ。
私、マレウス・ルードはナグリムに向かう連絡艇の甲板で送られてきた書状を改めて読み直していた。
メルルガの月、黒の週。
学院の卒業を間近に控え、私は悩んでいた。
卒業後の進路についてである。
2つの選択肢が私にはあった。
1つは魔導師ギルドに登録し、学術魔導師として古代魔法の研究を続ける道。
もう1つは、王国軍技術部に入隊し、軍務の傍らで研究を続ける道だ。
どちらも最低限の生活保証はあるが、研究の内容は組織の利権に絡むものが多くなる。
有用性の低い呪文を中心に研究したい私にとっては頭の痛い問題であった。
学院の廊下をセイレンと並んで歩きながら私は考えていた。
「聞いているかい?」
「あ、ごめん、何の話だっけ?」
怒ったようなセイレンの言葉で我に帰ると私は彼に向き直る。
「だいじな話だ。出来ればもう少し人目を避けたい、構わないか?」
いま歩いている回廊もそこまで人がいるわけではない。
よほど大事な話なのだろうと、私は思って頷いた。
しばらく歩き、校舎裏に出た。
ここなら滅多に人は来ない。
「誰もいないな…?」
セイレンはよほど他人に聞かれたくないのか念入りに辺りを見渡している。
「それで、話って?」
「うん、少し突飛な内容だから、よく聞いて欲しい。」
真顔のセイレンに私は頷いて応える。
「実は…その…なんだ…」
途端にそわそわしだしたセイレンの様子を変に思いながらも、私は何も言わずに次の言葉を待った。
「僕は…マレウス。キミが好きだ。…友人としてではなく、恋愛の対象としてだな…」
「ちょっと待った!」
突然の告白に心臓が止まりそうになりながら私はセイレンの話しを遮る。
「セイレン、キミは男だろう?さすがに否定というわけではないが、私にそっちの趣味は…」
「いや、僕は男じゃない。女だ。訳あって男のフリをしてるだけだ。」
苦笑いしているセイレンを私は呆然と見るしかできない。
「キミが?女?」
「気づいてなかったのか⁈マレウス、キミはぼ…わたしのむ、胸を触った事があるだろう?」
「へっ?」
そんな事があったか?
セイレンと出会って以来彼、いや彼女と行動を共にする事は多かったがまったく記憶にない。
「本当に忘れているのか。まったくキミって男は…」
呆れて溜息を吐くセイレンに私は反論する。
「憶えがないんだから仕方ないだろう?…というか、なんで私なんだ?」
「恋愛感情に理屈を求めるのはナンセンスだよ」
すっかりいつもの様子に戻ったセイレンは私の顔をまじまじと見てくる。
「なんだよ」
「答えを聴いていない。聞かせてくれ。」
「…すこし、考える時間が欲しい。」
「そうか。だったら、じっくりと考えてくれ。答えはいつでもいいぞ」
それだけ言って、セイレンは踵を返してしまった。
とり残された私はしばらく何も考える事が出来ないでいた。