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導火線

扉の向こうは会議室だ。

中には既に数人の男女が集まっていた。


「おぉ、監察官殿。やっと来ましたか…先ほどからラッペンの者が…」

「聞こえてますよ。さっさと犯人を引き渡さないと、総攻撃をかけるってんでしよ?全く、わかりやすい脅しをするもんだ。」

入ると同時に駆け寄ってきた初老の男性に、オルガは軽い調子で答えた。

「マレウス、見ろ。」

セイレンが促したので、私は改めて室内を見渡す。

「あっ!」

そこにいたのは、先ほど私達が話を聴いて回った容疑者達だ。

「どうした?」

「いえ、別に。」

「そうか。…さて、お集まりの皆さん。あと小一時間もしないうちにこの街は火の海になる。」

手を叩き、部屋中の注目を集めるとオルガはとんでもない事を口走った。

私とセイレンは思わず顔を見合わせる。

「そんな!それなら早く逃げなければ…」

「おい!船はどうした?!」

「そんな事より、なんでこんな所に集められたんだ?」

騒然とする一同をニヤニヤしながら見渡すと、オルガは部屋の中央に設置された通信球を起動した。


壁に投影されたのは、厳つい顔つきの男性と眼帯を付けた女性だ。

「始めまして。ラッペン海軍のバンバレル将軍にアイレ准将ですね?」

「いかにも。キミは誰かな?」

オルガがバンバレル将軍と呼んだ男性は深い渋みのある声でそう訊き返した。

「失礼、俺は蒼海連合のオルガっつうしがない役人です。一応、今回の件の代理を任されてましてね。」

その答えに、バンバレル将軍は身を乗り出した。

「という事はキミが、かの有名な特務監察官か?」

「はい。そうなりますね。」

いつの間にか取り出したコインを弄びながらオルガは笑っていた。

「自己紹介はそれぐらいで。わざわざ通信を入れたのは雑談をするためでは無いのでしょう?」

アイレ准将はオルガに対して不快感を露わにする。

まぁ、口調や態度から察するにオルガのような人間が根本的に嫌いなのだろう。


「そちらの言い分だと、例のミサイルを盗んだ犯人をこちらが匿っているとの事ですが?」

「情報部からはそう聞いている。」

「なるほど。では…元ラッペン技術部所属、オリファントさん。あなたは自身を不当解雇したと、ラッペンの軍部に恨みを持っていましたね?」

突然話を振られたハゲ頭の男性は酸欠の魚のように口をパクパクと動かすしかできなかった。

「セイレン。キミは彼から話は?」

「聞いた。…僕の見解では彼は違う。バクレウスもだ。」

オルガの確認にセイレンは首を振って答えた。


その様子をバンバレル将軍とアイレ准将が不思議そうに眺めている。

「理由は?根拠はどこから?」

アイレ准将の追求に、セイレンは堂々と答えた。

「なぜなら、彼らには魔法の心得が皆無だからだ。まったく、両人とも逆恨みも良いところだ。少なくとも、認めたオリファント氏はまだマシだが」

「なんだと⁉」

肩を竦ませて答えるセイレンに、バクレウスが噛み付きそうな勢いで立ち上がった。

彼は割腹の良い紳士で、オリファントと同じくラッペンの元技術者だという。

「ワシに魔法の心得がないとはどういう事だ。ワシはレトール王立魔導学院の…」

「校長の名前は?」

「は?」

今度は、私が質問する。

こればっかりは私も黙って見ておく訳にはいかない。

「な、何を言っておるのだ?が、学院の校長はキミらとワシでは違うで…」

「と、いうわけで、彼は正規の方法で魔導師になったわけではない。多少の知識はあれど、他人の記憶を操作したり、ましてや一国の軍事組織に潜入するなど不可能だ。」

断定するセイレンにバクレウスが抗議の声を挙げた。

ご丁寧に机を殴りつけて怒りを表している。

少し憐れに思いながら私は説明した。

「ここ50年、校長は変わっていませんよ。残念ながらレトール王立魔導学院の校長は国王が行っているので。」

「なっ?!」

「魔導師の常識です。ラッペンの場合はあそこにいるアイレ准将の父上、マゾード宰相が務めていらっしゃる。」

机の端に座っていたヘルガ・ディーノの警備部長がそう補足した。


「続いて…面倒だな。セイレン、マレウス。任せた。」

コインを放り投げて、オルガが机に腰掛けた。

行儀悪い事甚だしいが、立場が立場なので誰も注意できない。

2人を除いて。

「なんて奴だ。少しは仕事に責任を持て。それと、机に座るな。」

「その意見には激しく同意いたします。私の精神衛生の為にも、椅子に座って下さらないかしら?」

セイレンとアイレ准将に嗜められ、オルガは渋々場所を変えた。

オルガが椅子に座ったのを確認するとアイレ准将は満足気に頷いた。

「感謝します。ところであなたは?」

「不本意ながら彼の助手であるセイレンです。こっちは相棒のマレウス。オルガが職務放棄したので、僕たちが引き継ぎます。問題は?」

「構わんよ。続けたまえ。」

バンバレル将軍に許可を得て、私とセイレンは前に出た。

結局、こうなるのか。


「僕はオルガのように周りくどいやり方は嫌いなので、短刀直入に言います。今回の件、あなた方の自作自演なのでは?」

セイレンの一言に、空気が一瞬で凍り付いた。

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