07 プリンスの悲劇
シアーズの目が見開かれた。
「どういうことだ……」
ローランド卿が目を伏せる。
「シアーズ伯爵は、何よりも血統を重んじた。対してローランド卿――私の義父上――は、身分の低い私を養子にした。ローランド卿は位が高かったから、後を継げば、必然的に私も位が高くなる。シアーズ伯爵は、私が権力を持つことを恐れた。そして殺そうとした。だから私は伯爵を殺したんだ。自分が殺される前にな」
「海賊を使って……?」
シアーズの声が震える。
「だが先に海賊を呼んだのは伯爵だ。伯爵は海賊に船を襲わせ、事故として私を殺そうとした。私はリーガに頼んで、全く同じ方法で伯爵を殺しただけだ」
シアーズは剣を拾い、立ち上がった。
「まだやるのか……今のお前に勝ち目はない」
ローランド卿は冷たく笑った。
「ウィル、お前は……俺も殺すつもりだったのか?」
一瞬時間が止まったかのような錯覚を覚えた。ローランド卿はびっくりした顔をしたが、すぐにふっと笑うと、嫌味ったらしくシアーズを見た。
「さあ……どうかな」
「いずれにしろお前は、俺を反逆罪で殺す気なんだろう」
シアーズは顔を上に向けて続けた。
「だったら……」
ローランド卿の顔を見つめ直し、シアーズはふらつきながらリーガの横へ移動した。
「俺はこっちにつくぜ」
リーガとローランド卿はゼンマイのきれた人形のようになった。だが、リーガはすぐに、にやっと笑った。
「何で……裏切るのか!」
ローランド卿が焦ったように言った。自業自得だとでも言いたげに、シアーズは鼻で笑った。
「先に手を下したのはお前だ」
「そいつは海賊だぞ……それに、部下はどうする気だ!」
「悪いが、俺の信じるものはすでにこちらにあるようだ」
リーガが二人の間に割って入った。
「見たかアルバ、全ての結末がこれさ」
「アルバ……?」
シアーズがリーガの顔を見た。心底うれしそうな笑いを浮かべている。海賊を恐ろしい目で睨み、黙れ、とローランド卿が声を絞りだした。
「ウィリアム=ローランド卿なんて名乗っちゃあいるが、こいつの本当の名前は、アルバ――。」
「黙れ!」
リーガの声は、ローランド卿の叫び声に掻き消された。




