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十字架を架ける 【蒼碧の鎖-2-】  作者: 沖津 奏
第2章 影を知った
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06 嘘に酔わされて

「お前、あの時の生き残りか?全員殺したと思ったのに」

 そう言うとリーガはローランド卿を見た。

「シアーズ伯爵とそのガキは、自分で片付けると言ったんじゃなかったのか。話が違うぜ、中将さんよ」

 リーガはローランド卿の顎の下の板に剣を刺し、てこの原理で無理矢理顔を上げさせた。刃に触れた部分から血が滲む。ローランド卿は何か呻いている。

「殺した……?じゃあ、お前が、リーガ!」

 シアーズは剣を握る手に力を込め、今にも走り出しそうだ。リーガを睨み、感情をあらわにする。そんなシアーズに右掌を見せ、動きを制した。

「まあ待て、シアーズ君。確かに俺はリーガだが……君は一つ、大きな誤解している」

「そんなわけない!」

 シアーズが叫んだ。リーガは呆れたように彼を見た。

「あんた、何も知らないのか?知らずにこいつについて来たのか?シアーズ伯爵を殺したのは……この裏切り者だぞ」

 シアーズが目を見開く。

「嘘だ!ウィルがっ……!」

 リーガはシアーズにきちんと向きなおって続けた。

「信じる信じないは勝手だが……なあ、シアーズ君よ」

 そう言って、ぼろぼろの緑の帽子のつばに手をかけた。金貨が音をたてる。

「俺は確かにあくどいやつだ……人をだますし、犯罪なんて平気だ。だがこればっかりは海に誓ってもいいぜ、俺達海賊は利用された。そして、シアーズ伯爵はこいつが殺した」

 シアーズの方にゆっくりと歩いて来る。シアーズは気圧されて、剣を降ろして二、三歩退いた。

「あいつは誓えるかな?」

 鳥肌の立つようなリーガの言葉。シアーズは焦ってローランド卿を見た。

「ウィル!嘘だろう!?なあ、何か言えよ!」

 ローランド卿はいつの間にか壁に寄りかかって座っていた。リーガに殴られたのか、口許が腫れている。彼はゆっくりと口を開いた。

「悪いな……海には誓えない」

 顔を上げ、諦めたような微笑みを浮かべている。

 一瞬呆けたようになったが、シアーズの顔がひきつった。ローランド卿は、壁に手をついて立とうとした。

「お前が……父上を……」

 剣を構え直し、ローランド卿に向かって走って行った。

「殺してやる!」

 リーガは止めようか迷った手を下に降ろした。ローランド卿は冷静に、しかし鋭く軌道を見極め、一撃で剣を振り払った。衝撃で、シアーズの手から剣が吹っ飛び、彼は無様に尻もちをついた。暫く間があって、その体勢のまま右手でゆっくりと顔を覆った。

「何で、殺した……」

 ローランド卿は険しい顔をしていた。憐れみのような、しかし怒りの混じった表情だ。リーガにつけられたのであろう傷が痛々しい。そしてゆっくりと口を開いた。


「私が生きるためだ」


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