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十字架を架ける 【蒼碧の鎖-2-】  作者: 沖津 奏
第2章 影を知った
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05 因縁の渦

 双方の船体が揺れる。ファントム=レディ号から海賊達が、ロープをつたって襲撃してきた。たちまち煙と、わずかな血の臭いが充満する。シアーズはこの臭いが苦手だった。臭いだけではない。何人もの怒声に似た叫び声が、静かだった大気を切り裂いた。エンプレス号に乗り移ってきた海賊が、次々に向かってくる。さすが命を懸けて海で生きているだけあって、強い。だが、自分だってこんなところで死ぬつもりはない。本当に殺したいのは、キャプテン=リーガだ。

 煙る視界にうんざりしながらふと階段の方を見ると、ローランド卿が深緑の服を着た海賊と一緒にいた。ローランド卿は座り込み、喉に剣を突き付けられている。何を話しているのか分からない。が、海賊がいきなりローランド卿の腹を蹴った。かがみこんだローランド卿の腕を掴んで引きずるようにして、リーガは階段を上って行った。階段の上から兵が斬りかかったが、あっさりと払われ、逆に殺されてしまった。なんて残酷なことを。

「閣下!」

 ローランド卿を呼んでも、彼はぐったりとしたまま動かない。もしかして、あれがキャプテン=リーガ?シアーズは追いつこうと走り出したが、他の海賊に行く手を阻まれた。


 リーガは倉庫らしい小部屋の扉を荒々しく開けると、ローランド卿を突きとばした。抵抗できずに、彼はもろに壁にうちつけられた。呼吸が苦しくなり、力が入らない。為す術もなくそのまま床にうつぶせに倒れた。リーガが歩み寄り、足で肩を踏みつける。ローランド卿は薄目を開けて海賊を見た。

 所詮、海軍で育ってきた自分とは経験が違う。いつもこんなことをしている奴に、敵うわけがない。

「この裏切り者め……仲間を売って、自分は貴族暮らしってか?」

 踏みつけるリーガの足に力が入る。ローランド卿がせき込んだ。口を切ったようだ。血の味がする。『仲間』という言葉に、一気に頭が熱くなる。


「動くな!」

 いきなり扉の方から声がした。リーガが振り向いた。ローランド卿も視線だけ動かして、声のした方を見た。

 シアーズが剣を構えて立っていた。息使いが荒い。左頬に切り傷があった。だが、いつでも攻撃できる体勢だ。リーガは面白そうに低く笑った。

「ほお……俺に剣を向けるとはいい度胸だ。小僧、名前は?」

「シアーズ。アート=シアーズだ」

「シアーズ……?」

 海賊は眉をひそめた。そして、納得したように頷き、ローランド卿を見下した。

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