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十字架を架ける 【蒼碧の鎖-2-】  作者: 沖津 奏
第2章 影を知った
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04 深緑の海賊

 あれから数年後――。

 海は濃い青を、絶えずうねらせていた。雲の切れ間から、太陽の澄んだ光がまるで幕のように降り注いでいる。雲の縁は、光に縁どられていた。


「閣下、準備が整いました」

 一人の若い将校が、城壁の上から水平線を眺めている男に声をかけた。

「ご苦労、今行く」

 閣下と呼ばれた男が海を見たまま答えた。海軍中将の士官服を着て、長い黒のコートを羽織っている。一つに束ねられた長い黒い髪が、潮風になびいている。黒髪の男がゆっくりと振り返る。そして、声をかけた将校に微笑みかけた。

「久しぶりの戦になるな。ぬかるなよ」

 準将の士官服を着た金髪の男が微笑み返す。

「はい……ローランド卿」

 アート=シアーズ、あの少年だ。今は身長も伸び、その眼には海賊と戦える喜びが湛えられていた。父の仇を。


「レディを見つけた、リーガの船に間違いない」

 ローランド卿は望遠鏡で遠くの船を確認した。薄汚れた黒っぽい船体に、穴の開いたくすんだ白の帆。見るからに怪しい海賊船だ。舳先には、右手を上へ差し出している女神の彫像があった。

 出港して七日目だ。わりとすぐに見つかった。本当はきちんと帆を畳んでから戦いたいが、リーガのことだ。絶対にそんなことはさせてはくれないだろう。

 ローランド卿が部下を呼びつけ、砂を撒いておけと命令した。緊張が走り、船の上が騒がしくなる。

「戦闘準備だ。速度を上げて、追いつけ」


 一方、リーガの船、ファントム=レディ号の乗員も、戦闘態勢に入っていた。その騒がしさを背景に、リーガは望遠鏡を片手に海軍船の上を眺めていた。ローランド卿を見つけ、口笛を吹く。

「こりゃあ驚いた。裏切り者じゃねえか。プランスの身分を捨ててまで海軍なんかに入りやがったガキめが。ちったあ痛い目見ねえと分かんねえみてえだな」

 リーガがしわがれた声で、白髪交じりの銀色のもしゃもしゃした髭を弄びながら言った。とても楽しそうだ。深緑のつば広の帽子には、ダチョウの羽飾りと、いろんな国の金貨がリボンのようについている。コートも帽子と同じ色味だが、どこかの貴族が使っていた物だろうか、縁には銀の糸で立派な刺しゅうがしてある。しかし、どれも汚い。ダチョウの羽に至っては、手入れをしていないせいで、毛が貧相にまとまっている。年齢のせいか、顔にシワがあり、日焼けしてシミがある。右目には縦に傷があった。青い色をした目は見えるようだ。

 リーガはまだローランド卿を見ていた。すると、彼の隣に金髪の海軍将校がやってきて話しかけているのが見えた。リーガが首を捻る。

「どっかで見た顔だ……」

 ひとしきり考え、リーガは望遠鏡を下ろした。そして、肩を震わせて笑い出した。

 揺れる水面を乱しながら、もう少しで船が並ぶ。ファントム=レディ号は針路も変えず、わざと速度を抑えて、海軍と戦うつもりのようだ。

 緊張が張り詰める。ただ、波の音と船の軋む音だけが聞こえる。双方のクルーに、不安の色が見える。

 そして、どちらからともなく聞こえた。



「Fire!」




 作中の「プランス」は、フランス語的な発音の「Prince(王子)」だと思って下さい。カタカナ表記って・・・。


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