21 お手をどうぞ
ローランド卿は戸惑ったような顔で帽子を取った。唇を噛む。
しまった……ここから先は、スペインの領海だ。下手に艦隊に出て来られたら、こんな装備では消し飛んでしまう。くそっ、罠だったか……。
頭に血が上っていて気付けなかった。なんてざまだ。彼は大きく溜め息をついた。そして力なく言う。
「引き返すぞ……」
エンプレス号が向きを変えて引き返すのを確認すると、シアーズの部下は非常に喜んだ。皆、激しく戦わなくて済んだことに安堵していた。
その去りゆく船の上から、ローランド卿は小さくなっていくシアーズの船を望遠鏡で確認した。
あの方角……ロン島、リクリスに向かうのか。一度探ってみる必要があるな。しかし、今日の奴の船はレディじゃなかった。あれは……カニバーリェス卿の、『デイジー夫人』号のようだったが……でもカニバーリェス卿はあの船に大事な物を乗せているし、簡単に盗られるわけがないか。ただの思い過ごしか。
望遠鏡を懐に仕舞うと、彼はそれ以降海の向こうを振り返ろうとはしなかった。
スペイン領に入ってかなり経った頃だ。安心したせいか、そろそろ腹も空いてきた。そんなことを考えながらシアーズは舟歌を歌っていた。
「キャプテン、この船、どうします?」
クルーが笑顔で尋ねてきた。
「ああ……。リクリスで修理してカニバーリェスに返すか、紳士らしくな」
了解、とクルーが返す。続けて、彼は控えめに尋ねてきた。
「ところで……あの箱には何が入ってたんです?」
あれは開けない方がよかったかもしれない。思い出し思わずシアーズは声を上げて笑ってしまった。クルーが不思議そうに船長の顔を見た。すまない、とシアーズは一言呟いた。
「この船の修理代と、手紙だった」
「手紙?」
クルーがますます不思議そうな顔をして首を捻る。だが、シアーズは何も言わなかった。クルーも詳しくは聞こうとはせず、そのまま持ち場へと戻っていった。
何でカニバーリェスも、あんな所にそんなものを隠すのか。ご丁寧に鍵までかけて。宝物と同じ、か。シアーズは微笑んだ。
一言つっこむと、他人の金でその人の物を修理して返すのは紳士じゃないと思う。




