19 片翼の鳥
ネタバレですが、少しでも女装ネタとか無理、な方はご遠慮下さい。そこまで生々しくはないですが・・・。
「俺は男とキスする趣味はない!」
「えっ!」
この声――。
「おまえっ……ローランド……」
シアーズは口をぱくぱくさせた。次の瞬間、一つの言葉が思い浮かぶ。ためらいもせずに彼はそれを口に出した。
「変態」
「違う」
すぐ返ってきた。少しの間、奇妙な沈黙が流れる。
ローランド卿は真珠の髪飾りを外しながら喋り始めた。
「任務だ、馬鹿者」
「ああ……」
だよな、こいつに限ってそんなことあるわけないと思っていたが。よかった。すごくよかった。安心した。それにしても、「ああ……」だなんて、なんて間抜けな己の声。何が「ああ」だ。
一人で考えていると、ローランド卿がシアーズを呼んだ。
「といわけで、何か着るもの寄越せ」
「何で!」
「私にこのままでいろというのか!」
理不尽な要求に反論したら、自信満々に答えが返ってきた。シアーズは思わず頭を抱えそうになった。
「知らねーよ!っていうか……男しかいないんだし、裸でいいんじゃねーの」
暫しの沈黙。
「それもそうか」
「分かったよ、やればいいんだろ!ほら!」
本当にこいつは予想の斜め上を行ってくれる。沈黙して納得することじゃねえだろ。シアーズは少しいらついた。
イギリスへ船を進めて数日後、港が見えた。商船が多く、辺りには海軍の船も見える。ファントム=レディ号はリーガから奪ってから、スペイン領の辺境の島、ロン島で商船風に改装した。まだ新しいので、海軍に遠くから気付かれることはないだろうが、近くに行って証書も何もなければ捕まってしまう。だいたい、商船を装ってはいるが、自分を含め、クルーの格好が釣り合っていない。これ以上は近寄れない。
「港だ。ここからは自分で泳いでいけ」
以前はあんなにもよく使っていたこの港。今は遠すぎて近づけない。
「何で殺さなかった。見殺しにもできたのに。あのままだったら、俺はスペインに捕まっていた」
シアーズはきょとんとした。
「俺は卑怯者じゃないからな」
「シアーズ……お前は何なんだ」
よく分からない問いに、ふっと笑って答えた。
「お前と一緒だ」
良く分からない答え。だけど、それはお前が一番よく知っているだろう?そう聞きたかった。もう聞けないくらいに距離がある。お前と俺はいつだってよく互いのことを知ってたはずだったのに。海軍にいた頃はいい組み合わせだったのに。もう分からなくなってしまった。
ローランド卿はそれ以上何も言わずに、左手をじっと見つめ、目を閉じた。
泳いで港まで行くしかないのだが、思ったより水が冷たかった。仕方ない、と手足に力を込めたら、上からシアーズの声がした。
「ローランド」
何だ、と寒さに声が震えるのを隠して応えた。すると、木霊のように返ってきた。
「 」
最後の「」は誤植じゃありません。シアーズ君は何て言ったのでしょうか。
次回、ふた月後のお話です。二人の対立の結末は・・・。




