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十字架を架ける 【蒼碧の鎖-2-】  作者: 沖津 奏
第4章 薔薇の嘲笑
19/23

19 片翼の鳥

ネタバレですが、少しでも女装ネタとか無理、な方はご遠慮下さい。そこまで生々しくはないですが・・・。

「俺は男とキスする趣味はない!」

「えっ!」

 この声――。

「おまえっ……ローランド……」

 シアーズは口をぱくぱくさせた。次の瞬間、一つの言葉が思い浮かぶ。ためらいもせずに彼はそれを口に出した。

「変態」

「違う」

 すぐ返ってきた。少しの間、奇妙な沈黙が流れる。

 ローランド卿は真珠の髪飾りを外しながら喋り始めた。

任務スパイだ、馬鹿者」

「ああ……」

 だよな、こいつに限ってそんなことあるわけないと思っていたが。よかった。すごくよかった。安心した。それにしても、「ああ……」だなんて、なんて間抜けな己の声。何が「ああ」だ。

 一人で考えていると、ローランド卿がシアーズを呼んだ。

「といわけで、何か着るもの寄越せ」

「何で!」

「私にこのままでいろというのか!」

 理不尽な要求に反論したら、自信満々に答えが返ってきた。シアーズは思わず頭を抱えそうになった。

「知らねーよ!っていうか……男しかいないんだし、裸でいいんじゃねーの」

 暫しの沈黙。

「それもそうか」

「分かったよ、やればいいんだろ!ほら!」

 本当にこいつは予想の斜め上を行ってくれる。沈黙して納得することじゃねえだろ。シアーズは少しいらついた。


 イギリスへ船を進めて数日後、港が見えた。商船が多く、辺りには海軍の船も見える。ファントム=レディ号はリーガから奪ってから、スペイン領の辺境の島、ロン島で商船風に改装した。まだ新しいので、海軍に遠くから気付かれることはないだろうが、近くに行って証書も何もなければ捕まってしまう。だいたい、商船を装ってはいるが、自分を含め、クルーの格好が釣り合っていない。これ以上は近寄れない。

「港だ。ここからは自分で泳いでいけ」

 以前はあんなにもよく使っていたこの港。今は遠すぎて近づけない。

「何で殺さなかった。見殺しにもできたのに。あのままだったら、俺はスペインに捕まっていた」

 シアーズはきょとんとした。

「俺は卑怯者じゃないからな」

「シアーズ……お前は何なんだ」

 よく分からない問いに、ふっと笑って答えた。

「お前と一緒だ」

 良く分からない答え。だけど、それはお前が一番よく知っているだろう?そう聞きたかった。もう聞けないくらいに距離がある。お前と俺はいつだってよく互いのことを知ってたはずだったのに。海軍にいた頃はいい組み合わせだったのに。もう分からなくなってしまった。

 ローランド卿はそれ以上何も言わずに、左手をじっと見つめ、目を閉じた。


 泳いで港まで行くしかないのだが、思ったより水が冷たかった。仕方ない、と手足に力を込めたら、上からシアーズの声がした。

「ローランド」

 何だ、と寒さに声が震えるのを隠して応えた。すると、木霊のように返ってきた。

「              」


最後の「」は誤植じゃありません。シアーズ君は何て言ったのでしょうか。

次回、ふた月後のお話です。二人の対立の結末は・・・。

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